009.鳥と蛇と2羽の鳥

木の階段を一歩一歩踏みつけ、上を目指した。

陽は僕を貫き、殺そうとする。

目を覚ました時、教会にいたままだったからまたあの地獄に囚われるのではないかと心配だったがまだ大丈夫らしい。カレンダーは2016年7月3日となっている。

カツン、カツン…

戻ってきて、まずはシスターを探した。だが案外早く見つかった。

近くの神社。彼の化け物となった夜神楽 すずしを殺した、あの神社である。

本殿は未来のものとは違い、苔が蝕み、神社の鳥居に上がるまでの階段は向かって左側にしかなかった。だが問題はそこではない。

そう問題はそこではないのだ。あの巫女がいないのだ。小國はこの世界に存在していないらしかった。

シスター曰く、知らないの一点張りだった。

実際知らないのだろう。なんせ彼女の顔には余裕がなかった。虎と出会った夜、あの残酷な余裕がなかった。今となれば何を焦っていたのかは分からないのだがそれほど不味かったのだろう。なんて言ったって、ぼくが未来に行っていたことよりも小國のことの方に気を取られていた。

身長、体重、年齢、そして…小國から渡されたものを何も持ってきていないか…

僕はポケットに突っ込むとお札があった。1枚のお札。だが僕は嘘をついた。

また、彼女に対して嘘をついたのだ。

ぼくは扉を開けた。そこには瑠璃色の髪を振るわせた、セーラー服の女子高校生、夜神楽 すずしがいた。

「あれ?はかりくん、またきてくれたんだ。嬉しいな」

彼女の目からは黒色の液体が流れている。

「ああ、そうだよ。」

「お昼食べにきたの?」

彼女の髪は触手に変貌していく。

「違う、今日はお前に会いにきたんだ。」

「ふーん、そうなんだ。まあとりあえずご飯でも食べようよ」

「ああ、そうだな…」

夜神楽 すすしのご飯を食べてはいけない。死者の食べ物を食べてはいけない。食べたら自分も死者となり、その幽霊とほぼ同質の存在になる…らしい。

ぼくは少し気になったことがあった。彼女と最初に会ったとき、ぼくには魔法が使えないと言っていた。なら一つ矛盾が存在する。ぼくは使う魔法が弱いのではなく、使えないのだ。仮に魔法という概念が太古からあるとして、なぜそれが確立されていたのだろうか?答えは一つだ。

僕は魔法が使えない特異体質。つまり、小國の言ったことが本当なら…

僕は元より、魔力回路を持たない地獄に堕ちる側の人間ということだ。

「はい、あーん」

「いままで…ありがと…な。すずし…」

ぼくはその時、人間を辞めた。

僕はポケットから縄を取り出し、一本糸を解き、縄を自分の腕に巻いた。

「あはははははははは」

彼女は笑い出す。そんなことをしても意味はないという。このギャンブルに僕は勝った気がしていた。この世は常に1/2だ。成功か失敗か、ただ思うのは一つだけ…

「すずし、ぼくはこう思うんだ。好きなやつのために地獄に堕ちれるとして、その願いが叶ったら、僕はどれだけ幸せだろうってさ」

ぼくの身体には激痛が走る。ぼくは解いた糸指に巻き、すずしの指に巻いた。一本の白い系。純潔と死。死のウェディングを再現した。それは初めて酒を飲んだときのような喉の熱さが全身に広がっていく、焼けるような痛み…これがすずしが…ぼくが救えなかったすずしの痛みなのだ。

「はかりくん!」

すずしの髪は元に戻っている。彼女はもう分かっているようだった。

「羽狩くんごめん、私、きみを...」

「いいんだよすずしお姉ちゃん」

その目はただ深く、ぼくを魅せる。深く、深く、僕を吸い込む。彼女がこうならなければ、彼女がいじめられなければ、彼女が僕と生きていてくれたらどれだけ幸せだろうか。僕は唇を少し噛んだ。それはまたすずしも同じようである。罪もない穢れもないそんな彼女はただ美しかった

「はかりくん、わがまま言っていい?」

「いいよ」

ただ呟いた。

「私も一緒にいていい?」

「当たり前だよ。すずしお姉ちゃん。」

もうここには神様のすずしはいない、ここにいるのはただの女の子...いや違う。ここにいるのは僕の初恋。夜神楽 すずしその人だった。

僕は初めてその時、涙を流し、この物語に身を委ね目を閉じた。

 

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