皇帝と悪魔の対話 その3
では、城を建設する段取りはできましたかな?
ふむ、そんな段取りがすぐにたつようなら、なにもおまえには相談しておらぬ、と。
私は税を集めるのが本分で、人集めは守備範囲外なのですが……まあ、よいでしょう。
陛下は騎馬民族の王でいらっしゃいましたから、陛下の子飼いの民は恒久的な城や港の建設には通じてはいないでしょう。
農耕民族が発展させた都市は、都市そのものがひとつの『城塞』であるような場合もあります。農耕民族は、その在り方故に、騎馬民族よりも堅固な構築物の建設技術に通じているものです。
ただし、城塞など(浄水の誘引設備や排水設備を含む)の建設技術は、遊牧民族の移動用居住施設(ゲルなど)と違い、誰もが作れる設備ではありません。
農耕民族が集う『都市』は、分業化が進んだ場所であるということは心に留めておいてください。
このような『専門知識の所有者を集める』ことについて、賦役は苦手としています。
専門技術者は、対価を支払って集めるほかありません。
また、たとえば城なら『難攻不落の城塞』『居住に快適な城館』『国の威信を国内外に知らしめる威圧感のある城』等、どういうコンセプトの建築をしたいのか、陛下がはっきりとした方針を持っていることも重要です。
端的に申し上げれば、在野の専門家を求めるならば、支配者(の官僚)みずからが巷間に分け入って探してくるか、それが面倒ならば被支配者の有能な官僚を雇い入れて、彼らの知見をもとに必要に応じて専門家を探させることが必要になります。
陛下がお決めにならないといけないのは、国をどのような形態に持って行くか……その方針です。
陛下が農耕の民で才能のある者を重用し、居住用の城を建設したとします。陛下の臣たる騎馬民族の人々が陛下に倣って城塞をこしらえ定住すれば、ゆくゆくは騎馬民族としての在り方を失っていくことも視野に入れておかねばなりません。違う生き方をする民族を支配する際、その技術等、良さを取り込んでいくと、騎馬民族の良さが失われることもある、ということです。
また、農耕民族の方が数が多い、ということをお忘れになってはいけませんぞ。民族間の接触が多くなれば、可能性としては数の少ない陛下の民族がその特徴を失っていく可能性が高いのです。
大規模土木工事は、騎馬民族にそのノウハウの蓄積がすくないだけに、民族間の密接な交流の場となります。
いにしえには農耕民族と同化していった遊牧国家があります。農耕民族とは同化せず、農耕民族は農耕民族の行政制度で統治しつつ、身分を厳しく隔てて自分たちは別の制度と文化を保持し続けた場合もあります。身分を厳しく隔てれば、農耕民族が多数派なだけに、社会不安が爆発したとき騎馬民族だけでは叛乱を押さえ込めません。未来においてふたつの民族の在り方をどうしたいのか……陛下の指し示す方向に、民を導く……築城などの大事業は、その方針があってこそ盤石に進めることができるのです。
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