17話 どうやら俺の…

「次はお前だ。抵抗せずして死ぬが良い」

と格好をつけてみたのはいいもの…人数的不利に変わりはない。

厄介な相手は僧侶の使う神の祝福に勇者の持つ聖剣の二つ。

だけど、何故だろう…頬の緩みが止まらない。

「よくも…エデンを‼」

「待て。ミアレア‼」

どう攻めるか考えていると格闘家の女が仲間を振り切って俺の下へ突っ込んでくる。

「お前に興味も脅威も感じない」

スピードはエメルどころかレンよりも遅い。そのゆったりとした動きに合わせ首を掴み取る。

「ガフッ‼」

彼女の肺から一気に空気が抜け、冷静な判断能力を失ったのかバタバタと暴れる。声は出ない様だ。だが、鬱陶しい。

「消え失せろ」

そう言うと俺は彼女を空中に離し、捕食の剣グラトニーを振りぬく。狙うのは…首。

「エアレア‼」

豆腐より簡単に人間の首と体を別に出来る。やはりこの剣は良いな。

「ふう…さぁ、次はどっちだ?」

俺が残りの2人を見る。2人は互いをカバー出来る距離で守りを固めていた。

「はぁ、圧倒的力を持ちながら防御にしか徹しない。もういい、完全にお前たちに興味を失った」

俺はゆっくりと彼らに近づく。それに合わせて2人も大扉の方へゆっくりと下がっていく。

僧侶の女の踵が扉に着いた時。

「津波‼」

と魔法を唱えた。圧倒的質量重視の魔法。捕食の剣グラトニーの弱点になりうる魔法。

「ここだ‼」

と勇者も波に乗り速度を増した状態で突っ込んでくる。そして、聖剣の刀身が俺の首を…

「だが、甘い」

捉える前に水が全て消え一歩ずれる。

「くっ…‼」

勇者は急いで下がるが剣がかすり、足の肉を削る。

「ミリガン様‼回復ヒーリング‼」

倒れながら戻ってくる勇者に僧侶は回復魔法を使う。神の加護、攻撃魔法、回復魔法…あの僧侶は意外に

「…どうして、治らないの!」

優秀だと思ったが勉強不足だな。

「回復魔法は肉と肉とくっつける魔法だって習わなかったか?小娘」

削り取った為、元には戻らない。

「大丈夫だ、ミリガン」

勇者は着ていた服の一部を千切り抉れた足に巻き付ける。そして、聖剣を杖のようにしながら立ち上がる。

「お前、あの時何をした」

自分の傷よりも戦いの事を1に考えるか…おもしろい、が人間はどうにも勉強不足だ。

「魔法をこの剣で消しただけだ」

「そんなことあり得る訳…」

「魔法は全てイメージだ。一見大量に見える『津波』の水は水滴一粒を想像するのと同じ。俺の剣はその一粒を掻き消しただけに過ぎない」

つまり

「俺の剣の力を抑えたいなら、同時に大量の津波あまつぶを想像しぶつけるしかないんだよ」

ちなみにこの芸当は雨粒一粒一粒を鮮明にかつ巨大に想像する必要がある訳なんだが…

「出来る訳ないじゃない。そんな事‼」

と怒る。

「あぁ、確かに出来ないな」

これに関しては肯定せざるを得ない、俺でも3つ以上出すことは出来ない。

「だが逆に、想像次第では…津波なんて楽勝で超えられる魔法が作れるって訳だ」

そう、それが

「防いでみろ水の弾丸ウォーターバレット

弾丸がどの様に飛ぶかを鮮明にイメージし水を飛ばす我流魔法

「えっ?」

勇者が捉えられなかったその弾丸は僧侶の頭を打ち抜き後ろに倒れた。防げなかった所を見るに僧侶にも見えなかったのだろう。

「やっと一騎打ちになったな、勇者」

パーティーは自分たちの弱点を補うために組む。その為、勇者にもう回復手段は無い。だが、俺は少し賭けている部分がある。それは…

「…俺は負けんぞ。仲間たちの為に」

勇者が敵に勝つという世界の摂理しゅじんこうほせい

「こい。勇者よ」

そう言うと、先ほどより早い速度で勇者は動く。足を怪我しているのに良い動きだ。だが、まだ本気はこんなものでは無いはずだ。

「本気で戦えよ。勇者」

近づいてきた勇者を剣で薙ぎ払った。ガキンッ‼と防ぐ音が聞こえた。

だが、同時に振り抜けてしまった。ガランガランガランと重々しい物が床に落ちる音が聞こえる。

聖剣は砕け散った。いや、消え失せた。聖剣なら防御不可を防げると思っていた。

しかし、駄目だった。勇者は俺の期待を裏切り床に倒れた。

この場で生きて立っているのが俺一人。俺に残ったのは悲しき心残りと虚無の心だけであった。







だが、いつまでもぐずぐずはしてられない。俺が次にすることは次世代の魔王となりこの心残りを解消する者を作りだすことだけだった。

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