第22話 成長
不甲斐ない。一人で斃すと息巻いていながらこの様だ。
変異体の速度にまるでついて行けてない。菖蒲が戻って来ているのが見えた。二体いたうちの一体はすでに菖蒲が斃している。
実力差があるのはわかっていたけど、勝てないのはわかり切っていたけど、こんなにも差があるのかと思うと自分の弱さが情けなくなった。
いいや、感傷に浸っている場合じゃない。
朽壊刃衣はすでに度重なる攻撃で半壊状態にも関わらず、こちらは一撃も与えられていないのが現実だ。
現状を打破するために俺がするべきことは変異体の速度に適応すること。
そうとわかっていても――
「くッ!」
振るわれた鉄の爪を剣で受け止める。
その瞬間に朽壊刃衣が刀を振り下ろすも、その頃にはすでに僕から遠く離れている。朽ちた刀は結晶の地面を割るだけ。
先ほどからずっとこれの繰り返しで一歩も前に進めていない。
僕の弱点は僕自身。
僕が朽壊刃衣の足を引っ張っている。
菖蒲のように僕自身も強ければ、変異体にも、思念体にも、あんな無様な姿を晒すことなんてなかったのに。
大きな衝撃が朽壊人衣を襲い、朽ち果てた鎧の破片が落ちる。
朽壊刃衣は膝を突き、それでも刃毀れした刃を振るった。
当たりはしなかったが。
「落ち着け、僕。まだ負けたわけじゃない」
閃姫に負けてからずっと魔術の技術を磨いてきた。
朽壊刃衣の耐久力も上がったし、膂力も向上している。
いま閃姫と戦っても、あんな風に一撃で壊されることはまずないと思えるくらいに。
なのに、思念体の格下でしかない変異体にすら勝てない。
「そう言えば……」
菖蒲は言っていた。僕はまだ朽壊刃衣の能力を引き出し切れていない、と。
技術が上達して朽壊刃衣は強くなったが、正直それもすでに頭打ちで限界を感じている。けど、それでも菖蒲は同じことをまた僕にいった。
菖蒲が言っていたことに別の意図があったとしたら? 僕はなにかを間違えている? 僕の先天魔術八百御霊。霊を調伏し、召喚し、共に戦うことのなにが――
「共に、戦う」
直感が告げる。いま思い浮かべたそれが正しく、まさしく正解だと。
朽壊刃衣に刀を振るわせ、一度変異体を振り払い距離を稼ぐ。
同時に、朽壊刃衣を解体した。
砕け散る刀と鎧。
その只中で朽壊刃衣を再調伏。召喚条件を書き換え、再施行。
この身は闇に覆い尽くされ、僕自身を朽ち果てた鎧が包む。
「これが僕の答えだ」
ただ召喚するのではなく、僕自身に憑依させた。
遠隔操作ではなく、一つの肉体を共有することで朽壊刃衣の能力すべてを解放する。
握り締めた刃毀れした刀を構え、変異体を見据えて地面を蹴った。
§
「勝負ありだ」
繰り広げられる剣撃の応酬は、朽ちた鎧を纏った美里に分がある。
変異体の速度に適応し、それを上回り、振るった刀の剣速は標的を捉えて逃がさない。
自らが鎧武者になることで弱点を克服し、朽壊刃衣の潜在能力を遺憾なく発揮する。
これが美里の先天魔術八百御霊の本領。
もはや変異体如きは敵じゃない。
「ふぅー……」
「美夢さん、安心したようですね。表情が柔らかくなりました」
「まぁね。もう何度、割って入ろうかと思ったことか。我が弟ながらヒヤヒヤさせるんだから、まったく」
「でも、ここから動かなかったってことは信じてたんだろ? 美里のこと」
「……そうね、今回で美里は間違いなく成長したわ。邪魔しなくて本当によかった」
俺や唯名と比べて血の繋がった美夢の心労は察するにあまりある。それでも美里の成長のために踏み止まった。
その忍耐の強さには関心する。不安でしようがなかっただろうが、それもこれまで。
刃毀れした刀の一閃が鎧を斬り裂く。
斜めに分断された胴体は液体金属でも接合することは不可能だ。
鎧が液体に戻り、銀に紅が混じる。
同時に二つの肉塊が霞となって消失した。
美里の勝ちだ。
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