01 安藤恭太 2
「で、やっぱり男子校だったのが原因だろう」
「ん……いや、それ以上に僕の心の問題やったって」
「ああ、なるほど。その方が納得できるね。他の男子校出身者に失礼だから」
「くう」
そう。べつに6年間男子校に通っていたことが恋愛弱者である最たる原因ではない。確かに機会が少ないという点ではそうだろうが、それでも恋人がいるやつはたくさんいた。
一番の原因は、僕が諦めたこと——否、大学進学後の人生にすべてを賭けたことだ。
「原因が分かったところで勝敗は変わらんのとちゃう?」
「そうさ。でも言っただろう。反省をして次に活かすのが大事だって。君が女の子に見向きもされない原因さえ分かれば改善の余地がある」
「その言い方、あまりにもひどすぎんねん」
「まあそう怒りなさんな。カッカしすぎると女の子は逃げていく」
「……誰のせいやねん」
僕は、涼しい顔をしてそっぽを向く学を絞め殺したろうかと一瞬血迷う。
「とにかく、次の作戦だな」
「はあ、またですか」
「善は急げだよ、恭太くん。考えてもみな、君はいま大学四回生。しかも就職活動が無事に終わり、残る単位もあと二単位だけ。経済学部は卒業論文だってないんだろう? それに内定をもらっているのは大手商社。ほら、条件だけ見ればかなりのハイスペック男、優良物件! 顔と性格は置いておくとして」
途中まで誉め殺しにきたのかと思えば、最後にしっかりと毒をまく学。
正直、大学生活で一度も恋人ができないなんて思ってもみなかった。まだ大学生活は終わっていないが、普通やる気さえあれば一回生や二回生で一度くらい彼女ができるものではないのか!? と学に詰め寄ったことがあるが、「甘い」の一言で片付けられた。「君が思うほど
かく言う学は現在恋人がいない。というか、彼は自分の恋愛に興味がないらしく、そもそも恋人を欲しいとも思っていないようだ。試しに一度、なぜ恋人がほしくないのか聞いたら、「わいは女子に罠を仕掛けられた」「わいが愛でるのは先人たちのありがたい言葉だけさ」とまた訳のわからないことをのたまう。ちなみに学ぶは自分のことを「わい」と呼ぶ。正直かなりイタい。某SNSに毒されている。
「それで、今度はどんな作戦でしょうか」
「ふふ、聞いて驚くが良い。次はなんと、わいの親友! のさらに親友の親友……であるところの女の子だ。女子大で服飾を学んでいるらしい。その子と引き合わせてあげるよ」
「ほう。ちなみに会ったことは?」
「ない」
「やろうな」
胸を張ってフフン、と鼻を鳴らす彼の、その自信満々な笑みを見ていると、なぜかいつも今度こそうまくいくという気がしてしまうから不思議だ。
実際、彼から紹介された女の子はこれで三人目になるが、これまでの二人もそこそこ可愛らしくていい子ではあった。僕がヘマをして取り逃がしてしまっただけで。
「親友の親友の親友……の話によると、その子は最近付き合っていた彼氏にフラれたばかりらしい。新しい恋をして上書きしたいと思っているそうだよ。きっと傷ついているだろうから、その傷を君が癒しにいく。颯爽と現れた超ハイスペックな君に彼女の心は揺らぐこと間違いなし!」
「……それ、気になる女の子を落とす時によく使う手法やと思うけど、そんな簡単にいくもん?」
「大丈夫だって。なんてったって、その子の元彼の顔が、君に似ているそうなんだ。わいも写真を見せてもらって確認したよ」
「おお……!」
元彼の顔が僕に似ているなんて、なんという偶然にして幸運なんだろう。
この時の僕は、顔がタイプ=すぐに恋に落ちるという単純な方程式が頭に浮かんでいた。あとで思い返してみると、まるで恋愛下手なのを思い知ってちょっと悲しくなった。
「その話、のった」
「承知つかまつる」
まったく、自分の単純思考に呆れざるを得ない。一体僕はどうやって複雑な統計学や経済学の授業を潜り抜けてきたんだろうか。しかしそれぐらい僕は恋に飢えていたし、なんとしてでも大学生のうちに恋人をつくってバラ色の大学生活を満喫したかった。
学の奴隷になっていることは否めないが、彼も僕のためにわざわざ恋人をつくる機会を与えてくれているのだから、悪い気はしない。もし今度の作戦がうまくいったら美味しい串カツでも奢ってやろう。
まあ、彼は面白がってるだけかもしれないけどね。
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