第5話 プールに沈む肝臓

 俺はプールの中に入っている。

 プールと言ってもそれ程広くは無い、まぁ子供用位だろう。


 俺はそのプールの中へ水を入れている。

 少しずつ、少しずつ、何年も時間を掛け、飽きもせずにプールへ水を注ぐ。

 それはアルコールと名前の付いた水だ。


 初めて飲みだしたのは確か16の夏だった。

 アルバイト先の先輩がスーパーで万引きした缶酎ハイだったと思う。

 単なるジュースと変わらないじゃないか、その時は酔うという事もよくわからなかった。そこで興味を持たなければ良かったのだが何も無い田舎の高校生だった俺はお酒と言うものに強い興味を持った。


 そこからコイツとは長い付き合いになる。


 俺は社会に出た後も毎日の様に飲んだ。

 仕事のストレスも手伝って飲む量は日に日に増えていった。

 酔って自分自身を消してしまいたかったのだ。


 俺はプールに注ぎ続ける……


“ビール アルコール度数5%”


“ワイン アルコール度数14%”


“焼酎 アルコール度数25パーセント”


 少しずつ、少しずつ、プールに水が溜まっていく。


 毎日、毎日、自分を見失いながら……


 30歳の頃に俺は結婚し子供も一人授かった。それなりに幸せだった。

 それでも俺は飲み続けた……

 ある日酔った勢いで店で口論になった男を殴ってしまった。

 逮捕された俺は会社も家族も失った、それでも酒は辞められない……


 俺はプールに注ぎ続ける……


“ウイスキー アルコール度数40%”


“テキーラ アルコール度数40%”


“ウォッカ アルコール度数40%”


 プールのアルコールは既に溢れ出しそうだった。


 完全に自分を見失った……


 ある日、安酒場で飲んでる時にぶっ倒れ、病院に担ぎこまれた。


 医者は俺に言う……


「貴方は完全にアルコール依存症です。このまま飲み続ければ死にますよ」


 俺は酷く安い“酔い”の為に全てを差し出し、そして全てを失っていた。


 すっかりアルコールに取り憑かれてしまったのだ。


 それでも飲み続けてしまう。


“ビール”


“ワイン”


“日本酒”


“ウイスキー”


“テキーラ”


“ウォッカ”


“ジン”


“ラム”


 ありとあらゆるアルコールをプールに注ぎ、気付けば既にプールに溢れんばかりだ。


 俺は今夜、そのプールで溺れ死ぬ。


「もう全て失ってしまったのだ……後悔は無い……」


 そう言うと男は硬くなった肝臓を錘にプールに沈み、そして動かなくなった。











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