3話 忘れたもの

俺は708と書かれたプレートのある部屋に案内された。


「ごめんね、散らかってるけど」



「気にしないよ」


 一般的な団地の物件と何ら変わらない広さの部屋。玄関にはクロックスやスニーカー、サンダルなど一人で住んでいるとは思えないほどの靴がある。

しゃがんでそれらを端に寄せて、部活用のランシューを脱いだ。


「あがってあがって」

水早はそう言って手招きすると廊下の奥へと消えていった。


「おじゃまします……」

少し緊張してしまう。


(女子の部屋……)


廊下とリビングの境界には昭和の雰囲気を感じさせるウッドビーズのすだれがある。


それを手で捲ると、リビングが全容を現した。


 ダイアル式のブラウン管テレビや旧型の扇風機。捲られていないカレンダー。

 これまた旧式のエアコン。卓袱台ちゃぶだいの上には新聞紙やコップ。


 そんな数も要らないだろと思うほどの風鈴、窓際には大量のコップが置かれていて、そのコップから植物が生えている。


 窓は外側に開放されていて、部屋の位置的に荒廃して緑に浸食された形骸水面世界が一望できるようになっている。その淵をオレンジと赤の花柄が付いた派手なカーテンがひらひらと揺れている。


 少し狭めのコテージには室外機が置いてあり、物干しざおには真っ白のシャツが一枚だけ干されている。


 少しさび付いたペンダントライトが部屋を照らす部屋にはフィギュアや食器、本、ありとあらゆる雑貨が飾られている。



「なんか、すっごい昭和というか、レトロな感じで良いな」

(なんか良い匂いする……)


「でしょでしょ?」


 そういうと水早はシンクで手を洗い始めた。



「ここにあるものは全部、私が来た時にはあったものなの」



「この形骸水面世界はね、水溜まりの中だから水面世界ってのは理解できると思うの」


「何となくは」



「じゃあ、形骸とは何か。お姉ちゃんに教えてもらったんだけど、この世界は現実リアルで作られた世界なんだって」


「というと?」


「まあ座って座って」


「あんがと」

 俺は緑と青のチェック柄のソファに浅く腰かけた。


「例えば、今ツユが昭和みたいで良いねって言ったけど、そのブラウン管のテレビなんて令和を生きる私達からしたら忘れているものよね」


「うん」


「デジタルの画質が良いテレビがいくらでもあるし、何なら私立達みたいなZ世代はテレビを見る機会が昭和に比べて圧倒的に少ない」


「ネットとかサブスクでいいもんな」


「じゃあ、この使われないブラウン管テレビの役割って何だと思う?」


「う~ん……」


「もう本来の”テレビ”としての役割は無い。形として残っていても、意味とか役割は含まれていない。デジタルの画質が良いテレビがあるからね。そりゃ、レトロな雰囲気が好きな人とか、年齢が高めの人たちは思い入れがあるだろうけど、大半の人はもう忘れてしまってる」



「そんな、”みんなに忘れられて”形だけが残ってしまったものが仕方なく流れつく世界が、この形骸水面世界」



「ちょっと難しいけど、まあ忘れてたもんが沢山あるって認識で良い?」



「うん。大方そんな感じ」



「んで、そんな世界からどう帰れるの?」



 そう問いかける俺が座るソファの隣に置いてある椅子に、水早は腰かけた。



「帰れるよ。多分ね」



 水早は首を傾けて俺の瞳をじっと見つめた。


 俺はそのまん丸な瞳に吸い込まれた。この形骸水面世界にやって来た時の様に。



 頬が、少し、赤くなった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

どもです。作者のこたろーです。前回のツユに続き、キャラクター紹介です。

今回は水早の紹介となります。


虎六とらろく 水早みつは 


三重県立下灘高校 2年5組 軽音学部 身長155㎝ 体重-

 

誕生日 6月7日 現時点(2023年10月)の梅雨入りの平均日(気象庁より)から


性格 不思議ちゃん ふわふわした感じ 


イメージカラー 紫


好きなもの キックボード 瓶入りの炭酸飲料 みかん


苦手なもの 辛いもの 寒い日 乾燥




苗字の虎六は、トラロックという神様から

名前の「みつは」は日本神話のとある神様から取りました。


性格 不思議ちゃん  と書いてありますが、物事において彼女なりの筋は通っています。その筋は僕も知りません。


軽音学部ですが、キーボードをやってます。ボカロが好きで、特に夏を感じさせる

曲を鬼リピしています。



以上が水早の紹介になります。


次回からの後書きは未定です。キャラ紹介でなければ何か他の話をしようと思います。


読んで頂きありがとうございました。次回もよろしくお願いします!!





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る