第19話 銀色

『うーす』

『唯名ちゃんがいる!』

『いつメン入りか』

『あれ、ここ二十階層じゃない?』

『砂城すげー』

『いいアングルしてる』

『ホントだ。なんで今更こんな低難易度の階層に』

『いや、感覚麻痺してるけど十分難易度高いぞ。配信者で二十階層まで来られる奴多くないからな?』

『まぁ、ほとんどの配信者が十階層の辺りを行ったり来たりしてるだけだからな』

『軽く斃してるけどホントは三十階層以上の思念獣なんて有象無象の配信者が束になっても勝てん相手やぞ』


 第二十階層は砂塵と日差しの影響で機材トラブルが多いと聞くけど、配信は無事に続いている。

 コメントの読み上げ機能も絶好調。事前に対策しておいたお陰だ、このままで大丈夫そうだな。


「はい、注目。もう気がついてるリスナーもいるでしょうけど、今回はここ! 第二十階層、不変砂城に来てるわ! なんで今更って思うでしょう? 実は冒険者組合のほうから正式な依頼が来たの!」

『冒険者組合から!?』

『案件じゃん』

『直々にか、凄い』

「まぁ、依頼されたのは菖蒲個人なんだけど……ともかく! 依頼内容は変異体の討伐よ! 最近この辺りの階層を荒らし回ってる思念獣を討伐するわ。討伐するまで終わらないから、みんな覚悟しなさい!」


 恒例となった美夢の挨拶も終わり、砂漠に足跡を刻みながら進む。


「冒険者組合の資料によれば変異体の近くには銀色の液体が撒き散らされてるらしい」

「銀色の液体……体液だよね。もしくは……水銀?」

「現在、成分を分析中だそうだ」

「とりあえず、銀色を探せばいいってわけ」

「銀色。キラキラ光っているのなら、この階層では見付けやすいかも知れませんね」

「この階層で見付かったら見付かったで、それは問題よ。耐久配信って銘打ってるんだから程よく長引いてもらわないと」

「なぜ自らそんな苦行を」

「配信者の性よ、性」

「あ」

『ん?』

『あ』

『お?』

「どうした? 唯名」

「いえ、その」

「なによ? はっきりしないわね」

「言って良いものかわかりませんが、見付けました。銀色」


 指差された先に目を向けると、遠くに銀色に光り輝くなにかを見た。


「いやいやいや、嘘でしょ? そんな都合良く見付かるわけ」

「変異体の痕跡だったら企画倒れもいいところだね」

「どーか、別のなにかでありますように!」

「何に祈ってるんだ? それ」

「撮れ高の神」

「祈りが届くといいですね」


 しかしながら美夢の祈りは撮れ高の神には通じなかったようだ。

 銀色の輝きに近づくと、それはやはり液体だった。

 広範囲に撒き散らされていて、一部は砂をコーティングしている。

 間違いなく変異体の痕跡だ。


「まだ砂に染み込み切ってない。ってことはいるね、近くに」

「嘘でしょ」

「まぁ、見付からずに延々とぐだるよりはマシだろ」

『企画倒れ確定』

『通常配信かな?』

『お、早く終わりそうでよかったな!』

「ぐぬぬ……」


 冒険者としては仕事が早く終わるに越したことはない。そのほうが事態も早く終息するし万々歳。

 だけど、配信者としてはそうもいかない。あまりにすんなりと終わってしまうと配信として撮れ高がなくなってしまう。

 日々、何万という人間が俺たちの配信を見に来る。わざわざ時間を空けてまでだ。

 そんな人たちを満足させるため、見に来てよかったと思わせるため、美夢はいつも頭を悩ませている。

 今回はそれが裏目に出てしまったが、これはもうしようがない。

 俺たちも変異体を見付けるのに何日かかかると思っていたし、そのための準備もしてきている。簡易テントや暇潰しのための道具、水に食糧、着替えなどなど。

 足りないよりはいいけど余りすぎるのも考え物だ。

 運が良すぎたな。


「はぁ……しようがないわね。企画倒れになったけど、事態が早く終息するのはいいことだもの」

「銀色の液体はあちらへ続いているようですね。見晴らしはいいのにそれらしい姿は見えませんが」

「もう次の階層に移動したのかも知れないね。どっちにしろこれを追っていけば見付かるはず」

「よし、じゃあさっさと追い付こう」


 美里の予想通り銀色の液体は次の階層まで続いていた。

 追い出された訳でも、迷い込んだわけでもなく、自らの意思で階層を渡る変異体。その尻尾を掴んだ。

 一番の難関があっさりと終わりを告げ、あとは見付けて討伐するのみ。

 今回は美里に変異体を任せる約束だ。二人にも話を通してある。

 さて、美里は変異体に勝てるかな。

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