第4話 貴方の胃へ贈るプレゼント

 私は結婚して家庭を持つ平凡な主婦です。

二人の子供も自立して家を出ています。

 今は主人と二人暮らし。

 ささやかではありますが幸せな生活を送れています。


 それも全ては主人のおかげです。

 未熟な私の至らない点を注意して頂き、私自身も成長出来たと感謝しています。


「行ってくる」


「行ってらっしゃい。気をつけて下さいね」


「なんだ玄関が泥だらけじゃないか。帰るまで綺麗に掃除しておけよ」


「あら、ごめんなさい。貴方が帰るまでに綺麗にしておくわ」


 昨日は酷い雨でした。靴に泥が付いて玄関が汚れてしまった様です。

 気づかない私に主人は注意してくださりました。

 本当に私は至らない所ばかりです。


「貴方、お弁当忘れないでね」


 私はお弁当を主人に手渡しました。


「最近は胃の調子も良くない。俺も若くない弁当のおかずも気をつけてくれよ」


「気が効かなくてごめんなさい。気をつけるわ、でもしっかり食べてね?」


 私は毎朝、主人の為にお弁当を作ります。

 昨日の残り物や冷凍食品では無い手の込んだお弁当です。

 主人に感謝の気持ちを込めて特別なスパイスを使っています。

 私の気持ちが届くと願って……


 素敵な一軒家、広い庭、生活も決して貧しくはない。

 私には勿体無い程の環境、全て主人のおかげです。

 私はいつも掃除、洗濯、料理から子育てまで主人から注意されてばかりです。

 私が主人に出来る事は精一杯の気持ちを込めて料理を作る位です。

 主人だけに特別な隠し味のスパイスを入れた料理。

 主人が帰るまで夕飯の用意をしなくてはなりません。

 もちろん隠し味のスパイスも忘れずに、私の気持ちが届きます様に……


「帰ったぞ」


「お帰りなさい。今日もお疲れ様です。お弁当は食べて頂けました?」


「食べたが油物が多すぎだよ、最近は胸焼けもするし、体調も良くないんだ。気をつけてくれよ」


「ごめんなさい。食べて頂けたなら良かった……」


「何度も料理については言ってるだろ?それに玄関も朝のままじゃないか」


「ごめんなさい」


「本当に君は何も出来ないな、俺も働いているんだ。君もしっかり仕事をしてくれ」


「はい……」


「全く君がその調子だと俺の疲れも取れないよ……飯にしてくれ」


 また注意されてしまった。夕飯でしっかり挽回して主人を喜ばせないと。

 料理は私からの贈り物。魔法のスパイスも忘れずに……今日はいつもより多めにプレゼント。


 スパイスを混ぜ込んだハンバーグ


 サラダのドレッシングにスパイスを溶かして


 最後にスープにスパイスを一振り


 貴方だけの特別な料理


 気持ちを込めた私の料理


 さぁ召し上がってください


「またお腹に重そうな料理だな……」


(口うるさい貴方はまた不満をこぼして)


 一口食べる

「ハンバーグが固いよ」


(貴方は私の全てを否定する)


 一口食べる

「サラダの野菜も痛んでないか?」


(貴方は思いやりの欠片もない)


 一口食べる

「スープも味が濃いよ」


(貴方なんて消えてしまえば良い)


 食べ終える前に主人は急に苦しみ出しました。


 私は苦しむ主人を眺める事しか出来ません。


 主人が全く動かなくなりました。


“貴方の胃へ贈り続けた私からのプレゼントがやっと届いた様です”


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