第13話

物々交換ってどういうこと?と思ったけど、必要な物資を物々交換で貰うんだよ、としか教えて貰えなかった。意味がわかんないわけじゃないよ、今どき物々交換ってどういうことなのって聞きたいんだよ。


お父さんは既に準備を始めていたらしく、クーラーボックスから謎の袋を取り出した。


「なにそれ?」

「昨日釣った魚だよ」

「え……黒くない?」


お父さんは開けて匂いを嗅がせてくれた。


「おしょうゆ?」

「そう。漬けておいたこれを、今日は燻製にしていきます」

「燻製?ベーコンみたいな?」

「ベーコンみたいな」


イメージがつかない。


「まぁ、やってみればわかるさ」


私とお父さんは小屋まで行って、大きな金ダライにお水を入れた。そこに、黒く染まった魚を漬けておくらしい。……2時間くらい。


「そんなに待つなら、水に漬けてから洗濯とかしたら良かったんじゃ……」

「愛理」

「この間に何かしないといけないとか?」

「お父さんもうっかりすることくらいあるんだ……」


なんてこった。うちのお父さんが普通の人間みたいなことを言い出した。


「ちょっと早いけど、テントに戻ってお昼ご飯の準備をしてしまおうか」


お昼ご飯は焼肉丼にすることになった。


昨日焼いてるうちに私が寝てしまった例のカルビを焼き直して、ご飯に載せるだけ。それだけでも絶対美味しいのに、刻みのりもコチュジャンもある。無敵だ。


灰をかき出して、燃え残りの炭に薪を足す。火起こしは私がやってみることにした。昨日お父さんがやってた木を削るやつを作って、細い枝も拾い集める。削って薄くめくれ上がったところにマッチの火を移す。火が広がるように傾けながら持って、炭の隙間に置いた。小さい火がなんとかついているのを確認してから、上に小枝と葉っぱをかぶせた。


煙がたくさん吹き上がって、やがて拾った枝全体に火がついてぼわっと広がる。こうなったら炭にも火が移るはず。


私は炭に火が移るのをしっかり確認してから、お父さんにドヤ顔を決めた。


「じゃあ愛理が頑張ってくれた火でお肉を焼きますか」


昨日焼いた肉は1度焼いてあるので、遠めの火であっためてから強火で表面をサッと焼くらしい。


お父さんが全部食べたと思ってたので、残しておいてくれたのはすごく嬉しい。


脂とタレでテカテカになった肉がこれでもかと載せられ、小さな山になっている。お父さんと一緒にかき込む。問答無用で美味しい。


「やっぱり脂の多い肉はご飯が合うね!」

「異論はないな」


大満足のお昼ご飯を終えて、また魚の作業のために小屋に戻る。


魚たちを水から引き上げて、1匹ずつ丁寧に水気を拭き取る。それから、口に小さな穴を空けてタコ糸を通して輪っかを作る。それを繰り返して、長い棒に吊り下げていく。


たくさん魚が吊り下げられた棒は、両手で持っても結構重かった。地面に落とすのは嫌なのでお父さんが運ぶ。小屋の裏になぜかもう1つとても小さい小屋があって、お父さんはそこに魚を吊るした。ちょうどよく壁に棒をかけられる出っ張りがあった。


「これってもしかして、燻製するためだけの小屋なの?」

「そうだよ。燻製小屋になっていて、外から燻製用の木をくべることができるようになっている」


木の壁は真っ黒だし、何回も煙でもくもくしたんだろうなという匂いがしてる。私とお父さんは小屋の横についているストーブみたいな部分に薪を積み上げた。薪も、他の薪とは別に保管されていた薪だ。


「で、これに火をつけると煙が小屋の中に広がるようになってるわけだ」

「じゃあここでずっと火の番?」

「そういうことだね」


私は、じゃあイスを持ってこようと提案した。火の番をする間、ずっとしゃがんでいたらしんどそうだ。だけど、お父さんはいらないと言う。


「まぁ、とりあえずは火をつけよう。それからどうするかはお楽しみだよ」


お父さんはそう言うと、小屋からダンボール箱を1つ持ってきた。結構大きめのやつだ。


そこから、お父さんはバーナーを取り出した。ガスボンベを挿して、カチッとボタンを押すと炎が吹き出る。薪に数秒で火がつく。


「バーベキューの時もそれ使ったら良かったのに……」

「せっかくのキャンプなのに、これで火をおこしても楽しくないだろう?」

「えぇ……」


サッと火つけて早くお肉焼く方がいいと思うんだけど……。お父さんがにっこにこで言うからなんとなく言いづらい。


燻製小屋の扉を開け、煙が問題なく広がっていることを確認して作業は休憩。お父さんはダンボール箱をごそごそして、ロープの塊を取り出した。綺麗に結んでおかなかったのか、ぐちゃぐちゃに絡み合ってボールみたいになっている。


「次は愛理を燻製にする」

「え?」


お父さんはにっこにこのままだ。


「私を?」

「うん」

「煙でもくもくするの?」

「そうだよ?」


笑顔のままにじり寄ってくるお父さん。両手にロープ。犯罪的な絵面だ。


「そのロープはどうするの?」


私が両手で自分の肩を抱くようにしながら聞くと、お父さんはニヤリと笑った。

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