第14話
私のわざとらしい怖がってるポーズがよほどツボだったのか、お父さんもノリノリだ。
「これは、こうだ!」
「…………」
こうだ、からが長い。お父さんはロープを気に結んで、広げた。
「ハンモック?」
「そうだ」
4本の木に端を結んで広げられたそれは、ロープではなく網に編まれたハンモックだった。
「ここに寝てごらん」
私は遠慮なくハンモックに寝転がった。四方に結ばれているからか、結構安定している。
「で、こうする」
お父さんは、私の下で何かしだした。見たいけど、思ったより安定するとはいえ網なので下を覗き込むと落ちそう。だけど、何をしているかはすぐにわかった。特徴的な香りのする煙が漂ってきたから。
「蚊取り線香?」
「寝てる間に刺されたら嫌だろう?」
まぁ、確かに嫌だけども。
「私はこれから蚊取り線香で燻製にされるってことね」
「美味しくなってくれよ」
「蚊取り線香に求めること?」
お父さんはひとしきり笑ったあと、もう1つハンモックを用意して自分もそこに寝転んだ。
煙は邪魔だけど、程よく揺れるハンモックは心地いい。私はうとうとしながら、時折薪を足すお父さんを眺めていた。
あんまりにも見つめていたからか、お父さんがこっちに歩いてくる。
「愛理、やっぱりお父さんは愛理が大事だ。他の男になんて渡したくない。お父さんと結婚しよう」
「お父さん……」
真剣な目で私を見つめるお父さん、かっこいい……。
「でも、私たち親子だし……」
「血は繋がってないんだ、問題ない」
「私、浮気した女だよ?お母さんと一緒……」
「お父さんだけに夢中にさせてやる」
私はついお父さんのズボンを見た。実はお父さんは大きいのだ。つい、ごくりと唾を飲んだ。
「愛理……」
「お父さん……」
「愛理、愛理」
「私も好き……」
「愛理、起きなさい」
「えっ」
私が目を開けると、目の前にお父さんの顔があった。とりあえず目を閉じて口を突き出す。
「何をしてるんだ……。ほら、これでよだれを拭いて」
「えっ!ウソっ!」
私は差し出されたハンカチをひったくるように受け取って口周りを拭いた。べちゃぁーっとよだれがつく。あ、あんまりにも恥ずかし過ぎる……!
「幸せそうに口を開けて笑ってたからだな」
夢か。そりゃそうか。あんまりにも私に都合が良過ぎる。そもそもお父さんはあんな事を言わない。ついでに言うとお父さんの秘蔵コレクション的にも私はタイプじゃないはず。
「私、結構寝てた?」
「2時間くらいだな。燻製も終わったし、移動するから起こしたんだ」
見ると、お父さんは燻製した後っぽい袋を持っていた。お父さんが寝ていたハンモックも片付けられている。
「もう全部終わったの?」
「もう後は愛理のハンモックと洗濯物だけだな。気に入ったなら、テントの方に持っていこうか?」
「……そもそも何泊するの?」
「家に見知らぬ男が3人も凄い剣幕で押しかけて来たんだ。1週間くらいゆっくりしてもいいと思わないか?」
お父さん目線だと確かにそうかも……。
「ごめんなさい……」
「いいんだ。これも人生の勉強になったろう?」
「お仕事とか学校は?」
「お父さんの仕事は元々フリーランスだし、学校はもう転校してしまおう」
「転校?」
「噂も広まってるだろうし、遠くに引っ越して転校してしまおうと思うんだが、どうかな?イタリア、アメリカ、ロシアならお父さんの知り合いもいるし、愛理の噂なんて知らない人ばかりだ」
どうしよう、寝起きだからなのかびっくりしてなのか頭が回らない。
「で、できれば日本国内がいいかな……多分」
「まぁ、そういう事だから焦らなくていいってことだよ。ゆっくり考えたらいい」
「……ありがと」
私はちゃんとお父さんの目を見て、お礼を言った。
「さ、そろそろ物々交換の時間だ。洗濯物を取り込んでテントに戻ろう」
私はハンモックのヒモをほどいて、結局テントに持っていくことにした。1週間もキャンプするなら、使う機会はまだあるはず。
洗濯物はしっかり乾いていた。タオル類は畳んで小屋の元あった位置に戻す。服は畳んで袋に入れた。
荷物は多いけど持てないほどじゃない。私とお父さんは無事にテントまで戻った。
お父さんが少し待つと言うので、もうぬるくなってしまったお水を飲んだり薪の割り方を教えてもらったりして過ごした。
少しすると、大きい車がやって来るのが見えた。言い方は悪いけど、映画とかで誘拐犯が使いそうなやつだ。しかも真っ黒。
その車は私たちが乗ってきた車の横にきゅ、っと止まった。
「愛理、行こう」
お父さんは物々交換用の魚を持って立ち上がった。
「え、あれが?」
後ろの扉がばーんと開いて、中から女の人が出てきた。ちょっとびっくりするくらい美人だ。髪の毛はもう見ただけでわかるさらっさらで、明るい茶系の色。顔は小顔なのにキレイ系とかじゃなくてふわっとしさ優しさを感じる。というか胸が、胸がすごい。私なんか目じゃないくらい大きい。女の私でも埋もれてみたいやつだ。お腹はちょっと細いとは言い難い感じだけど、腰から下は運動部女子って感じの細いよりもキレイな脚。頬ずりしてぐへへ、って言いたくなる脚だ。
まとめるとバケモン級の美人。おっとり系ぽいのに、キャンプ仕様なのかジーンズと長袖シャツの上に革っぽいベストを着てるのがおしゃれだ。というか、革ベストのシルエットが太めなせいでお腹が太く見えてるのかも。
美人でおしゃれは卑怯が過ぎるのでどっちかにして欲しい。
「愛理、ジロジロ見過ぎだ。失礼だぞ」
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