14話 どうやら治安が良いと言うには早すぎたようだ
…ここは何処だろうか?
俺は天井の高い鋼鉄の牢獄の中で目を覚ました。何故こんな状況になっているのか分からない為、昨日の状況を整理しようと思う。
昨日は獣人族の宴に参加し酒の様な物を飲んだ。他の皆が先に酔いつぶれてしまったので、それを終わりの合図とし俺はサチと一緒に指定されたテントの中に入った、ここだ。ここから先の記憶が無い。前世では酒によって記憶が無くなる事が無かった。では、何故俺の記憶が無いのか不思議でならない。と考えた時、
「おやおや、もう起きてしまったのか」
と檻の外の死角から声が聞こえる。
「それにしても魔族をそして魔王の息子がこんなに簡単に捕まえれるとはな」
そして、声の主は姿を見せた。
男、細い肉体、獣人特有の猫耳や犬耳は無い。こいつは…
「人間か」
特に特徴が見つからない為そう断定する。
「あぁ、そうだ。だが、俺はただの人間ではない」
不敵に笑い彼は言う。
「俺は天才の科学者なのだ」
真面目に聞いたのが馬鹿だと思った。
「お前…信じてないな。お前は今俺の作った牢獄に閉じ込められて…」
「なるほどなぁ」
予想できる昨晩の出来事を解説しよう
まず、俺の記憶が飛んだ原因からだ。恐らく雷の魔法を使った何かで俺を気絶させた。原理としてはスタンガンと同じだろう。その証拠にこの牢獄の鉄格子部分に電気が常に流れているのが分かる。
「じゃあ、上をぶち抜いて外に出るわ」
「えっ?」
そして、俺には俺が作った
「この上は私が入ったテントだろ?」
牢屋の天井が無駄に高いのはそれが原因だろう
「そ、そんな事出来る訳が…」
「風の法則よ。我が身体に自由を与えたまえ
まだ詠唱が必要な最終魔法、魔法によって時間が掛かるが、性能や威力は一番と言って良いほど高い。いつかこの時間も無くしたいものだ。
「じゃあな」
「ま、待ちやが…」
バチッ‼
焦って鉄格子に触れた人間は電撃が流れ倒れた。
「はぁ、天才か。昔にもいたなそんな奴」
まぁ、前の奴も自称だったが。いつか本物に出会ってみたいものだ。
100m程上に上がり天井に触れる。木製の天井、牢屋としては不自然だ。つまり、
「
触れた木の天井がドロドロと溶ける。すると土と共に日の光が見えてきた。
「おっと、忘れていた」
自称とは言え天才科学者が復活してこの先、面倒事が起きるのは勘弁だ。だから、
「これぐらいなら無詠唱で出せるか」
手に浮かぶ
「とりあえずこのくらいか?」
俺が出した
そして、一斉に投下する。そして、
ドゴッッ‼
と低く音が響き渡る。これで生きていたのなら流石に天才と認めよう。
「さぁ、さっさと外の様子を確認しよう」
牢屋に居なかったサチの事も心配な為俺は急いで外に出た。
ドガッン‼
テントを
「やはり、捕獲は難しいですね。まぁ、あいつには最初から期待していませんでしたが」
と俺が来る事が分かっていたように獣人族の長サレンミルが言う。
「さぁ、もうお前にかける慈悲は無いぞ」
「えぇ、承知してますよ。ですが、貴方はあの子に勝てますか?」
サレンミルはそう言うと1つの檻を出してきた。その中にいる人物
赤い体、血走った目、鋭くなった爪や牙、そして青い髪
「…レンか?」
風貌はかなり変わってしまっているが雰囲気で分かる。あの檻の中で唸っているのはレンだ。
「さぁ、レンよ。試練を乗り越え立派な大人になるのです」
そういうと檻を開け放つ。
「ウゥゥゥゥ…‼アウゥ…‼アッー‼」
サレンミル以外にもいた獣人族を蹴散らしながら俺の方へ向かってくる。
流石に止めない訳にもいかず俺はレンに近づく。
通常時より早くなっている、それに
「動きが不規則だな」
動物特有の勘による不規則な動きや立ち回り、そうこう考えているとまた一段階速度が上がった。だが、
「こっちだな」
まだ反応出来る速度だ。レンの攻撃を止めようとすると瞬間的に回避行動をとるレン、何が危険か分かっているようだな。
「じゃあ、こっちからも攻めるとしよう」
レンの速度が上がるたび俺はその先の速度で対応し、攻撃を入れる。それを寸前のところで躱すレン、そのおかげかパンチが頬をかすりはするが直撃は無い。正直、泥試合と言ってもいいだろう。
そう思っていたのだが
ドッ‼
と急に動きが遅くなったレンに俺の拳が直撃する。
何事かと思ったが俺はすぐに理解する。レンの体が大きくなっている数値的には2倍ほど俺の身長を超すほどだった。
そして、油断したところを一発貰う。
「ほぉ」
流しきれないほどの力、どうやらレンは速さの代わりに力を手に入れたようだ。
俺は後ろに吹っ飛ばされた。
村の壁を破壊し地面に倒れた俺の頬は緩んでいた。
さぁ、楽しい戦いの始まりだ。
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