第2話 お手?
幼なじみと再会した足でそのまま学校へ行くと、ウワサ好きな奴がオレに情報を与えようと声をかけてくる。
「よ、
相変わらず強引な野郎だ。しかし悔しいことに、割と正確な情報を持っているから憎めない奴でもある。
「ほ~? 期待しないで聞くから言ってみろよ、寺川」
「泣いて喜べ!! うちのクラスに可愛い女子、それもメガネっ子が転校してくるぞ!」
「あ~……」
メガネっ子と聞いただけなのにもう答えが分かってしまった。しかも体育祭が始まろうとしているこの時期に転校という時点で、あの子しかいないだろ。
これからよろしくとか言っていたし、同じクラスってことで間違いない。
「何だぁ? お前は嬉しくないのか?」
「可愛いって何で分かるんだよ……」
「それはもちろん、モブとして野次馬してきたからだ~!」
寺川は何もしなくてもモブだろ……。
「……で、名前とか詳細は?」
聞かなくてもオレはすでに知っているけど。
「上の名前は砂森。下の名前までは知らん! 何でも最近までのどかな地方にいたらしい。だからほとんど物や場所を知らないらしいぞ」
やっぱりみるくで確定か。祖父母のところで暮らしていたのは知ってるが、全く何も知らないってことはさすがに言い過ぎだ。
小学生の頃に活発女子だったみるくがメガネのかけ方を忘れるとか、オレにかけさせるとかは多分からかいだと思うし。
「その情報が正しいとして、お前はその子をどうするつもりがあるんだよ?」
「何も知らない純粋な子らしいからな。他の男子に目をつけられる前に俺が手取り足取り……」
「……モブのお前じゃ無理だ」
「モブじゃねえ、寺川だ! モブだとしても単なるモブじゃねえ!! 貝吹だってモブだろーが! ただでさえうちの学校は女子が活発で男子は……とにかく俺は行く。もう一度ピュアっ子を見に行く。ついてくんなよ?」
寺川はぶつぶつと文句を言いながら急いでどこかに走って行った。全く騒がしい奴だな。だが野次馬の情報とはいえかなり正確な情報だった。
とはいえ、みるくに変なことをする発言は許せん。今学校に来ているならオレが先に注意しとかないと。
「ともくん」
各教室や外では体育祭の準備で慌ただしくなっている。あちこち動き回ってもサボり認定されない今ならみるくを探しに行っても誰も何も言わない――
「――え?」
「ともくん見つけた」
物音すらしなかったのに、どういうわけかみるくがオレの目の前に立っている。転校手続きとかしてたなら誰かに目撃されてもおかしくないのに。
それに地方からの転校だから手続きとか時間かかりそうなものなのに、何でここにいるオレをすぐに見つけることが出来ているんだろう。
「ど……どうした?」
「いるかなって思って歩いてきたの」
「歩いてきた――って、そんなバカな……」
天然どころかかなりの策士だろ。そうじゃなきゃまだ校舎案内もしてない学校を迷わずに歩けるわけがない。
ああ、でも活発女子だったから行動するだけなら無くはないのか。
「……って、みるくさん。その手は何?」
「わたしの右手」
「オレの右手も差し出せば何かもらえたり?」
「うん。だから、お手」
完全に遊ばれてる……。天然どころかオレのことをペットのオスとしか見てない。祖父母の元で一体何を学んでいたのか気になるな。
それはともかく、寺川みたいなモブ男子に見つかっても厄介だ。仕方が無いけどみるくの企みに乗るしかない。
とりあえず意地悪のつもりで握りこぶしをみるくに差し出すと、
「無理だからそれ、駄目」
何が無理なんだ?
そうなると握手する感じでよさそう。そう思いながら握手スタイルで反応を待つと、
「それも違う。手を差し出すだけでいいの。だから、して?」
「そ、それだけ?」
「うん」
何の企みも無いなら手を差し出すしかないよな。オレはみるくに向かって手の平を見せるように差し出した。
直後、オレが感じた感触はオレの手を掴んで離さないみるくの姿だけだった。しかもその場から動く気配も無く、黙ってオレの反応を待っているように見える。
「……え~と、この後はどうすれば?」
「わたしの手を握って歩いて?」
歩くというなら右手よりも左手だろうけど、どうもそうじゃなさそう。
「どこに?」
「ともくんが連れて行ってくれるなら、どこでもついていけるから」
「一応聞くけど、オレが歩かないとみるくは動けないとかじゃないよね?」
これも一種の甘えだと思われるが、
「うん、歩けない。だってここがどこなのか分からないから」
「あぁ……だよね」
単純な答えだった。オレをピンポイントで見つけ出したのは奇跡で、本来は帰る道順なんて分かるわけも無いわけで。
「行こ? ともくん」
おそらく家に……という意味だろうし、結局サボりってことになってしまった。でも寺川に見つかっても面倒だし、これはこれで納得するしかないかもしれない。
「みるくの家……でいいんだよね?」
「うん。帰る」
そう言いながらみるくはオレの手を掴んで離さず、オレの後ろをぴったりとついて
きた。途中でオレが止まるとみるくも止まり、意地でも動かなかった。
これはアレだ。絶対オレを使って遊ぼうとしてるってことで合ってるよな。
「ともくんの手、冷たくて気持ちいい」
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