12話 どうやら始まりは大変なようだ
「アシュくん、こっちだよ」
俺のかなり前を歩きこっちに手を振ってくるサチ。どうやら精霊が案内してくれているらしい。エメルからの情報が半分ほど無駄になってしまったがサチが喜んでいる為、良しとしよう。
「…うぅ、サチ。いつからそんな」
そして、俺の隣をトボトボと歩いているレン、出発前の言葉が結構効いたらしい。
お前もそろそろ妹離れしろよと、声を掛けてやりたいが言葉をかけても反応が無いので一旦放置しておこう。
歩き始め5分くらい周りの木の数が減ってくる。そしてすぐに。
「アシュくん‼着いたよー」
木の柵に囲まれた村『ホムラの村』に到着した。
「お前、何者だ‼ここで何を…‼」
サチの大きな声で門番に気が付かれてしまったが、サチの姿を見た途端固まってしまった。
そして、
「お嬢様…本物?」
やっと動き出したかと思うと次にこちら側に気が付く(主にレンの方に視線が寄せられる)
「お坊ちゃま…?」
再び停止した。
「アシュくん、なんかあの人怖いんだけど」
完全に止まってしまった門番を見てサチが俺の後ろに逃げ隠れる。俺の意見を正直言ってしまうと、こいつも自分の世界に入って反応しなさそうだから無視をしたいのだが。
「お、お前今すぐそのお二人から離れろ」
と思ったが意外と早くこちら側に戻って来て持っていた槍をこちらに向けてきたので話し合い開始か。
「この2人はお前に怯えて私にくっついているようだが?」
「うっ、そんなはず」
と2人を見るがサチの怪しい人物を見る目が見事に門番に突き刺さり黙り始める。
「それに私はここの長に呼ばれてきたのだが?」
嘘は付いていない、実際サレンミル呼ばれて来たはずなのだから。
「そんな話聞いていない。それにこの村に入るには証だって必要に…」
「証…これの事か?」
とエメルからこちらに来る前に渡された木の球を見せる
「そ、それは…‼」
一気に震え上がる門番、俺には何故この門番が震えているのか全く分からなかった。
門番は反対を向き凄い速度で村の中に入っていった。
「これは入って良いのか?」
俺はサチに聞く。
「いいんじゃない?」
と軽く返事をするサチ。まぁ、サチが良いと言うなら入ろうと俺たちは村に入っていった。
村の中はとても静かだった、まるで誰もいないかのように。
「おかしいよ、さっきまであんなに賑やかだったのに」
とサチが言う。どうやらあの門番が村に入ってから静かになったらしい。もしかして、あの木の球が原因か?
「なぁ、サチ。この球から何か確認できるか?」
とサチにあの木の球を見せる。
「ううん、分かんない。お兄ちゃんなら分かるんじゃない?」
「おい、レ…」
「うぅ、サチ」
はぁ、こいつは。サチ以外の声が聞こえないようだ。
「お兄ちゃん、アシュくんが聞いてるよ‼」
と気を利かせたサチがレンに声を掛け…
「いつまでウジウジしてるの‼」
とサチがレンに思いっきり蹴りを入れた。
膝から崩れ落ちたレン、荒治療な気もするが家族間のやりとりの為、特に口を挟まなかった。レンはのろのろと体を起こし、俺の方へ向いた。
「うぅ、なんだよ」
まだ、完全には戻っていないが話せるだけ良しとしよう。
「これについて教えてくれ」
「…それは
古代遺物は読んだことがあるが、こんな球…果実の存在は書いていなかったな。つまり、獣人族間だけでしか見れない貴重な果実という事か。
「この果実は持っている者が思っている事や感情を込めて相手に送る、いわば手紙の様な物なんだ」
レンが手紙と言ったが俺には何1つ読めない。つまり、獣人族特有の解読方法があるのだろう。
「で、これは匂いで判断することが出来る。それも繊細だから俺らみたいな獣人でしか嗅ぎ分けれない」
「じゃあ、これはどんな思いが籠っているんだ?」
「はは、そんなの簡単に嗅ぎ分けれ…」
と匂いを嗅ぐ。すると、
「うぇ…ぅ」
とえずき始めた。口を押える。その光景は子供の頃、くさやの匂いを嗅いだ俺の様だった。…とりあえず、サチは離れさせとこう。
吐瀉物を完全に抑えたレンは話始めた。
「むせかえる程の憎悪や怒りが…詰め込まれてた。こんな思いが籠ってるもの見たことが無い」
恐らくエメルがサレンミルもしくは獣人族の誰かに向けた古代遺物いや呪物なのだろう。やはり、サチを近づけないでおこう。
呪物をしまい再び歩き始め村の中心の様な場所(焚火などが置かれていた)に辿り着いた。その時、
「よくぞ、来たな。魔王の部下アシュよ」
周りより少し大きめのテントから声がした。
「そして、お帰り私の大切な子供たちよ」
そして、現れたのは白い髪の顔がサチによく似ている獣人だった。
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