夜道

彼は自分のことを話しました。

「僕はね、刑事をしているんだ。自慢じゃあないけれど、東京大学を出てる。刑事っていうのはしかし、性に合わないね。みんな、僕を気障野郎だと思っていて、マトモに取り合ってくれない。」

月が彼を照らして、照らして、仕方がありませんでした。私はそんな彼に気障なんて言える気持ちではありませんでした。

「どんな、仕事をなされているの。」

そう言うと彼は口を少し噤んでからこう言いました。

「あまり、笑い話に出来る話は多くないのだけれどね。まあ、強盗だとか殺人だとかの捜査をする仕事。」

そう言う優しい彼に私は今夜の満月よりよっぽど惹かれました。言葉を選ばなければ私は彼に捕まりたかったのです。私はもう、我慢を出来ませんでした。

「少し、休憩をしませんか。」

顔を伏した私の髪を月が真っ白に染めました。

「僕は刑事だからさ、体力があるのさ。」

そう言うと彼は親指を立てて、何処かに行ってしまいました。

より一層、私は彼が好きになりました。




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