第13話 超新星
名残惜しいが綺麗な星空を眺めるのもここまでだ。配信は始まった、ぐだらないうちに配信を動かすため、俺たちは再び枝葉の天井の下に潜って攻略を再開した。
魔道具の明かりと、魔道具の方位磁石を道しるべに真っ暗な世界を歩く。
初見攻略配信の第一目標は虚蜉蝣の巣を見付けること。これがあるとないとでは攻略の成否に大きく関わるからだ。
虚穴は階層ごとに複数あり大抵の場合、階層を形作る壁にあるので縁に沿って歩けば見付けることができる。
今回も例に漏れず、セオリー通りに動くことにした。
『あれ、唯名ちゃんのチャンネルにアーカイブなくない?』
『マジだ。ないわ』
『というか動画の一本もないんだけど』
『そんなことある?』
『え、もしかして収益化もしてない? 四十一階層に来られる実力があるのに?』
『もったいねー』
「はい。私は配信者としての活動は行っていません」
「あら、そうなの? 唯名って」
「人前で話すのは苦手なもので。ファンサービスなどのやり方もわからず……これまで配信は遠慮していました」
「ふーん。でも、ファンサなんて簡単よ? 手を振ったり、にこっと笑ったり、ちゅっとしたりするだけ」
「ちゅ?」
「こうやんの」
カメラ目線になった美夢がちゅっとキスを投げる。
瞬間、途轍もないスピードでコメント欄が加速した。コメントの読み上げ機能さえもあまりの速度に対応できずにエラーを吐くくらいだ。
読み上げ機能はランダム選出のはずなんだけど、それでもダメなのか。
流石は登録者数1000万越えのトップインフルエンサー。
「なるほど。勉強になります」
「じゃ、練習もかねてやってみなさい」
「はい。では、美夢さんを見習って。ちゅ」
見よう見まねと行った感じで、すこしぎこちない投げキッスが放たれる。
それに撃ち抜かれたリスナーも多いようで、またコメント欄が加速して読み上げ機能がエラーを吐いた。
「姉貴の時より反応がよくない?」
「ぶっ飛ばすわよ」
「気のせいでした」
こなれた感じよりぎこちないほうがいい、というフェチズムもある。
今回の配信ではたまたまそう言ったリスナーが多かったんだろう。
コメントだって打つ者と打たない者がいて、後者のほうが圧倒的に多い。
実際のところどっちの反応がよかったかは誰にもわからなかったりする。
「わお、私の投げキッスでこんなに反応が」
「なかなかよかったわよ。今ので何万人とファンが出来たに違いないわ」
「なるほど……では」
唯名と視線が合う。
「ちゅ」
「あっ! その手があったかー!」
「姉貴って敵に塩を送るタイプだよね」
美夢が撃沈している。
「どうでしたか? 私の投げキッス。どきどきしてもらえると嬉しいのですが」
「ドキドキしたってよりは普通に可愛らしいと思ったかな」
「なんと、そうでしたか。では、もっと女を磨かなければいけませんね。精進します」
「姉貴は続かないの?」
「投げキッスてのはね、不意打ちでこそ真価を発揮すんの」
「へぇ、そうなんだ。人生において最も役に立たない情報をありがとう」
と話している間に、加速していたコメント欄は落ち着きを取り戻し、話題が動画配信に戻っていた。
『いや、しかし勿体ないよな。これで配信してないのって』
『だからこそ、バズりとか売名目的じゃないって安心感がある』
『まぁ、動画撮影だけしてりゃ冒険者として普通に活動できるからな』
『元々は討伐報酬とか犯罪抑止のための動画撮影だったんだろ? いつからか配信が主流になったけど』
『そ。元々冒険者の報酬は思念獣を何体斃したかで決まるから不正できないように動画撮影が義務化された』
『それもあるけど動画撮影の義務化ってたしか海外のどっかの国が始めてこっちに来たんだよな。たしかダンジョンの中で起こった犯罪を立件できないからとかなんとかで』
『ダンジョンの中じゃ人殺しても思念獣が証拠を喰っちゃうからな。発覚が遅れるわ死体は見付からないわで完全犯罪し放題。動画撮影は犯罪抑止のためでもある』
『そのうち編集も出来ないライブ配信に切り替わって行ったんだよな。一応、配信切っても録画は継続されるらしい。撮影ドローン』
コメント欄で配信者の歴史が語られる中、こちらはこちらで臨戦態勢を取っていた。
魔道具の明かりだけでは照らしきれない暗闇に紛れて思念獣の気配がする。
ほかの皆も気がついたようで場の雰囲気が引き締まった。
闇から光へ、その姿を晒した思念獣にはやはり目がなかった。
ウル・フェンファ。
ウル系の思念獣で盲目の狼。
退化した目を補うように耳が大きく発達し、その毛並みは何と擦れ合っても音を鳴らすことがないという。
それは事実のようでウル・フェンファからは草木を掻き分ける音がしない。
「囲まれています。この視界の悪さでは数の見当もつきません」
「何体だろうと目の前の敵を各々斃して行けば問題ない。四人もいるんだ、楽勝でしょ」
「簡単に言ってくれるよね。四十一階層の思念獣がこんなに沢山いるってのに」
「というか、あんたなら一撃で一掃できるでしょ」
「それだと絵的につまらない」
「配信映えを考えてくれてありがとう。あぁもう、やってやるわ。あんたにおんぶにだっこじゃ格好つかないもの!」
戦闘開始を告げたのは美里の先天魔術、八百御霊だった。
「
闇より出現する朽ち果てた鎧武者。
地面から這い出るまでもなく、この階層に満ちる常闇から姿を見せ、ウル・フェンファの背後から奇襲の一刀を振り下ろした。
地面ごと叩き切られ、死体が霞となって掻き消える。
それを合図に俺たちも動き出す。
美夢が放つのは俺が使う
光の剣が顕現して乱れ舞い、常闇を斬り裂いてウル・フェンファに斬り掛かる。
先天魔術が攻撃向きではない美夢が選んだ魔術。生半可な汎用魔術では四十一階層の魔物に致命傷を負わせることは難しい。
だが切れ味鋭く、美夢の光刃はバターを切るようにウル・フェンファを両断する。
使い手の技量が窺えるいい練度の魔術だ。
同時に、唯名が魔術を唱えた。
「いい機会ですので、皆さんに情報を共有しておきます。これが私の先天魔術」
両手のうちで生成される光。
「
それが弾けて唯名の周囲に拡散すると星々のように実体を得た。
それらは術者の意思によって射出され、放たれた流星は引力を伴う。
土を抉り、草を千切り、幹を削り、数多のウル・フェンファを引力で掴み取って一塊とし、自らを肥大化させ続けた。
膨張した星は自壊にいたり、引き起こされた超新星爆発の輝きは、この階層の常闇を僅かな間ではあるが払って見せる。
星の魔術。
星がみんな隠れてしまったこの階層になんともお
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