第6話 た…食べるのか?

 自分のはく口臭にも慣れてきた頃、エリクサーが効いたのか体の調子がやけに良い事に気づいた。

 周りの景色が細かく理解できる…、周辺視野がくっきりと見える…そんな感じだ。


 自然の音がする…。


 今まで必死であったので、そんな当たり前のことをすら忘れていた。木を見て森を見ず、そんな漠然とした感覚に囚われた。


 こう考えると気持ちがいいな…。風が体を通り抜けていく。


 それもそうだ…、裸なのだ。ターザンもこんな感じなのだろうか…常に下半身がスースーしているのか?そんなことを考えながら木からぶら下がるちょうど良い感じの蔦を見つめた。


 いや…、ありだよな…どうせ一人だし。


 無性にターザンごっこがしたくなったのだ。あの誰もが憧れるであろう蔦にぶら下がりあーあーあーするアレだ。


 蔦までは勢いをつけてジャンプすればなんとか届きそうな距離にちょうどよく存在する。やらないということは考えられないそんな状況だ。


 勢いよく助走をつけて垂れ下がる蔦に掴まる。馬鹿であった…、本当に馬鹿であった。ターザンすらパンツらしき物は履いているのだ…。


 いってぇぇ!


 蔦といっても元いた世界のようなロープの様に綺麗に面取りされているわけでもなく、樹皮から出る棘の様な物が挟んだ太ももと陰部に頬擦りする。

 あまりもの痛さに堪えきれず尻餅をついて地面に寝そべった。


 これがジャングルの…洗礼か。


 そうかっこ付けて言ってみたものの側から見たら裸の変態が大の字で寝そべっているだけだ。

 大地が呼吸しているような感覚が背中に駆け抜ける。地面が競り上がり、マッサージ機の様に背中を刺激する。


 その気持ち悪さに飛び起きる様に立ち上がる。汗ばんだ体についた葉っぱや土が本当に気持ちが悪い…。潔癖症というわけではないが、都会のコンクリートジャングル生まれには堪える。


 寝ていた場所を見た時、体を洗い流したい…、気持ち悪い、そんな気持ちが吹っ飛んだ。

 自分が大の字に寝ていた場所には…モンゴリアンデスワームを思わせる様な訳のわからない生物が死んでいたのだ。

 その生物は動物の腸の様な形状をしており、まるで今まで動物の中に潜んでいたと言わんばかりに真っ赤である。


 倒したのか…、ドロップアイテムにならない…。何故だ…。


 ドロップアイテムになる生物とそうでない生物の理由がわからない。アイテムになるには他の要素が絡むのか?そんなことを考えながら目の前にあるモンゴリアンデスワームらしき生物を見つめる。


 焼いたら…。いや、でも…ん〜。


 喉も渇いているが腹も減っている…。そして、水分は何も水だけではないのだ…生物の血液も水分になりうる…。海で遭難した人が魚を絞って飲んでいたという逸話も聞いた覚えがある。


 た…食べるか?いや、でも、虫じゃん…。虫なのか…?


 頭がこんがらがってくる。目の前のモンゴリアンデスワームは動物なのか虫なのか…どうでも良い事が戦いあう。考えるべきことは他にもあるだろうが、食べるという方向でなぜか進んでいる。


 いや…、食べるんだ。食べるしかないんだ。根性、根性、根性…アレはお肉、お肉…。


 自分に言い聞かせ目の前で横たわっているモンゴリアンデスワームのような生物を持ち上げる。

 芋虫…というよりかはうなぎに近い…。骨格がしっかりしておりこいつは動物だ!と嬉しくなった。

 ナイフなどあるはずもなく、かぶり付きしかできない状況…、思い切って柔らかそうな部分を見繕いかぶりついた。


 大自然を感じさせるこの味は…!!


 そう、それは大地の味…土の味であった…。

 

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