STEP3 【賦役の問題点とは】
現在、皆兵制度を採用している一部の国が『徴兵制度』として賦役を課しているのを除き、賦役はあまり利用されない徴税方法です。
たとえば地租は『生産力』に課税していた税ですが、これは国が国民一人一人の『所得』を把握できるようになってきたことから、『所得税』に変容していきました。
物品にかける税は、いまでもさまざまな形で残っています。(日本においては酒税・たばこ税・軽油税等)
売上税などは、販売高にかける税として採用している国は多いですし、関税も課している国が多い税です。
古代では非常によく課されていた賦役が、現在、あまり見かけなくなっているのは何故なのでしょうか?
①専門性の高い仕事には使えない
長期間の訓練や、学習、高度な研究・経験が必要な仕事には使えません。賦役は元々労働力の必要な地域から労働力を引き抜いてくるため、できる限り農繁期には返さねばなりません。
長期訓練や高度な知識を必要とする仕事は、そういう高度な知識を持っている者を金銭で雇い入れるほか、奴隷を使用する場合もありました。
奴隷のほうが長期利用できるからです。
②広範囲にわたって徴募せねばならない
国から広く徴募すると、風土の異なる地域の住民もそこに集うことになり、かつ、労働環境が適切でなかった場合は疫病を蔓延させ、徴募が終わって故郷に帰ったあと、その土地の住民に疫病を広める場合があります。
③需要のないときの労働力を貯めておけない
毎年決まった仕事がある農園労働を除き、兵役は戦役があるとき、大規模工事の労役は工事のあるときに限られます。もちろん、仕事が皆無になることはないでしょう。兵役は防衛・監視の仕事は恒常的にあるはずですし、工事も改修や修繕工事はつねに発生しているはずです。
けれども、年によって、百万人集めたい年もあれば、一万人で充分なときもあるとすれば、これを平均的に徴募できれば、とか、徴募の必要がない年には代替のなにかを徴収できれば、と考えるのは、支配者としては当然でしょう。しかしながら賦役のみではこれは不可能です。
④一番集めたい層が集めにくい
兵役でも大規模工事の労役でも、仕事持っている農民や都市民を多数徴募すると本来の仕事に支障を来します。徴募してあまり問題がないのはなんらかの事情で故郷を離れた流民や、定職に就いていない無頼漢といった人々ですが、彼らは戸籍のような支配者の管理する台帳に載っていないことがおおく、支配者側が積極的に彼らを徴募しようとしても、捕捉できません。
支配者側に見えているのは、安定的に定住している人々で、彼らは本来の仕事を持っているわけです。
これらの問題点により、やや極論になりますが、兵役は常備軍を備えるか、傭兵を雇い入れるようになります。
国民皆兵の兵役が戻ってくるのは、近代に入り、住民登録等で住民を把握する制度が整ってからになります。
大規模工事は長らく賦役でまかなうものでしたが、比較的小規模のものは金銭で経験のある労働者を雇った方が早い。現代では工事の機械化が進み、その機械を扱える専門労働者を雇い入れることで工事を行うようになります。
農園労役は東欧やロシアに残っていましたが、ペストなどで人口の減った地域では農民の地位が向上し、採用している地域が減っていきます。また、アメリカなどでは奴隷制によって労働力を確保したことから、賦役による農園労役は行われませんでした。
賦役は、大規模工事で死者が多かったり、戦役で戦死者が多数出たりすると自国の生産に関わってくるため、常識のある支配者は無茶なことはしませんでした。労働力は貴重であり、かつ、働かせているのは自国の民で奴隷ではないので、ほとんど飲まず食わずで働かせる、使い潰す、みたいなことはしないわけです。
もちろん兵役も大規模工事も危険が伴いますからある程度の死者や、手足の欠損など、働けなくなるような怪我人は出てしまいますが、原則は、生きて故郷に帰ってもらってまた生産活動に従事してもらわないと困る。
(もちろん諸国の皇帝や国王、領主のすべてが常識的であったわけではないので例外はあります)
国内の日常的な生産活動と、支配者の求める労役、それを天秤にかけなければいけなかったわけですが……面倒ですよね。
それゆえ、賦役は貨幣経済が発達してくると、人頭税のような金銭で徴収されることが主流となってきます。
支配者はお金を集め、それでもって労働者を雇ったわけです。これだと、兵役では傭兵などの戦闘の専門家を雇用したり、常備軍を創設してプロの兵士を育成することができます。大規模工事では、期間決めの労働者として土地を持たない流民を積極的に集めることもできます。流民に手間賃としてお金を支給すれば、それを元手に安定的な生活を始めることもでき、国の治安対策としても有効です。国内で人手がなくても諸外国との関係が良ければ、外国人を雇用することもできるでしょう。
賦役は、全体の傾向としては貨幣経済の発達とともに衰退していった税制でした。
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