17 キリコ 夢をみる② キリコと王子様




 東屋よりさらに奥に行ったところに小さな噴水があり、王子さまはそこに腰かけて噴水の中をのぞいていた。




『何を見ているんだろう?』



私はそっと近づいてみた。すると王子様がこちらを振り向いた。





「君は・・・マリーの中から出てきたんだね」




 んん?あれ?これ、夢じゃなかったの?




混乱している私に王子様が言った。





「君は誰?・・・幽霊?じゃないよね・・・」





「幽霊なんかじゃないわ。私はキリコ。ん~、たぶん、眠っているうちに幽体離脱?ってやつ?なんでマリーさんの中にいたかはわからないけど」




「ユー・・・タ・・イ・・リーダ?」




 あ、日本語だった?デジャブだわ、これ。自分では日本語で話しているつもりなんだけど、普段は自動でフロマージュの言葉に変換されているみたい。自分が何語で話しているかわからないなんておかしいね。




「ん~つまりね、眠っている間に魂だけが体から抜け出して、あちこちへ出かける?みたいな」




「なるほど、じゃあ君の体はほかのところにあって、眠っているってことだね。」





「そうそう、そういうこと。さすが王子様!理解が早くて助かるわ」





「・・・いや、結構動揺している」





「えっ?そんな風には見えないよ」




 だって涼しい顔しているじゃない。




「思ったことが顔にあらわれないように訓練されているからさ」



 王子様は私の顔を見てクスっと笑った。あ、考えていること読まれた!そんなにわかりやすいかなぁ~。しかも今、幽体?だから、表情とか、ぼやけているんじゃないの?




「・・君やマリーが羨ましいよ・・あるがままの自分でいられて・・・」



 王子様は寂しそうに笑った。いつもの柔らかなで、どことなく作ったような笑顔とは違う。これが本当の姿なんだろう。




「・・何か悩みがあるなら聞くよ。聞くしかできないけど・・・」




「ありがとう・・・君になら話してもいいかな・・・」



 王子様は自分の隣に座るように手招きをした。私は、そこへ移動して座る。幽体だけどね。





 自分が5歳の時、国王夫妻が事故に合い、王妃様は亡くなり、国王様も怪我が原因で体が弱ってしまい、寝込みがちになったこと。子供は自分一人しかおらず、自分がしっかりしなくてはとずっと頑張ってきたこと。



やればやるほど、自分が平凡であることがわかる。貴族の跡継ぎなら、それでも良いが、王としては足りない。でも、みんなが自分に期待する。立派な王子だと。それが苦しいと。



「あのさ、勉強も剣術もずば抜けているって聞いたけど?」




「勉強は、すでに学び終わっている範囲だからだよ。剣術も騎士団長からある程度学んでいるから型はわかっている。だが、実践では役に立たないだろう。体も小さいし、筋肉もつかない・・・」





 あ、そこもコンプレックスなのね。





「すでに学び終わっていること事態が、すごいことだと思うよ。実践はこれから積んでいけばいいし。あとさ、王様や王妃様は小柄な人?」




「いや、父は今でこそ痩せてしまっているが、元々は大柄でがっしりした体だった。母も細身だが、背は高いほうだった」





「じゃあ、これからなんじゃない?・・・・お腹のあたりちょっと見せてくれる?」





「ん?いいけど、そういうのに興味があるの?」




「ないよ!腹筋がついているか見るだけ。うちのクラスで脳筋のやつらは、プールの時とかにわざと見せつけるんだよ、女子に!だから、見たらわかるんだよ!」




「・・・よくわからないけど・・・」




 王子様はクスクス笑いながら、ペロッと絹で出来た高そうなシャツをまくってみせた。腹筋がきれいに割れている。




「細マッチョじゃん!ちゃんと筋肉ついているよ!」




「え?ホ・・ソマ・チョ」




「細くて筋肉がついている人のこと。こっちのほうが素早く動けていいっていう人もいるよ。でももっと筋肉つけたかったら、赤身のお肉とか卵とかお魚を食べるといいよ。できればトレーニングした後にね。あと、背を伸ばしたいなら、牛乳も一緒にとるといい。」




 私は、腹筋、背筋、腕立て伏せ、ランニングなどトレーニングの方法教えた。トレーニング前後のストレッチとかもね。



 王子様は「はじめて知った」と言って目を丸くさせていた。私の真似をして、実際にやってみると、「なんだか、このへんの筋肉に効いている気がする」といい笑顔を見せた。



 よし!筋トレオタク誕生!




