第5話 友達?
「おはよ、
朝の教室に入って早々にバンッ、という音をさせるほどオレの背中を思いきり叩いてくるのは中学が同じだった
「――ってぇ!」
こいつと同じクラスメートになったのが運の尽き。オレよりも力が強いせいか、いつも遠慮なく体のどこかを叩いて挨拶してくる女子だ。
「そんなに強く叩いて無いのに、相変わらず大げさくんだなぁ~」
「みけも相変わらず加減を知らないな!」
「未だにそんな呼び方をするのって友成だけなんだけど、自覚してる?」
「してる」
「ま、いいけど。それよりも……モテないくんに朗報だぞ」
三池も寺川同様かそれ以上に誰かの恋愛事に首を突っ込むタイプで、それが違うクラスだろうとわざわざ教えてくれるというお節介焼きだったりする。
得意げな顔をして朝からオレにちょっかいを出してくるわけだから、十中八九その話題で間違いない。
「転校生の話だろ?」
「おっ? 何だ~もう知ってるんだ……どうりで友成のくせに余裕ぶってると思ったんだよね~」
「……こっちに余裕なんてないけどな」
同じ学校に転校してきたからといって彼女の動きが良くなるわけでもないし面倒事が減るわけでもないだけに、オレは常に神経をとがらせる必要がある。
「ん~? 何か言った?」
「気にしなくていい」
「怪しいなぁ。わざと気にして欲しくないフリして、本当は気にして欲しいんだろ~? 素直に白状しとけしとけ!」
「お前はオレの何なんだよ」
「もちろん、友成の~……」
中学が一緒だった――とはいえ、当時はここまで遠慮がない男女関係では無かったと記憶している。中学なんて受験で大変だったし、そもそもつるむ奴も固定だった。
少なくとも今みたいに気楽に女子と話す余裕なんて無かった。
しかし今では、教室に入ってホームルームが始まるまでは大体は三池との話で時間が過ぎている。というくらい、話をしている関係だ。
「――そろそろ始まるから、とりあえずその話の続きは休み時間な」
「ういうい~」
三池は小柄で小顔なうえショートボブの髪型をしている。それでいて小麦色に焼けた肌をしている健康的女子だ。運動部をしていることもあって活発的、甲高い声で気さくな性格なせいか女子にも人気がある。
その辺の男子よりも話しやすくオレの数少ない交友網の中ではナンバーワンに値する。寺川も一応は悪友に入るものの、あいつはあくまでウワサ好きな奴であって趣味だとかが合うとか、その辺に遊びに行くといった奴じゃない。
つまりオレにとって三池は――
「――女子として特別に意識しなくていい友達だ」
「何の話?」
「朝の続き」
「女子として意識しないとか酷くない? 異議ありまくりなんだけど~」
本人に聞かせるでもない話だったけど、三池の性格上あまり深くは突っ込まないはず。
「みけの魅力は十分に分かってるからスルーしといてくれ」
「――え? そ、そうなんだ……じゃあ許そう。でさ、不健康肌の友成に聞きたいことがあるんだけど~」
よしよし、上手くかわすことが出来たな。
「何でも聞いてくれ」
「あの子、誰?」
「へ?」
三池が指し示す親指の先に目をやると、そこに見えているのはみるくだった。
「どう見てもおなクラの女子じゃないんだけど、さっきからずぅ~っと友成に視線を送りまくり状態なんだよね~。や、ウチら女子はいいけど男子たちからの評判がガタ落ちじゃないのかなぁと」
同じクラスの男子からの評判なんて初めから地に落ちているわけだが、みるくとの関係がバレるとそれはそれで危ないことになりかねない。
「あー……うん。あの子はオレの友達」
「へぇ~。可愛いね。でも、何で声をかけずに柱の陰からあんたを見守ってるんだろうね?」
見守りとかじゃなくて、あれはおそらくオレからの声待ち。しかもオレ以外は知らない人ばかりだから、そんな教室の中にまで入ってこれるはずもない。
みるくが世間知らずの常識知らずでもさすがに。
そろそろ次の授業が始まるし、オレから声をかけるしか――
――そう思って廊下に向かって全身を動かそうとするも、なりふり構わずにオレの目の前にまでみるくが侵入してきた。
「ともくん。教室、連れて行って?」
「えっ?」
「教室」
これはアレかな?
オレがいる教室にたどり着いて来たけど、自分が戻るべき教室が分からないと。そういう意味かなこれは。
「ねぇ。友成。その子、転校生の子なら迷子じゃないの?」
「そうとも言う」
「じゃ、ウチが連れて行こうか?」
「分かるのか?」
「可愛い転校生だし、みんな知ってるよ」
どうしたものか。この場合、オレよりも女子に連れて行ってもらう方が他のクラス連中に白い目で見られないとは思うが。
「えっと、ウチが案内するね。行こっか」
「…………ともくんがいい」
「ともくん……つまり、友成かぁ。なるほどね~……なるほど」
三池の気配がすでに怖い。三池だけじゃなくてクラスのみんなの視線がすでに危険な域に達してしまいそう。
何で早々にオレの教室に来ちゃったかなみるくは。
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