魔王の記録簿

ボロボロになった城でとある一冊の書物を見つけた。少し禍々しい雰囲気を醸し出しているが私は勇気を出してその書物を読んでみる事にした。

『俺は今日魔王となった』

…魔王?肩書だけであれば約200年以上前に聞いた事がある。全ての魔法を操ったとかなんとか。正直信憑性が無いが一部の人間は信じているようだ。おっと、続き続き

『やり方は簡単であった。勇者の生首を皆の前で見せ、我が父…元魔王の死も同時に知らせた。すると、魔族たちは次の魔王がどうなるのかを凄く気にしていた。魔族の王に求められているものは指揮能力や頭の良さでは無い。どれだけの力を持っているか、ただそれだけだ』

この書物を書いている者が次の魔王を名乗っているという事は相当強かったのだろう…本当に全ての魔法を?

『俺が魔王に名乗りを上げると父にずっと仕えてきた力自慢たちが俺に挑んできた。だが正直、父に甘えていた者ばかりの為、雑魚たちでしか無かった。

全然駄目だ。今の魔族たちでは人間には…いや、次の勇者には勝てない』

勇者は知っている。王都の中心に石像が建っているのをよく見たことがある。目にも留まらぬ速さで移動し全てを切り刻んだ人間…過去の記録だけ聞いていると魔王に並ぶ化け物だが私たち人間にとっては英雄であった。名前は…多すぎて覚えてない。

『俺の部下に双子の獣人を迎え入れた。妹の方は問題ないが、兄の能力に少し問題がある。少し鍛えさせる必要がありそうだ』

獣人…族?聞いたことの無い種族だ。過去の記録にも…存在しない。いや、とある学者が一説として挙げていただろうか?動物の身体能力を備えた人間…だったかな?信用に値しない説だと思っていたが…信憑性が出てきた。

『進捗記録:全73ヵ国中32ヵ国を征服完了、半分を征服するのに2日掛かってしまった』

…は?えっ?どういう事だろうか?2日で32ヵ国を征服?…今と比べてみよう。今の国を奪うための戦争は2年以上掛かっている、原因は簡単だ、国同士の戦力が殆ど変わらないからだろう。…征服された国が弱いのか魔族側が強いのか定かでは無いが…これは研究の対象として見て良いだろう。

『俺の兄が父の死を聞きつけ帰って来た。父の死から3日経って帰ってきたが。正直、何がしたいのかは分かっている。兄として魔王の座を引き継ぎたいのだろう。だが、8割の国を征服した今、あんな奴にこの座を渡す気はない』

何故だろうか段々と禍々しい気配が段々と強くなって来た。特に次のページが怖い、殺意に近いものを感じる。しかも、段々と筆圧が強くなっているのも何か恐ろしいものを感じる。

私は恐る恐る次のページを開けた。

うっ…このページの端に付いているのは血だろうか?

『今日、兄がうるさいので殺した。ちょうど鍛えていた獣人族の兄が仕上がっていたので殺せと命じてみた。俺の兄は一心不乱に魔法を連射するが、全てを避け兄の心臓を貫いた。最期の足掻きで俺に魔法を飛ばしてきたが獣人族の妹がそれを防ぎ、兄の頭を…』

私は急いで書物を閉じた。鮮明な描写が頭に流れ込んでくる。胃から押し上げられた吐瀉物を無理矢理押し返す。これ以上読みたくは無いが…せっかく見つけた過去の書物を全てのページに目を通さず売ると言うのは如何せん私の人道を否定する事になる。覚悟を…いや、先の展開は読めている。このページは飛ばしておこう。

『全73ヵ国中72ヵ国の征服を完了した。期間は4日掛かった。さぁ、準備は整った。あとは時が来るのを待つだけだ』

何故か1ヵ国征服しない魔王、準備が整ったとはどういう事だろうか?

『3年という時が経った。今日、残しておいた国からようやく勇者と呼べる存在が誕生した。部下の報告によると年齢は17歳、性別は女、聖なるオーラや持った剣が聖剣に変化したところから勇者と認定したようだ。性格は魔物を何の恐怖もなく倒した点を見て冷静もしくは人としての感覚が欠如していると見て良いだろう』

魔王の目標は勇者を作る事だったのか…何故、そんな事をするのか理解が出来ない。強敵との闘いを求めているという事なのだろうか?いや、そんな馬鹿な事ある訳がない…とも言い切れないのだろうか?

『勇者が生まれて4日、明日には勇者がこの城に来るそうだ。部下の報告によると他の国を救うより諸悪の根源である俺を倒した方が良いという考えを持っている様で一直線に俺の方へ向かっているそうだ。あぁ、とても楽しみだ』

…ついていけない。というのが私の感想だった。英雄とは思えない勇者という存在。誰にでも救いの手を差し伸べる勇敢な戦士と語れているとは思えない人物だ。

ついていけないと私は思ったが好奇心により私の手は次のページをめくろうとしていた。

だが…無い。この先のページから全て破かれている。誰かに持ち出された?いや、持ち出すならこんな中途半端な部分を持ち出す訳が無い。最初から無かったわけでもないな破かれた断片を見ると何か書かれている。

『最』

駄目だこの一文字だけでは全く分からない。…諦めるか、無いものを求めるても意味がない。

私は諦め、この書物を持ち、城から去ったのだった。

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