(2)バツとマル
バツとマルは、休暇をもらい、猫耳族の里へと向かっていた。
マルの兄に結婚のお許しを得る為である。
軍服での二人旅。
バツは、遠くの山々を眩しそうに見つめ、マルに尋ねた。
「……あの山の先か? 猫耳族の里は?」
「ああ、そうだ……って、お前、何度同じ事を聞くんだよ! もしかしてアニキ達の事が怖いのか?」
「別に……って、言うと嘘になるか。ちょっと怖いな」
「……実は俺も少し怖い」
「え? 実の兄貴だろ?」
「まぁ、そうなんだけど。俺のアニキ、3人とも、俺の事さ、異常なほど溺愛で……まぁ、会えば分かるけどさ」
「……溺愛か……それは強敵だな……」
突然、マルが、「ぷっ!」と吹いた。
バツはマルに尋ねる。
「なんだよ?」
「ご、ごめん。お前のプロポーズ、思い出してたんだけど……俺の事を守るって……考えてみれば俺の方が強いだろ?」
「はぁ? そんな事あるかよ! 俺の方が強いって」
マルは、眉間にしわを寄せた。
「猫耳族の戦闘力を舐めるなよ!」
「いいや、別に舐めてないけど……戦闘力って言ってもそれは素手だった場合だろ? 実際の戦闘は剣を持って行うんだ。だったら俺の方が強い。何だって俺は人族だからな」
「うーん」
マルは、腕組みをして考え込んだ。
バツは、不服そうに言った。
「何だよ、疑うのか?」
「違うって。ただ、それでアニキ達が納得するかは話は別……お前の事、俺の結婚相手って認めるかなぁ、と思って」
「というと?」
「俺のアニキ達は、古い人間でさ……例えば、猫耳族が重きを置く、強さや勇気ってのにこだわるから……」
マルは、急に心配になったのか、眉を八の字にして下を向いた。
心配している時の顔である。いまにも泣きそうで切ない。
バツは、マルの頭に手をおき、優しく撫でた。
「ははは、心配するなよ、マル。何とかなるって!」
「な、何だよ……急に頭を撫でるなよ」
「……嫌だったか?」
「べ、別に……嫌じゃ無いけど……」
しばらくそうしていると、マルは、猫耳を折りたたみ、うっとり顔で目を細める。
バツは、それを見てホッと胸をなでおろす。
(……よかった。心配は収まったらしい。それにしても……マルのやつ……本当に可愛いよな)
それが聞こえたかのように、マルは顔を上げ、バツの顔を見つめた。
「……なぁ、もう、頭はそのぐらいでいいから……ほら、次はこっち……」
目を潤ませ、物欲しそうに口をすぼめて突きだす。
「なんだ? キスして欲しいのか?」
バツは、わざと意地悪く言った。
すると、マルは開き直って怒鳴った。
「そうだよ!!! キスして欲しいんだよ! ほら、早く、キスしやがれ!」
「はいはい……愛しい俺のマル……」
そう言うと、バツは、マルの両頬を抑え、そっと口づけをした。
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