第10話

お父さんは呆れたような顔で私を見ていた。そして私は顔から火が出るかと思った。


薄暗くて気づかなかっただけで、お父さんはバスタオルを用意しておいてくれたらしい。


取りに戻るのも今更だろうということで、私はお父さんに呆れられながらドラム缶に入った。タオルがあったのに、全裸で脚立を登ることになったのはとても恥ずかしかった。


とはいえ、お風呂はとても気持ちよかった。狭いけど、狭いからかもしれないけどなんだかフィット感がある。


すぐ横にテーブルもあって、熱くなってきた時に足す水や飲むための水が置いてある。ちゃんとお風呂から出る時用のバスタオルもお父さんが持ってきてくれた。


ランタンは消してあるので、ドラム缶の下からこぼれる火と星明かりしかない。満天の星空はきれいだけど、なんだか「きれいだな」で終わってしまう自分が残念に感じた。もうちょっと情緒ってものがないんだろうか。


「ねぇ、お父さん」

「どうした?」

「一緒に入ろ」

「………………」

「くっついたら、2人は入れるよ」


お父さんは少し迷ってから、その場で服を脱いだ。


「入るぞ」


余裕のある湯量ではあったけど、お父さんが入ると流石にちょっとお湯が溢れた。


「…………」

「…………」


2人で耳を澄ませると、ぱちぱちと薪の爆ぜる音がしたので火は消えてなさそうだ。


「で、どうしたんだ?」


狭いので、お父さんは私を後ろから抱き締めるようにして聞いた。


私が小さい頃は、よくこうやって話を聞いてもらった。その日何があったかとか、楽しかったこと、大変だったこと。


「お父さんって、お母さんがいなくなってからえっちなことってどうしてたの?」

「いや待て、これは違う。愛理に擦れたから少し反応しただけであって、物理的な接触に対する反射だ。やらしいことを考えたわけじゃない、ほんとだ」


いやまぁ、確かにぴくんてしてたけどそうじゃなくて。必死すぎて、むしろ怪しくなってるよ。


「そうじゃなくて」


怪しんでないよアピールのために、私は平然と続けた。


「えっちなことって、気持ちいいじゃん」

「……まぁ、そうだな」

「したくならない?どうやって我慢してるの?」


私は、別に好きな人がたくさんいたとか、好きだったけど違う人が好きになったとかじゃなかった。


この人としてみたい、と思う人とえっちしてみた。好きだとか、付き合って欲しいとかは言ったことがない。


……あれ?私ってビッチってやつでは?


違う、脱線した。つまり、気持ちいいからえっちなことをしたのであって、その人が好きだからじゃない。だから、好きな人がもういないお父さんに、我慢の方法を聞いてみようと思った。


「お父さんは、1人でしてるな。世の中にはそういうことのためのグッズもあるし。愛理には分からないように処理してる」

「女の人とえっちしたくはならない?」

「……実はな、お父さん女の人とそういうことができないんだ」

「詳しく聞いてもいいやつ?」


ちょっとこれは、親子の相談の範疇を超えちゃう気がしてきた。


「えっとな、イチャイチャするまではいいんだ。手とか口で触ってもらうと気持ちいいんだけど、いざとなるとダメでな」


直接的に言わないようにし過ぎて、余計にわかりにくいよ……。


「中折れしちゃうってこと?」

「あー、うん、まぁ、そうだな」


あんまりバッサリ言うとダメそう。なんかショックを受けてる気がする。


「……それって、私がお父さんの子じゃなかったから?」

「愛理はお父さんの子だ。それだけは絶対に譲らない」

「それとこれとは別だよ。私のお父さんはお父さんだけ」


んー、違うな。これだとちゃんと聞けない気がする。私は言い方を変えた。


「お父さんができなくなったのは、お母さんが原因?」

「お父さんのメンタルが弱いだけさ」


少し話が逸れてないかな?とお父さんは言った。後ろから抱きしめて耳元でささやくのはやめて欲しい。お父さんとはいえエロさを感じる。


「私は浮気っていうか、えっちなことが気持ちいいからするというか、そんな感じだったから」

「…………」

「えっちなことを我慢できればいいのかなって。気持ちいいからってそればっかりだと理性ゼロじゃんって思って」


「……お母さんが使ってたグッズがあるから、それを今度使ってみるといい」

「え、それはヤダ」


使い古しのそれは流石にダメでしょ。

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