第十九頁 【ふらり火】
【ふらり火】
外灯もほとんど無い田舎の夜道を歩いていた。
片田舎の駅とはいえ、その日は週末の夜だったので、都会に出て終電まで呑んでいたという者も少なくないのだろう。駅の近くになって来ると、数える位ではあるが人ともすれ違う。
帰路に着いてから程無くすると、誰ともすれ違わなくなって来た。
俺は静かな夜を歩きたかったので気持ちが良かった。
しかし、左手に山肌を見るこの暗い路地の向こうに、ふらふらと彷徨う明かりがあるのに俺は気が付いた。まるで提灯の様な橙色した光だった。
俺はなんとなくその足取りから、明かりを持った者が千鳥足で歩いている姿を想像した。
別に変な事では無かった。ここらはあまりに暗いので、明かりがなければまともに歩けないのだ。
……だが、もう終電もとうに過ぎているのにどうしたのだろう。
しかしまぁ、あの足取りを見るに相当に酔っている様子であるから、何処かでしこたま呑んでから這う這うの体で地元の駅まで辿り着いたはいいが、そこからは満身創痍で帰路についている。という事なんかも予想できた。
俺はふらふらと彷徨うその者となんとなく連れ違うのが嫌だなと思った。
しかし今俺が歩いている道は『ト』の字になっていて他に分岐も無い。このままでは正面から歩いて来る酔っ払いとはち合わす事は必至だった。
田舎なので知り合いと顔を合わすのが嫌だった。
しかし俺がわざわざと振り返ってこの道を戻るのでは、しばらく背後にあの者の気配を感じ続ける事になってしまう。
俺は一人でこの夜の心地良い風を感じたいのだ。
……となると正面切ってすれ違ってしまうのが得策とも思える。
しかし男は、途中で横道の方へと逸れた。
良かったと思うと同時に、なんで? とも思った。何故ならその道の先は山を登っていく遊歩道になっているのだ。言うなればハイキングコースだ。泥酔した者にあの道は厳しかろう。
そんな風にも思いつつも俺には関係がない事なので、男が横道に逸れている間に足早に通り過ぎようと歩みを早めた。
――ぉぉおおろろろろろろろ。
……成る程、そういう事らしい。
そう言う事なら一旦脇道に逸れた事にも合点がいく。
お大事に、と心の中で唱えながら、俺は丁度いま左手にした、酔っ払いの彷徨い込んでいった遊歩道を過ぎ去った。
――その時である。
男の折れていった曲がり角の方角から――物凄い勢いで炎の塊が俺の背後に迫り、過ぎ去っていった。
――ぅぉろろろろろろろろろっ。
見間違いだろうか、炎を纏う怪鳥が、そんな声を上げながら遠ざかっていく。そして俺が何よりも不気味に思ったのは、その鳥の頭が犬の様になっていた事だった。
あの生物は……なんだ?
目を見張っていると、火は夜を背景にしながら上下左右と縦横無尽と動き回っていて、その様はまるで千鳥足の様であった。
――――――
『ふらり火』
詳細不明の火の妖怪。
「画図百鬼夜行」では犬の顔をした鳥が炎に包まれている様に描かれている。しかしその本体は鳥の方では無く、火の方であると言われている。つまり“火”が鳥を操っている訳である。
ふらりふらりと彷徨うかの様なので、酒に泥酔した者の提灯の灯りと間違えられた様である。
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