2話 どうやら俺の新しい生活は演技だらけらしい

体が光に包まれ10秒、視界が暗くなったと思ったらほんのりと明かりがさしてきた。そして、

「見て、あなた。アシュが目を開けたわ」

と女性の声が聞こえてきた。明かりに目が慣れ、目の前には角が生えた見た目は人間が二人。この2人がこの世界での親なんだろう。

「あぁ、何とも愛くるしい姿だ。シュウも見なさい」

男…父親に持ち上げられる見えなかった2歳くらいの男の子、つまり兄だな。

「どちらが俺の座を引いてくれるのか、楽しみだな」

「えぇ、そうね」

親二人は本当に嬉しそうな顔をしている。これが親というものなんだろう。

「さぁ、アシュの睡眠の邪魔にならないよう、そろそろ部屋を出るか」

「えぇ、さぁシュウ行きましょう」

と言い部屋を出て行った。この世界では寝かしつけるというものが無いのだろうか?まぁいい、俺も人がいない方が色々と調査しやすい。と言って調べたいのは山々なんだが…立ち上がれない。立ち上がれるまで赤ん坊らしく暮らすしかないな。

親が来たら笑ったり泣いたり演技をし、親がいない間は筋トレに励む。そうして、8か月が過ぎた。

「見て、あなた‼アシュが立ってるわ‼」

「何ッ‼おぉ、本当だ。凄いぞアシュ」

ようやく安定して立てるようになった。親二人は大喜びだった。

さて、そんな親の事は置いておいて。ようやくこの家を自由に探索できる様になっと訳だが。まず俺が行うのは書庫を探すことだ。この世界の文字や歴史、後は母親がたまに使っている魔法の事を調べる為である。

それにしてもこの家は広い、扉の数はおよそ100枚ほどあり、8階建てだ。まるでお城だな。…いや、城か。

そして、28枚目でようやく

(おっ、やっぱり書庫あったな)

俺はとりあえず10冊程手に取り目を通す。

10分後

(とりあえず、文字をあらかた理解したが。魔導書のこの文字は何だろうか?)

8冊は歴史や童話のような本、残り2冊は魔導書だった訳だが。魔導書の文字は他とは違う、ギリシャ文字と甲骨文字を合わせたような形をしている。

(仕方がない。他の本も読みながら解読しよう)

様々な本を読んでいると俺の家族の家系図が出てきた。

それによると、父親の名前はベル・ムエテル 母親はヴァルキリ・ムエテル 

兄シュウ・ムエテル という事が分かった。そして、俺の新たな名前はアシュ・ムエテル。

さて、家族紹介はこれくらいにしといてようやく1冊目の魔導書が解読できた。

炎の魔法フレイムについて書かれている。内容は…小さな炎フレイ火炎フレム地獄の炎インフェルノフレイム青き炎ヘルフレイム等、色々あるようだ。この本に書かれている魔力というのは、家電を動かす為の電気の様なものとして認識していたらいいだろう。

しかし、俺が欲しいのはこんな魔法ではない。まだまだ、この書庫で調べる必要がありそうだ。

毎日毎日、本を読み魔法を覚えて行った。途中、高速化クイックの魔法を覚えたことにより効率が上がった。全ての本を暗記するのに実に5年の時間を過ごした。

俺が5歳になり普通に話せるようになったころ

「アシュ、そろそろ簡単な魔法の1つでも教えてやろう」

と父が言い出した。正直、大体の魔法は覚えてあるから良いのだが、親心というものを汲み取り

「わーい」

と無邪気に父の背中を追った。

庭に出ると、父は手から火を出し

「まずは、これだ。小さな炎フレイ。火の魔法だ」

と楽しそうに説明する。本を読み実験する段階で何度も見た火だが、魔法を始めてみる子供らしく

「わ、熱くないの?」

と振舞ってみる。父は

「熱くないさ」

と笑顔で火を操って見せた。

その後、一生懸命に火を出そうとする演技をし、火打石程度の火を出したところで魔法の訓練は終わった。その時、陰で笑う兄の姿が見えた。

予定では、適当に魔法が使えない演技を6歳ぐらいまでしてそこからゆっくり上達していく息子を演じるつもりだが…予定が狂うかもしれないな。

そして、翌日早速

「おい、アシュ。お前、簡単な火の魔法も使えないのか」

と兄が煽って来た。父から聞く限り兄は火の魔法の適性があり教えてすぐに使えたらしい。火の適性が無い俺を見て、馬鹿にしに来たらしい。さて、兄への対応は…

「兄さんは才能があるからね」

と褒める形で逃げる。こうすれば大体の子供は気分を良くしてどこかに行くか

「そうだよな。お前は小さな炎フレイも使えないんだもんな」

更に煽りを入れてくる。兄は後者だったようだ。2年前までこんな奴ではなかったのだがな。とそこで父がやって来た。

「シュウよ。そんな風に言っているが、アシュは努力家だ。お前も毎日努力しないとすぐに抜かれてしまうぞ」

と叱ってくれた。しかし、父よ。その言い方をすると。

「へー、そっか。じゃあ1日でどれだけ強くなったか見てやるよ、アシュ俺と模擬戦闘しろよ」

ほら、子供は言葉の全部を理解せず、一部だけで理解するんだから。

「いや、そういう事では…」

父は戸惑っていた。仕方ない計画は狂ったが、助け船を出してやろう。

「大丈夫だよ、お父さん」

俺は父の手を握り笑顔で言う。そして、兄に問う。

「兄さん、僕との模擬戦闘、それは命令?それとも仕事?」

「兄の俺が言ってるんだ、命令に決まってるだろ」

「わかった。じゃあ、全力で証明してね」

これより兄(7)と俺(5)の小さな戦いが始まった。

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