001 未来日記

とある日の昼休み僕はそれに出会った。台風が南に配置される少し前の日の一幕だ。大きく回る螺旋階段の踊り場で僕はそれに出会った…"出会ってしまった"。その本、"未来日記"に、その本はちょこんと一人の僕を待つように置いてあった。純白の表紙には誰の名前も書かれておらずその日記、いやそのノートは誰かに 拾われるのを切に願っているようなそんな気がした。

片手には弁当が入った袋、もう片方には本来校内での使用が禁止されているスマホを持っていた僕は特に何かあるわけではないが熱中していたスマホゲームをやるために一人屋上で食事をしようとしていた。その時に落ちていたのがこの日記だ。

一度素通りしようとした僕だったがその声は唐突に僕の後ろから声をかけられた。

これがなければぼくをあの災厄に誘うことはなかったのだろうか。




「お〜い!羽苅(はかり)〜〜〜!」

木と上靴のぶつかる音が軽快なテンポで駆け上がる音が奏でられた。

「ことりぃぃぃぃぃーーーーーー!!!!!!きぃぃぃぃぃぃぃぃぃく!!!!!!」

振り向くとショートカットの少女の綺麗な足技がいままさに直撃しようとしている。

「あっぶねえ!!!!!?てかここ階段だぞどんな脚力してんだ!ことり!」

目の前でその怪物は華麗な着地をしてみせた。

「ふっふっふ、私を呼んだか!川のせせらぎのように優しく鳴く鳥!尾川(おがわ)小鳥(ことり)とは私のことだ!!!」

黒のブレザーを着た僕のクラスの学級委員長であり僕の天敵。ショートカットの二重の大きな目であるその声の主はスポーツ少女 尾川 小鳥(ことり)だった。

彼女の手には大量のプリントがあった。おそらく全て僕に渡す物であろう。

というかほんとにどうやって飛び蹴りをかまそうとしていたのだろうか…このレベルまでくるとみれなかったのかすこし残念である。

「はい!これ!」

相変わらず煩わしい女だ。彼女の大きな声はまるで虎の咆哮のように階段に反響している。

「静かにしろことり」

「分かった!」

「分かってねえだろ!」

まったくもって鳥と比喩できるのが頭だけだろう。小鳥という可愛らしい名前をつけた親に謝って欲しいほどだ。彼女の声は今も僕の耳の中で反響しているほど大きかった。いますぐここから立ち去りたかった所だがこの時の僕はまさに蛇に睨まれた蛙、いや鷹に睨まれた蛙であった。ぼくとこいつの間の生態ピラミッドが作用しなかったのである。

「まあとりあえずこれ!」

尾川は僕にその手に持ったプリントを渡そうとしてきた。僕は一旦スマホをポケットにしまいそのプリントを受け取った。

「ありがとな尾川」

僕はとりあえずの感謝をした。

「ふふん♪委員長だからこのくらいは当然だ♪」

「はいはい…委員長さんはさすがですね…」

「とりあえず委員長の私はお昼食べてくるから!じゃーねー!」

そういいながら彼女はこの場を立ち去ろうとした。が、しかし、運命はそれをよしとしなかった。あれっ?と彼女はその一冊のノートを拾う。これが全ての過ちだったのだ。

「これ、羽苅(はかり)のか?」

すごい真っ白なノートだなと尾川は言った。たしかに真っ白、信じられないほどの白さだった。そこに落ちているのが不思議くらいに…そんなことを尾川に言われて初めて思った。まるでそのノートは誰かがなんらかの意図を持ってそこに置いたかのように、はたまたなんらかの不思議な力によってそのノートが意志を持ってそこにいたようにも思えた。

そんなことを考えていると尾川は空いた間を埋めるように喋り出した。

「いやー、それにしても白いな。昔あった漫画のこと思い出しちゃったよー。まあ名前忘れちゃったんだけどな。」

その漫画の名前を思い出しているのか少し考えごとをしているようだった。

「まあその漫画で拾ったノートは純白とは反対の真っ黒なんだけどな。」

彼女は昔を懐かしむように言っていた。僕も当然その漫画を知らないわけではないがその話をしだすとはかり知れないほど時間がかかるので今回は遠慮しておこう。

「それはそうだろ。漫画で書かれる白ってつまらないからな」

「羽苅?それってどういう意味だ?」

彼女は興味を持ったのか不思議そうな顔をしていた。

「いやいや簡単な話だ、漫画って基本的に白と黒のコントラストで描かれるだろ?だからそのノートを白にするとあまりにも地味だ。だから白って色は漫画だとつまらない色になる。」

「おー、クラス順位最下位の羽苅くんにしてはなかなかに説得力のある意見だな。少しだけ納得してしまったよ。」

僕の名誉のため一応弁解しておくが僕は最下位ではなく下から二番目である。

そして最下位がこの女だ。

「でもさあ、羽苅くん。白ってそんなにつまらない色なのかな?」

こいつは少し人を舐めたような顔をしている。これはそうぼくを馬鹿にしている顔だ。

「どうなんだろうな。僕的には白はつまらない色のように思うけど。」

「わたし的には白って面白い色だと思うな。白ってその上から黒とは違う色を入れることができるし。さっきの羽苅くんの話だとたしかに白黒の漫画だとそうだけど最近だとカラーの漫画もあって白の所に赤とか青とか色々な色を入れてるんだよ!それに…」

「それに…?」

クラス最下位の女の言うことである。僕の度肝を抜いてくる。そんな予感がしていた。

「白って二百色あるんだよ?」

沈黙が僕達の間を縫おうとしたがそれを解くために尾川は咳払いをした。

「とりあえずそんなことは置いといて。じゃこれよろしくな!」

尾川は手に持っていたノートを僕に押し付け走り去っていった。

その後やむなくして階段を登っていると下から廊下を走るな!というありきたりな教師の言葉が螺旋階段の中を吹き抜けていった。

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