2話 形骸水面世界

「ようこそ。形骸水面世界へ」


俺は差し出された手を取り、身体を起こした。


「水早い《みつは》?」


 虎六とらろく 水早みつは。三重県立 下灘高校の隣の生徒だ。ただの、隣のクラスの女の子。


 真っ黒な髪の毛を後ろで結び、こめかみ辺りから6㎝くらいの触覚が伸びている。目と眉毛の間位まで伸びた前髪は定規で揃えたように整えられている。

 部活帰りだろうか、黒のスカートにシャツをインして、首元にはリボンを飾っている。


「なんか驚いてるけど、私はツユがこの世界に居ることにツユよりも驚いてる」

 水早はビニール傘の水気を切って閉じた。


俺は立とうとすると、ぶよぶよした足場に苦戦して平均台の上でバランスを取る子供のように両手を水平にした。


「いやいや。どこだよ。ここ」



「あ~ここ?ここは形骸水面世界。水溜まりの中だよ」



「ますます分からん」



「ここじゃ難だし、移動しながら話そうか。この世界のこと」



「どこに行くんだよ?」



「ん?私の家」



「は?」



「いや、私の家だって」



「おま、ここ住んでんの?」



「住んでは無いけど、住んでる」



「???」



「いいから、行くよ」



そういうと水早は俺の右手を握って、ぶよぶよしたシャボン玉のような何かから飛び降りた。


「おおお!?」


そのはまだ空中にあったようで、俺は何とか着地した。


 視界には今までの人生で初めてみる景色が広がっていた。倒壊した高層ビルに草木が纏わりつき、アスファルトはひび割れてその間から新しい緑が芽吹いている。 


 何本もの巨大な柱が斜めに倒れ、柱に支えられていたであろう道が途中で崩壊している。高速道路だったものだろうか。


 傾いた看板にドアが開いたままの赤い車。ずっと赤から変わらない信号機。


 斜めに倒れて建物にもたれかかっている電柱。


 それは青く澄んでいて、真っ青なサイダーに3段のアソフトクリームを入れたような入道雲。

 

 そして何よりも、所々に浮かんでいるシャボン玉のような半透明な何か。


「ああ、あのさあ。この折りたたみ傘、お前の?」

俺は落ちている間もずっと握っていた折り畳み傘をツユに見せた。


「あ!それ私の折り畳み傘!」


「ん」

俺はそれを水早に渡した。


「ありがとう!!」


水早は俺の目を見てにっこりとした。


 (こいつ、こんな顔だったんだ……)


「んで、色々説明してくれん?」


「いいよ。どこから話す?」


水早は「行くよ」と言わんばかりに手招きしてどこかへ歩き始めた。


俺はとりあえずそれに着いて行く。


「まずさ、どこなんだよここ」


「ここは形骸水面世界。さっきも言ったように水溜まりの中」


「水溜まりの中……?」


「そ」


「いやいや分からんて」


「私たちが学校に通って高校生やってる世界とは別の世界ってこと。まあ安心して。一応向こうにも帰れるから」


「一応?」


「うん。一応。こっちでいくら時間が流れようが、元の世界で時間は進まないから、そこらへんも安心して」


 水早は慣れた様子ででこぼこした水面世界の道を歩いていく。

俺は部活のランシューでよかったとつくづく思う。


「この世界は水溜まりを通して行き来できる。だけど、”元々水面世界にあったもの”を持っていることが条件。私が落とした折り畳み傘をツユが拾ったからその条件を満たしちゃったのかも。ごめんね」



「いいよ、別に」



「ちゃんとツユが元の世界に戻れるように案内するから」



「ああ。頼んだ」



「もっと責められるかもと思った。私のせいでこの世界に引きづりこんだから」



「まあ、この世界の景色、悪くないなと思ってさ。なんか、人類滅亡から遥か後みたいな感じでさ。人気もないし」



「確かに。私もこの世界で自分以外の人間見たのはツユで二人目だよ」



「他に誰かいるの?」



「前は居たよ。私のお姉ちゃんが」



「今は……?」

(あ、聞かない方が良かったか……)



「仕事で海外に行っちゃって、この世界の物を持って行かなかったからこの世界に来る条件を満たせないんだ。だからここ数年位は私だけだった」



「俺は第三村人か……」

(良かった……)


気付けば視界は広くなり、道の安定して来て団地だってであろう場所に辿り着いた。

7階位の高さの集合住宅がひたすら広がっている。建物の間には取って付けたような小さな公園があって、遊具は少しサビている。


俺と水早はなかでも比較的綺麗な建物の中に入って行った。

建物の壁には「22」と大きく書かれており、玄関は草木に浸食され始めていた。


「え、エレベーター動くの?」

当たり前のようにエレベーターの隣の「↑」を押した水早に俺はびっくりする。


「ね、不思議だよね。人気はからっきしなのに電気とかガスとか通っててインフラは全部生きてるんだよ」


エレベータが開いて、二人で乗り込む。


「ご飯とかは?」


「現実で食べてから来るか、買いだめしたやつを置いとくか」


「んでさ、ここお前ん家だろ?」


「そだけど?」


「いいの?」


「うん」


「そ、そうか」


「……………………」


『7階です』

エレベーターの音声が戸惑いを隠せない俺の会話を終わらせた。



‐―――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうもです。作者のこたろーです。予告通りキャラ解説します。

見なくても楽しめます。


一発目は主人公のツユです。


名前 高龗たかおかみ 梅雨つゆ (17歳) 男 テニス部

誕生日7月19日  身長170㎝ 体重55㎏ 三重県立下灘高校 2年6組


性格 面倒くさがりだけど、後からやる方が面倒だから結局ちゃんとやるタイプ


イメージカラー 薄い水色


好きなもの テニス ファッション(ストリート系) 邦ロック 星 苺ミルク


苦手なもの 高温多湿(汗をかくから) 道路(自転車で車道を走ると申し訳なくなるから)



作品内でやりたいことがあったので、運動部ですがかなり細めの体格です。

邦ロック(マカロニ〇んぴつ W〇rts が好き)です。

名前の「梅雨」は雨に関する言葉にしようと思ったからです。苗字に関しては日本神話のとある神様から漢字だけ拝借しました。


誕生日の7月19日は現時点(2023年10月)での梅雨明けの平均日です(気象庁より)


ストリート系の服装が好んで、柄物もかなり着るタイプです。初対面で服装から警戒されることを気にしているようです。(尚本人は初対面で人と話すのに結構緊張するみたいです)


以上が本作主人公のツユです!

作中では「ツユ」とカタカナで表記します。その方が見やすいと思うので。


次回はヒロインの水早になります。よろしくお願いいたします!!






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