第三章 公主様に愛を叫ぶまで
第35話 公主様のハーレム計画
必要最低限の家具しか取り揃えていない簡素な室内には、大きな
そしてすぐに、元の乏しい表情へと戻ってしまう。
ため息がでた。
「どうして私は自然に笑えないのだろう」
指先で口角をくいっと上げてみるも、
正確にいえば、笑えないわけではない。運命の決したあの夜、
黒陽は、
群れでの序列を表す将妃は、序列第二位・軍事の最高司令官を務める
龍人族の群れは女社会である。群れが大きくなるにつれて、群れの
その帝王学を黒陽は幼少の頃から叩き込まれた。群れを大きくするための考え方から、創意工夫の方法まで。人の上に立つ心構えから、
特に黒陽に影響を与えたのは、個人の利益よりも群れの利益を優先しなければならない、という教えだった。幼少の頃からずっと説かれ続けたその教えは、個としての自分を殺す結果に繋がり、感情の起伏が少なくなった。
「自らを律するあまり、可愛げのない女になってしまったのかもしれないな」
ポツリ、と黒陽の口から呟きが漏れた。
しかし黒陽は、母・
群れにおいて、すべての役割を一人でこなすことは不可能だ。人には得意・不得意があり、得意な分野を各々が担当すれば良いのである。そうして群れは形成され、発展して大きくなっていく。寵愛を受け、子を産むという役割もまた同様だ。
ぐっとこぶしを握りしめ、黒陽は決意に頷く。
「だからこそ、幅広い才能を持った妃たちで
群れを大きくし、多くの龍人女子を
「待っていろ、
手鏡を勉強机へ置く。そうして黒陽は、引き出しから
「だが、優秀なら誰でもいいというわけではない。群れに必要なのは調和。そして群れに害となるのは嫉妬。ゆえに、桜華のような人材が理想だ」
母・
『嫉妬は群れを崩壊せしめる悪の感情よ。賢いあなたなら大丈夫。うまくコントロールできるようになりなさい』
母は決して他人事ではないのだと熱く語った。かつて龍皇の群れでも嫉妬が原因で崩壊しかけたことがあったのだと。就寝前のベッドの中で、絵本を読み聞かせる代わりに、幼い黒陽に何度も何度もそう言って聞かせた。
「ゆえに、嫉妬深い女は妃に相応しくない」
近い将来、覇者となりえる
その点、桜華は理想的な人材だった。後からやってきた黒陽を受け入れ、その上、正妃を譲ることのできる度量。そして本人の知らぬところで捧げられる献身。
それは黒陽の思い描く妃としての理想像そのもの。ゆえに黒陽は、彼女のことを心の底から尊敬している。
「正妃を譲るなど、いくら事情がある事とはいえ普通はできない。もしもその必要に迫られたとして、果たして私は、桜華のように譲ることができるだろうか?」
もう一度、羊皮紙の束へ視線を落とす。
それは現在、彼女が捧げられる最大限の献身。その成果である。
「私は不器用な女だ。だから今はこのぐらいしかしてやれない」
恥ずかしがり屋の彼がこれを見たら、どのような反応を示すだろうか。その姿を想像して、黒陽はフフッと微笑を浮かべる。
「そう。
その策は、ハーレム計画とは目的を別とし、主人たる
「ふふ、私は悪い女だな。
黒陽の陰謀は、とっくの昔に始まっていた。
獣王の森から脱出を果たしたあの時から。
――――――――――――――――
第三章の開幕です。
第三章では、第二章同様にほんの少しだけ謎解き要素があります。
大した謎ではないので、よく読めば気付くかもしれません。
前半はラブコメ風の学園生活を送り、中盤に事件が発生します。
犯人は誰なのか? 良かったら予想してみてくださいね。
最後に。第四章はまだ一文字も書いていません。従って、毎日更新をしてしまうと、第三章が終わった後に長期の空白期間が生まれることになってしまいます。ですので、週二回更新(水曜日と日曜日に更新)を予定しております。
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