第3話 やっとファンタジーやん

 ひとしきり泣いたあと、涙も水分であると後悔の念に包まれた。


 どうしろって言うんだよ…、何をして欲しいんだ俺に…。


 そう言いながらも体は生きようとしている。海岸に落ちる適度な大きさの流木を拾い上げる。


 ファンタジーゲームの初期武器にはこの棒がお似合いだな。


 水源の確保のために今度は抜かりない装備で挑みたい、そう考えて武器を探していたのだ。しかし流木は若干湿っていて気持ちが悪い…。


 気持ち悪いな…、ゴツゴツして持ちにくいし…。しかも…臭っさ…。


 磯の香か、何かが腐ったような匂いのする流木を片手にまた森へ向かう決心を固める。


 行きたくねぇ…。あの森気持ち悪いんだよ…、何がいるかわからんし…、嫌だわ…。


 決心を固めたものの足取りは重い…。そして、一歩歩く毎に手に持った棒が臭い…。


 前回とは違い、自分が進んでいた方向を見間違わないように、木に流木で印を刻みながらどんどんと奥地へと進んでいく。


 マジで靴と服があってよかったわ…。こんな気持ち悪い森で裸とかだったらとっくに死んでるわ。


 寂しさを紛らわすためにそんな独り言を言いながらどんどんと進んでいく。

 すると人影のような物がこちらに手を振っているように見える。


 もしかして、人か!?助かった!!


 ここでも思考はもうぶっ飛んでいる。人に会いたい、早くここから出たい、そんな気持ちが先行する。


 お〜〜い!遭難しまったんだ!


 そんな大きな声を掛けながらその手の振っている方へ走った。


 目の前に現れたのは液状のジェルに目が6つほどある化け物であった。6つのうち1つの目を突き出して、私のことを観察していたようだ。それが手を振っているように見えていた。


 気持ち悪いけど…スライム…やっとファンタジーじゃん!


 私はどこか心躍っていた…、自分がやはり転移させられたという事の裏付けが取れたと言う喜びもあったのかも知れない。

 

 敵意はなさそうだな。もしかすると、悪いスライムではないのかも知れない。


 そう思いながらそろりそろりと近づくと、スライムは飛びかかってきた。


 うわ…、冷たくて気持ちいい。


 上半身の服のようにスライムが覆い被さり、体に溜まっていた熱をプールに入った時のように下げてくれている。


 こいつはいい相棒になりそうだ。暑い地方に一家に一台ってか。


 そんなことを言っていたのも束の間ある事に気がついた…。


 こいつ…あっち系のスライムだ!


 涼しいと思っていたのも束の間どんどんと、自分のきている服が溶かされていく。


 やばい、やばい!離れないぞこいつ!


 流木でスライムを叩きつけるが全くもって効いてはいない…物理耐性があるとはよく言うがその通りだ。


 やばいって…、もう肌着しかないじゃん!


 パニックがパニックを呼び来た道を一目散に帰っていく。


 どうすれば良いんだよ。まじで、神様なんなんだよ、何をして欲しいんだよ!


 森を抜けた時には、パンツ一枚とズボンの裾しか残っていなかった…。


 スライムを鎧のように着こなし、パンツと靴を装備している異世界転移者…。


 この世界なんなんだよ…と海に向かって叫んだ。

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