「筋肉のことはこれで解決だね。王子様の思った通りの結果になるかどうかわからないけど、やってみる価値はあると思うよ。あとは~王様としてちゃんとやっていけるか不安って話だけど~、王様って一人で国を動かすの?」




「・・・いや・・・国政に携わる者たちはたくさんいる。」




「だよね~。だったら力を借りればいい。1人でできることなんかたかが知れているよ。でもみんなの力を借りたら、色々な可能性がみえてくるんじゃない?」





あれっ?何かが引っかった気がする。




「・・・だが、信用できる人間でないと・・・」




 王子の表情がまた曇ってきた。




「だったら、作ればいいんじゃない?味方のなってくれる人たちを。せっかく学園に通っているんだから、優秀な人たちといい関係を作って、卒業したら力を貸してもらえばいいじゃない。平民、貴族関係なく、実力がある人たちにね!」




 王子様はハッとする。





「・・・私に協力して・・・くれるだろうか」




「・・・気づいていないの?王子様のこと気にかけている人はいると思うよ?あのドリー公爵令嬢だってそう。いい人だよね。つり目だからきつく見えて、損しているけど。公正でなければならない王子の立場を理解している。だから、かわりにマリーに手を差し伸べてくれている」




「彼女が・・・」






 あ、知らなかったんだね。




「マリー、最近調子いいでしょ。今日も試験の結果も順位が上がっていたし・・・栄養いっぱいの食事がとれるように、食堂に食料やお金を差し入れている。仕事のほうも多分だけど、マリーが疲れていることを商会の偉い人に伝えてくれたんじゃないかな?前より早く寮に戻れているよ」




「・・・そうか、よかった・・・」




王子様、嬉しそう。味方がいるってわかってくれたかな。




「お城にも王子様のこと見守ってくれている人たちがいると思うよ。まわりをよく観察してみたら?」





 そう言って私はハッとした。私も同じだったのでは?気づいていなかっただけで、クラスで暴走し、孤立する私を心配している人もいたかも・・・。そう思うと何人かの顔が浮かんだ。




『話しかけられても否定されると思って、聞かずに逃げていたよね・・・・私』




 急激にホームシックになった。私、ここで何しているんだろう・・・帰りたい、お師匠さんのところへ・・・。話を聞いてもらいたい。




 その時、噴水の中から何かが飛び出した。イルカだ。月のように白く輝いている。イルカは満月と重なるように高くジャンプするとまた、水の中へ戻っていった。





「うぁ~、綺麗!」




 思わず声が出た。




「ああ、私の友達、イルカは夜の生き物なんだよ」




 ん?夜の生き物?海の生き物じゃなくって?そう思っていたら、遠くから声が聞こえた。いや、頭の中に声が響いているんだ、これ。






『キリコ!どこにいるんだい?キリコ!お願いだから帰ってきておくれ!』





「ごめん。もう行かなくっちゃ。お師匠さんが呼んでいる」




「お師匠さん?」




「うん。うちのお師匠さんはすごいんだよ!国一番、ううん、この世界で一番の魔法使い。〝ローガン〟っていうんだけど、知ってる?」




「いや、すまないが、知らない」




「そっか、きっと別の世界なんだね。お師匠さんはね、なんと国全体を覆う迎撃システムつきの結界装置を作っちゃったの!」




 私が得意げに言うと王子は目を見開く。




「それはすごいね!」




『キリコ!キリコ!』




 あ、だんだん声が近づいてくる。




「じゃあ私、行くね!」




「キリコ、色々ありがとう。もう一度、頑張ってみるよ」



「うん、じゃあ王子様も元気でね!」




『キリコ!キリコ!』




「はぁ~い、お師匠さん!今、行きま~す!」




 そう答えると空に光の渦ができて、私の体は吸い込まれていった。





********************************************






「キリコ!キリコ!しっかりおし!」



 

「ん?お師匠さん?ココ、どこ?」



 気がつくと私はお師匠さんに抱きしめられていていた。



「良かった!どこも何ともないかい?」




「はい・・・」



 まだ、眠気まなこの私。ん?何かあったの?



 お師匠さんが言うには、ドゥーフの森へ入ったところで、精霊たちにつかまっていたんだって。お師匠さんも眠らされて、森の中へ転落。怪我はなかったけれど、目が覚めたら、私がいなくなっていたから驚いたらしい。




 居場所がわからなくって何度も名前を呼んだら、私が返事をしたので居場所がわかって、連れ戻してくれたらしい。




 森の出口まで近かったので、そのままお師匠さんと歩いてそのままホテル〝アルトピアーノ〟を目指す。




 歩きながら、夢でみたこと、日本の学校であったこと、夢で王子様と話していて気づいたこと、お師匠さんに聞いて欲しかった話をいっぱいした。お師匠さんは時々頷きながら、黙って話を聞いてくれた。



 全部話し終わった頃、無事目的地に到着。お師匠さんは私の頭を優しくポンポンと撫でてくれた。




「へへっ!」




 何だかうれしくなった私はお師匠さんと手をつなぎ、ホテルの中へと入った。





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