第3話 下着と上着とメガネ
みるくと再会したことと、学校でも遭遇したことを母さんに話したら急展開のごとく、砂森家にお邪魔することになった。
工事用のシートは昨日の今日ですでに取り除かれていて、内装は真新しい木材の匂いを感じるくらいにまで出来上がっていた。
「お久しぶりです、おばさん、おじさん……っいてっ!」
「ごめんなさいね、砂森さん。この子は昔から失礼が過ぎてて」
どうやら母さんの中では『おばさん』『おじさん』という言い方が失礼にあたると思っているらしい。
しかし向こう側は気にしていないようで、
「いやいや、挨拶をしてくれるだけでも嬉しいものですよ、貝吹さん」
「ええ、本当に。みるくがこちらの高校に……ってことで急な引っ越しではありましたが、お元気そうで何よりです」
「しばらくはこちらに?」
「そうですね。ですが、まずはうちの娘のことについてですね――」
――などなど、親たちの長話が開始されたところで、すでに眠そうなみるくに手招きをしてオレの部屋に連れて行くことにした。
ぶっちゃけ見知った関係なので、みるくを勝手に連れて行くことに特に気にも留めないのが、かつてのご近所かつ幼なじみの気楽なところでもある。
みるくはオレに掴まれた手を握りながら、大人しく部屋へとついて来てくれた。この家に越してきてから初めて部屋にいれることになるが問題は無いだろう。
「その辺、適当に座っていいよ」
「うん」
「って、ベッドの上なの……?」
「どうかしたの?」
「ううん、どうもしないよ」
天然という判断よりも、どこでも座っていいというオレの言葉を素直に聞いただけだよな。意識するというのも変だしそのままでいいか。
それにしても実はそれほど目は悪くないのか、今日は大きな赤ぶちメガネをかけて来ていない。服装にいたっては、お隣さんということもあっておしゃれのかけらもないフード付きのスウェットに、下はジャージ姿だったりして色気要素は皆無だ。
あまりにもラフすぎるけど、外に出かけるでも無いのでとやかく言う必要は無さそう。靴下を履かずに素足というのは何とも言えないけど。
「ともくんはここで何をしてるの?」
「何って、そこのベッドで寝たり寝転がったり……別に珍しいことはしてないよ」
「着替えもするの?」
「そりゃあね。自分の部屋以外では浴室くらいでしか着替えないだろうし……」
ごく当たり前のことを聞いてくるような気もするけど、これもオレをからかうための話なんだろうか?
「――って!! 何をしようとしてるの? みるくさん」
「脱ぐところ」
「おかしいおかしい! ここはオレの部屋だよ? みるくの部屋じゃないんだよ?」
オレに色々聞いてきたかと思ったのもつかの間、何故かみるくは着ているスウェットを脱ごうと手をかけだした。
何で急にそんな行動に出るんだ?
「うん。ともくんのお部屋」
「着替えは基本的に自分の部屋でするものであって、オレの部屋ではしないものだよね?」
「……? 脱ぐだけで着替えないけど、駄目なの?」
着替えを持ってきていない状態――持ってきてたとしても困るけど、何でこんな行動に出るのか意味が分からない。小学生の頃は外で遊んでただけで、少なくとも部屋の中で一緒にいたことは無いだけにいきなりこんな状況を作り出すのは混乱する。
オレはとりあえずみるくが服を脱ごうとする手に触れて、動きを止めることに。そんなに強い力で押さえ付けてもいないとはいえ、みるくも意地なのかその手を引っ込めようとしない。
「え、何で?」
「脱いでも裸とかになるわけじゃないよ? 暑いから脱ぐの。駄目?」
「あ、あ~……そ、それなら」
「うん。心配しなくても、ともくんは襲ったりしないよ?」
それはつまりオレの理性を信じていると。それと同時にしっかりと釘を刺して、手を出すなよ的な宣言をしているわけだ。
そういうことなら黙って見守るしか無いし、大人しく待つしか無さそう。
「――って、待って! 下着が見えてるよ!? 何で下も脱いでるの!?」
「暑いから」
そのとおりなんだけど、再会して一日しか経っていないオレに下着を見せつけるのはどうなの?
それとも全く害の無い奴と見ているとか、親たちが近くにいるから何も問題なんて起こせないと安心しているのか。どっちにしてもオレだけ試されてるような。
みるくはスウェット、ジャージを脱いで、見事に下着姿をオレに見せつけている。その姿のまま堂々とオレのベッドの上にちょこんと座って見せていて、近づいてくる様子は見せない。
どうすればいいのか分からないので、目を閉じたり手で見えないようにしていると、
「ともくん。今脱いだのを手に取って?」
「ス、スウェットとジャージ?」
「うん。それと、これ」
「赤ぶちメガネ……? 持って来てたんだね」
「ジャージのポケットに入れてたの」
みるくに言われるがままにオレはみるくから渡されたメガネと、スウェットとジャージを手に取ってみせた。
すると、
「ともくんがわたしに着せて?」
「んっ? え、暑くて脱いだのにオレが着せるの? メガネも?」
下着姿のまま動こうともしないみるくは、ただただ黙ってベッドの上でオレの動きを待っている。
脱がすんじゃなくて着させるとか、これもみるくの"遊び"なのだとしたらそれはもう言うことを聞くしかなさそう。そもそも親が部屋に入って来ないとも限らないしあれこれと迷っててもどうしようもない。
「じゃ、じゃあ、その……ベッドの上に立ってもらえると」
「ん、そうする」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます