馨
結局、彼は来ませんでした。彼の部屋を訪ねても、誰も居ない様子でした。だから、質素だったのでしょうか。
私は馨を産みました。私は今までに彼に貰った物を売り払って、妊娠中は入院費もろもろを賄いました。きっと、そういうことだったのでしょう。
私は仕事に精を入れて、馨の面倒を見ました。私の母親は家事をほっぽって、父親の金で遊ぶ様な人間でした。挙げ句の果てには夜逃げをしました。だから、私はそうはなりたくなかったのです。馨の顔は彼にそっくりで、ああ、とても愛おしいのです。
馨はすくすくと育っていきました。ただ、足の指が一本、多かったです。私は馨に仕切りに謝りました。その指を無くすことが出来ないことについてです。けれど、馨は文句の1つも言わないで、優しくこう言うのです。
「お母さん、指と足で普通の人は20までしか数えられないんだ。だけど僕は21まで数えられるんだよ。」
私はそれを聞くたびに泣いてしまいました。そして、彼の様な性格にはなって欲しくないと思う反面で、私は彼を未だに愛して仕方がありませんでした。
馨は本当にすくすくと育っていきました。彼の頭脳が似て、5ヶ月歳で言葉を発しました。彼の運動能力が似て、運動も得意でした。私の背中を掴む力はとても強くて、背中に皺が出来てしまいました。なんだかんだ、幸せ者だと思いました。
彼と暮らしているようでした。
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