007.明野という少女の話

二寸 明野は14才引きこもりの少女のはずだった。はずだった。

索野はそんなことをぼくの部屋で語り始めた。どうやらぼくが数年行方不明だったことよりも明野のことの方がこの家にとってよっぽど重要なことらしい。

「これはこの町の都市伝説だ。前に兄ちゃんに言ったかもしれないけどこの町には虎が潜んでるんだ。」

虎…あの日ぼくを襲った化け物…

「ああ知ってるよ、ぼくもあの夜に虎に会ったんだ。」

虎のことをあたかも昨日の出来事のように言った。昨日のように…しかし、僕があの教会で昏睡…していたわけだが確かに寝て起きたときが今日なら起きるまでは昨日なのである。僕は自分のことに違和感を持っていたのはいうまでもない。

「それなんだがな兄ちゃん、わたしもあの虎にあったことがあるんだ。あと私だけじゃなくて父ちゃんと母ちゃんそしてあきちゃんも…」

彼女は泣きだしてしまった。ぼくのいなかった期間で外に出られなかったのだろうか彼女の日に焼けた健康的な肌は白く儚い色になってしまっていた。あの日であった少女 夜神楽 すずしのように…索野が語らずともその虎がぼくの家族に手を出しているという事実だけは分かる。それだけにあの虎への憎しみは強まっていく。

「サクヤちゃん、無理はしなくていい、ゆっくり話してくれ……。」

ぼくは索野の背中をさすった。

「触んな…」

彼女の背中には成長期につくはずの肉付きはなかった。彼女の目は僕の方を見ているだけでぼくを見ていない。なにか遠くのものを見ている。索野は呼吸を落ち着かせた…。彼女の目はまだ涙が残っており、頬には薄っすらと流れたあとがある。

索野は説明すると色々と面倒だから…といい僕の部屋を後にした。索野は明野の部屋に入っていった。ぼくの部屋は横の部屋が両親の部屋でもう片方の部屋は明野の部屋なのである。ぼくの机には埃を被った家族写真が飾られていた。棚には参考書や好きな漫画があり、あの日よりも巻数が増えていた。そんなことに家族の中での僕の存在を再認識した。そんなことを考えていると索野が部屋に戻ってきた。

索野の首元にはなにか白いものが…白い肌が見えないくらいに…赤い目がこちらを覗く。それは小さな舌を伸ば…伸ば?

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「これ明野ちゃん、アキちゃんだから。」

「いやどうみたって蛇でしょ!アキちゃんじゃないでしょ!!!」

蛇…蛇…蛇?

「まあ落ち着いてくれよ兄ちゃん。これが真実だぜ。」

一つ疑問に思うことがある。なぜ…なぜ…なぜ…

「なんで蛇なんだ?」

索野は少しの間沈黙した。

「そのことについては今から説明するぜ。コトは2年と半年前。ちょうど兄ちゃんが消えたころ…あの虎の厄災が町に降りそそった。虎は町の人を襲い始めた。兄ちゃんが消える前に虎から襲われたことはなかったんだ。虎はこの町の守り神的なものとして崇められていたんだ。」

守り神?あの虎が?厄災の間違いだろ。あきらかな敵意を持ってやつはぼくを攻撃しようとしていた。爪で。眼で。ぼくを襲っていた。あのリバースシスター『アーラ』が助けてくれなかったら僕もおそらくこんな風に…いや、こんな風になっていたのか…?僕の手は腕を流れた汗を握りしめた。

「なんで?って顔してるな兄ちゃん。別に私も詳しく知ってるわけじゃないんだ。詳しくは…知らない。ここら辺でこうなっちまったのは全部で33人だ。近所に住んでる成幸さん、クラスメイトの璃観(ルミ)…ほかにもいっぱい…原因は今も調査中だぜ。でも一つ間違いのないことがある。それは…」

「あの虎の都市伝説…か」

「そうだぜ…」


僕もあの虎に食べられていたら明野のような白い蛇になっていたのだろうか?真実は定かではない。なにも分からない。ぼくは虎からすればただの家畜なのである。だが家畜は自分の運命を理解していないわけではないのだ。生物に平等に与えられる死という運命。ただ今の状況は一介の家畜にすればとても幸運だ。それはあのシスター『アーラ』がこの話を解決させる鍵を握っているということである。

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