第18話 相談
変異体のことを美里に話すと、美夢の言った通り二つ返事で了承した。
唯名にも事情を話してスケジュールを再度調整してもらい、次の配信内容と日程が確定する。
まず捜索するのは第二十階層、
浅い階層なだけあって生息する思念獣は弱い部類だが、第三十階層までの思念獣が入り乱れている関係上、どの階層であっても第三十階層と同レベルの警戒が必要だ。
階層渡りが更に幅広く発生している可能性もある。
油断は禁物だ。
ということがあって、配信当日。
第二十階層、不変砂城は過酷な環境が形成されている。
対策魔術は必須で身に纏う戦闘服に仕込んであり、第二十階層では常にその効果を発揮することになる。
動作確認も昨日のうちに済ませたし準備は万端、忘れ物もない。
家を後にするとその足でいつものように空を飛び、ダンジョンと自宅を一直線で結ぶ。十数分ほどで現地に到着し、一番乗りに成功した。
「ちょっと早く来すぎたか」
まだ集合時間には早い。
「その辺の施設で――」
「菖蒲」
時間を潰そうとしたところ、振り返ると美里がいた。
「いたのか、まだ早いのに」
一番乗りかと思ったけど違ったか。
「美夢は……いないのか?」
「あぁ、姉貴はまだだ。実は菖蒲に相談があって一人で先に」
「へぇ、珍しい。じゃあ、ちょっとそこで話そうか」
ダンジョンの周辺施設である休憩所には無料のドリンクバーが設置されている。
そこで適当な飲み物を紙コップに注ぎ、奥の方の席につく。
「それで?」
「変異体と一人で戦わせてほしい」
「そうか」
「そうか?」
「美夢の予想通りってこと」
これも美夢の言った通りだったりする。
血の繋がった姉弟とだけあって思考回路は筒抜けだ。
「姉貴か、なるほど……」
「自信はあるのか?」
「もちろん。と、言いたいところだけど正直勝てるかどうかはわからない。未だに夢に見るんだ。僕の魔術がまったく通用せず、敵としてすら見られなかったあの時のことを」
「でも、一人で戦うのか」
「一人で戦いたい。こうでもしなきゃ一生、あいつに――閃姫に勝てない気がする」
美里の実力は閃姫に敗北してから確実に上がっている。
朽壊刃衣の能力を十分に引き出せつつもあるし、何より強くなろうという意志が強い。明確な越えるべき目標を見付けてそこへひた走っている。
だけど問題は手痛い敗北を喫したこと。
あれのお陰で美里は伸びたが、あれのせいで今一歩成長し切れていない。
敗北のイメージが成長を鈍化させている。それを払拭できるかも知れないという意味でも今回は良い機会になるのかもな。
「わかった」
「本当か?」
「本当だ。でも俺が無理だと判断したら即介入するから、そのつもりで居てくれ」
「わかった」
失敗しても最後には俺に助けて貰える。
この状況は美里にとって、だが身が引き締まるものだろう。
ここで自身の不甲斐なさが故に敗北を喫すれば美里の自尊心は粉々に砕け散ることになる。なんとしてでも勝ちたいと足掻くはず。
それが良い方向に転がるか悪い方向に転がるかは美里次第だ。
「お、美夢が来たな。行くか。唯名もそろそろ来るだろ」
「あぁ、行こう」
紙カップを空にしてゴミ箱に捨て、美夢の元へ。
しばらくすると唯名も合流し、これで四人が揃った。タイミングを合わせて配信予告をSNSに投稿し、俺たちはダンジョンへと足を運んだ。
ちなみに唯名はSNSにアカウントを作ったらしい。配信回数は未だに零だけど。
§
虚蜉蝣の巣から出て一番に目に入るのは視界いっぱいに広がる砂丘だった。
第二十階層不変砂城。
波のような起伏と照りつける天井鉱石の強い光。なんの対策もなしに十分も歩けばたちまち日射病で倒れてしまう過酷な環境だ。
その中でも一際目を引くのが階層のど真ん中に立てられた砂の城。砂ばかりの景色に圧倒的な存在感を放って鎮座する紗城にはきちんと内装があるらしい。
ただしいつ崩れるかもわからないので立ち入り禁止。不変とはよく言ったものだ。
思念獣もそれがわかっているのか砂城の近くにはいても内部にはいない。人も思念獣も砂に埋もれて死にたくはないようだった。
「日差し、つよ。美夢この階層嫌いだわ。日焼け防止魔術がなかったら絶対来てない」
「先人の試行錯誤に感謝ですね。お陰で肌が赤くならずに済みます」
「ん? あそこだけ濡れてるのはなんでだろう? 枯れたオアシス?」
「いや、これフィル・リアノのじゃないか? 第二十八階層の」
「あぁ、魚の思念獣。あの全身が水で出来てる奴。なるほど、環境に適応できずに蒸発したのか」
階層を渡ったがいいが、その先の環境に適応できないなんて間の抜けた話だ。
ただ通常ではあり得ないことが平気で起こっている辺り、やはり変異体の存在は大きいんだろう。
勝手に環境に殺される分にはいいが、適応した思念獣が突然変異を起こす可能性も零じゃない。
早く思念獣を討伐してダンジョンの生態系を元に戻さないと大変なことになりそうだ。
「うん、画角はこんなもんでいいでしょ。砂の城がよく映えてるわ。それじゃ配信を始めるわよ」
今回は予定時刻に遅れることなく配信を始められた。
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