第4話 素直に動く?

 みるくに対して全く意識をしていないといえば嘘になる。数年ぶりに再会した直後から彼女の魅力に気付くのも早かったわけだし。


 でも、


「? まだ?」

「こ、心の準備があるからもう少しそのまま待ってて」

「……ん、分かった」


 オレの気持ちはまだ久しぶりに再会した幼なじみと会話する程度であって、意識的なものが揺れ動くレベルには達していない。


 そのはずなのに、


「ともくんにして欲しいから、だから脱いだの。してくれるなら素直に体を動かすから」


 服を脱いだみるくを元通りの姿に戻すだけ、戻すだけなんだよな。


「動かすっていうのは、その……腕とか足のことだよね? オレが着させやすいように……」

「うん」

「だよねぇ」


 あれこれ余計なことを考えるから躊躇ちゅうちょすることになるんだ。今の状況は、みるくのからかいによってオレの理性を試されている――ってことに過ぎないに決まってる。


「じゃ、じゃあ、まずはスウェットから……」

「……ん」

「…………腕を上げて、えっとバンザイのポーズをしてくれると嬉しいんだけど」


 着替えさせようとするオレを試すかのように、みるくは何もしないで座ったままだ。さすがにこれではどうすることも出来ないので、逐一言葉でみるくに指示を出して着替えをしてもらうしかない。


「両腕をめいっぱい上にあげて……」

「こう?」

「そのまま動かないでね……」

「んー……」


 というか、何でオレはみるくにこんなことをしているんだろうか。これではまるで幼い子に洋服の着せ方をレクチャーしてるようなものなんだけど。


 でもみるくの様子は変わらず、オレが着させようとする動きをじっと待っているようにも……


「……しょっと」

「ぷふぅっ。うん、大丈夫。着られた」

「それは良かった。つ、次は下も……だよね?」

「うん」

「ベッドに座ってるところをごめんだけど、その場に立ち上がってくれる?」


 ジャージを履かせる場合、わざわざ立たせなくても良かったりするものの、それだと露わになってるみるくの下着部分に触れてしまう恐れがあるので、ここは慎重に動かなければならない。


 しかし親たちが離れた部屋にいるというのに、何でこんなことを。こんなからかいをする子じゃなかったはずなのに。


「立った」

「それじゃあ、片足ずつ足を少しだけ上げてね」

「んっ」


 裾をめくりながら、右、左といった感じに、足を上げたみるくに対してジャージを履かせることに成功する。


「履けた! ともくん、すごい」

「え、う、うん……」


 これらの動きに変な感情は芽生えず、どちらかというと保護者の気分になってしまった。みるくも似た感じのようで、オレがしたことに対して何の疑問も持っていないみたいだ。


「えーと、次はメガネだけど、またオレがかけさせるの?」

「うん。だってしたこと無いから」

「自分でかけたことが無いってこと? あれ、でも……」


 再会した時すでに赤ぶちメガネをかけていたような。それももしかして親にかけてもらったとかなのだろうか。


 そうだとしたらみるくって……


「……はい、かけさせてあげたよ。見えるよね?」

「見える。ともくん、ありがと」


 服を脱ぐのとメガネを外すのは出来るのに、つけたり着たりすることが出来ないとかだったりしたら、この先もしかしなくてもオレが全てやることになるのでは?


 何となくの予感を感じていると、コンコンと部屋のドアを叩く音がした。すぐさま返事をすると、


「友成。みるくちゃん、来てるよね?」

「みるくならベッドの上に――」

「何も変わってないみたいね。みるくちゃん、そろそろお母さんたちが帰るみたいだから……」

「はい。そうします。ともくん、またね」

「え、あ、うん……」


 何事もなかったかのように、みるくはスッと立ち上がってオレの部屋から出て行ってしまった。砂森一家を見送った後、母さんが真面目な顔してオレに向き合う。


 その内容は祖父母が過保護すぎたから何も出来ないという、何とも言えない内容だった。経験してきていないということは、部屋での着替えも何もかもが全て未経験で初めての動きということに……。


「もしかしなくてもオレがこれから全て?」

「お願いね、友成」

「嘘でしょ……これから学校もあるのに~」


 当たり前のこと全てが未経験なみるくとの生活が始まるとか、そんなバカな。

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