ある日、傘をさしていつもの様に保育園に馨を迎えに行きました。

「お母さん、ご飯は未だかな。」

食べ盛りの馨のご飯を作るのはそれは大変でした。けれど、馨の美味しそうに頬張る姿が堪らなかったのです。

「ちょっと待ってね。」

私はそう答えると馨のご飯をよそり始めました。彼と一緒に食べたフレンチとは違うけれど、自分ながらにとても美味しそうでした。

「いただきます。」

「いただきます。」

2人で手を合わせて食べました。馨の顔がとても愛おしいです。食べてしまいたい位に。

「ご馳走様でした。」

「ご馳走様でした。」

そう2人で言って馨はゲームをし始めました。私はご飯の後片付けです。外食に行けば、こんなに苦労はしないという思いが私の頭を過りました。あれは雨の日でした。懐かしいと思いました。晴れの日はと言えば彼がとても汗ばんだでいた日です。今日はカンカン晴れの日でした。何だか、鮮明彼を思い出しました。何だか、彼を体が欲して堪らなかったのです。彼の匂い、彼の匂いが欲しくて堪りませんでした。可愛いと言って欲しかったのです。私は馨の靴の匂いを嗅いでいました。

「お母さん。」

私は振り向きました。そこには顔を顰めて仕方ない馨の姿がありました。

「違うのよ。少し、洗った方が良いのかと思ってね。」

頭の良い馨にはそれが嘘であることなんて分かりきったことでした。馨は私から逃げ始めました。彼が消えてしまうという思いで一杯でした。身体が熱ってきました。

「落としましたよ。」

私は馨を包丁で刺しました。

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