第8話 翌日

「セシリア様、朝でございます」


(朝……朝かぁ。セシリア様って? んっ? ここは?)


「セシリア様、おはようございます。お休みのところ申し訳ございません」


 リシェがベッドのそばで呼び掛けていた。頭が覚醒してきたセシリアはガバッと起き上がる。


「あっごめんなさい! こんなにぐっすり寝てしまうなんて! 早く支度しないと、えっ、なにこの格好!」


 セシリアはマッサージをした後、あまりの眠さに負け、着替えをしたら食事もとらずに寝てしまっていた。

 着替えも意識が半分どこかにいっており、何を着たのかも覚えていなかったのである。

 

「落ち着いてください、セシリア様。まだ時間はあります。少しずつ準備をしていきましょう」


 そして、主にリシェとイナによってセシリアが改造されていく。

 肌の手入れ、ドレス、髪結い、メイク。次々とほどこされ、パッと見ただけでは誰かはわからないような姿になった。


(面影はあるけど、ここまで作り替えられたら詐欺をしてる気持ちね……)


 鏡に映る盛られた自分の姿に少し眉根を寄せる。

 昨日、久しぶりにちゃんとしたと思っていた結婚式参列の時の方が圧倒的に地味だったので、戸惑っていた。


「申し訳ありません。お気に召しませんでしたか?」


「あっ、そんなことないの! イナが作ってくれた髪型は最高よ。もちろんリシェのメイクもね。ただ、何だか私がこんな感じになるとは思ってなくて……」


「セシリア様はお綺麗ですので、メイクに気合いが入ってしまいました。明日からはもう少し控えめにいたしましょうか?」


(綺麗……まぁ確かに元がキツめの顔だから好まれはしないだろうけど、むしろ私にはこれくらいの方がいいのかもね)


「そうね。でも、たまにはこんな感じも嬉しいから、またしてくれる?」


「もちろんでございます」


 そして、食堂に連れられていき、テオフィリュスと朝食をとることになった。


「おはようございます。テオフィリュス様」


「おはよう、リア。今日はまた一段と美しいな」


「ありがとうございます。リシェとイナの腕がよいのです。ただ、それでもテオフィリュス様とは比べ物になりませんけどね」


 そこで、テオフィリュスはリシェの方を向き、アイコンタクトを交わしてからセシリアに向き直す。


「さて、まずは食事にしようか」


(私の処遇がどうなったのか気になるけど、まぁ駄目だったから出ていけなんて今言われても困るし。先に食べておきたい。というかお腹すいたし)


 目の前にはパーティーかと思うような料理が並んでいる。夕食をとらなかったセシリアは、早速食べ始めた。


(美味しい……! パンも卵もふわっふわ! こっちのハムも最高! 果物まであるし!)


 セシリアは心を踊らせながら、失礼の無いように気をつけて食事を進める。


「さて、食事をしながら今日の予定を話そう。ブラム」


 テオフィリュスが隣にいる執事服を着た四十代ほどの男性に声をかける。

 その人は昨日、セシリアを宿まで連れていってくれた人だった。


(この方、ブラムさんっていうのね。覚えて置かないと)


「かしこまりました。本日のご予定は、王宮での会談、その後結婚式を執り行い、すぐに――」


「ごふっ!」


 音を立てて吹き出すという令嬢らしからぬ行為をするセシリア。

 リシェが気づかって飲み物を渡し、背中をさする。


(今日、結婚式!?)


「リア、大丈夫か?」


 セシリアは水を飲んで一旦心を落ち着ける。


「すみません。それより! 今日結婚式なのですか!?」


「そうだ。今日出発する予定だと言っていただろう? 出発してどこで泊まるかもすでに決まっている。その中で無理矢理捩じ込んだのだ」


「それにしても急すぎですよ!」


「リアから結婚を申し込んだんだろう?」


「うっ……まぁそうなんですけど、あの、そもそも結婚式ってする必要ありますか? 後からでも良いのでは?」


「それは国家間の関係だな。さすがに魔術大国リルムガルトの序列一位の娘である魔術使いと結婚するとなって、そのまま連れていくというわけにはいかなかった。この国で結婚式を挙げることは必須のようだ」


「ややこしい国ですね……」


「国というのはそういうものだ。それは我が国も同じこと。バハムル王国も多くの問題を抱えている」


(そりゃあ完璧な国なんてないだろうけど、私には何だか想像がつかないことね。正直上手くやっていける自信はないわ)


 難しい表情で黙るセシリアにテオフィリュスが真剣な眼差しで問いかける。


「やっぱりこの結婚を取りやめるか?」


「もう決まっていることなのでしょう?」


「そうだが、今なら何とかできる。だが、結婚式を行ったらさすがにもう後戻りはできない。できる限りの良い待遇でバハムル王国に迎えたいと思っているが、それでも良いことばかりというわけにはいかないだろう。それでも、俺と結婚をするなら……いや、ちょっと待て」


 テオフィリュスは立ち上がってセシリアの前にくると、片膝をつけて手を取りキスをした。


「リア、俺と結婚してほしい」


 急なテオフィリュスの行動にセシリアの頬が熱くなる。


(これってバハムル王国の正式な求婚……! こんなの絶対に断れないじゃない! というか、どうやって答えればいいの!?)


 リルムガルト王国では求婚の仕方が異なる。知識として知っていても急なことでどうすればいいのかわからない。

 セシリアは軽く手を引いてテオフィリュスを立たせると、深めのカーテシーをする。これがリルムガルト流だ。


「よろしくお願いします」


 こうして、二人は結婚式に向かうのであった。

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