15 キリコ お師匠さんと旅行に行く

私は今、空の上にいる。これからお師匠さんと遅めの夏休み。こちらの暦は日本とほぼ同じ。そして、今は9月入ったくらい。



 海のおまつりが7月初めだったから、う~ん、2か月たったところ。

 


あの奴隷だった子は、オーカヨーさん夫婦の養子になった。ホッとした。近頃は笑顔も見られるようになったって。うちにも時々、来るよ。オーカヨーさんと一緒にね!心も体も元気になったら、魔法学園に入るんだってさ。魔力のある子はみんな学園に入って、魔力操作を覚えなくちゃいけないらしい。えっ?私?私はいいのよ。いついなくなるかわからない迷い人だし、お師匠さんがついているしね!




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あれから、お師匠さんも私も大忙しだった。私は警備隊の注文を受けたことで、大人用の発注も受けざる負えなくなった。デザインは竜(私たちのと別の)、イルカ、鷲、狼、虎でシルエットのみとさせてもらった。



あ、イルカ以外は顔だけね。家紋の蛇とか言われたけど、無理無理無理無理!何でも描けるってわけじゃない。子供用にも使えそうな絵柄だけにした。



子供用は蓋つきで、何の機能もついていない。女の子用のポシェットとおんなじ。値段もお手頃価格。高価なものだと危ないからね。それにみんなに使って欲しいから。




 ちなみに警備隊のイルカは帽子付き。隊員が被っている紺のベレー帽みたいなのを頭にのせて、一般のイルカと区別できるようにした。警備隊のものは同じデザインなので、誰の物かわかるように名前の頭文字を刺繍しておいた。同じ頭文字の人は髪の色とか、目の色とかその人とわかる文字を追加した。



なんと、ここ、ゾーラ領の領主様ルゴン・ゾーラ様からも注文いただいた。領主様からは盗賊団逮捕に尽力したことでお師匠さん、ジョージーさん、オーカヨーさん、マオさん、ソノーエさん、そしてなぜか私まで報奨金とやらをいただいた。何かお礼がしたいと思っていたのと家紋がシンプルなカエルだったので、引き受けることにした。



代金として沢山いただいたので、奥様と3歳のお嬢様にお揃いのポシェットをプレゼントした。お花をもって小首をかしげたまつげが長いカエルの顔。これ、すごく喜ばれたとかで、また、お金いただいてしまった。断ろうとしたら、領主のメンツがあるから、そのまま受け取ったほうがいいとお師匠さんに言われた。ふ~む、色々あるんだね、貴族って・・・。中学生にはよくわからないので、ありがたく頂戴した。




お師匠さんは大工さんたちから沢山注文が入った。ただね、工具を全部入れて腰に下げると結構重いんですよ、これ。というわけで、親方は、重さを軽減する魔法陣を取り付けた。温かいお弁当や飲み物も入れておきたいって欲しいっていうことで、私のポーチもプラスした。絵はね、トンカチと釘。オプションが多かったので、お値段も高くなったが、親方には痛くもかゆくもないらしい。むしろ、仕事の効率があがって収入が増えたとか。




それを見たお弟子さんたちが「親方だけずるい~!俺も欲しい!」ってなった。じゃあ、自分たちで注文したらいいって親方からお許しがでたけれど、若いお弟子さんたちはあんまりお金を持っていない。なにしろ、お師匠さんの作ったベルトというだけでもいいお値段。後のオプションは各自の懐具合でということになった。



まぁ若いので腰に沢山工具があっても大丈夫でしょう。工具箱ごと持ち上げたり、片手に持って高いところに登るのにくらべたら、ずっと楽になったとか。




まぁ、そんなこんなで2か月はあっという間に過ぎた。お師匠さんも私も目の下には薄っすらくまが・・・。ポーション飲みまくったのに全然疲れが取れないよ!ブラック企業か!



商業ギルドに預けているお金も怖いくらいの額になって、さらに増え続けている。お師匠さんが使わせてくれないことも要因だけどね。



お金持ちになっても楽しみがなかったら、頑張れない。まぁ、作るのは好きだけど。



この2か月がデスマーチ状態になったのは、旅行に合わせて終わらせようとしたこともある。





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ある日、ジョージーさんが見せてくれた何枚もの写真。川が2つに分かれて流れ、その中州のような場所に川の水流で削られ、なだらかになった白くて平らな岩地がある。



そこのくぼみに白い絹のパジャマを着て、横たわる人たち。手元にランプがあり、グラスに入った飲み物を飲んだり、本を読んだりしている。楽しそうに話をしている人たちもいる。真ん中にテントがあり、中には更衣室とトイレもあるそうだ。



ここは、屋外ホテル。営業は夏の間だけ。テントの中には、近くにあるホテル〝アルトピアーノ〟の従業員がいて、お客様に毛布と注文されたドリンクを配っている。



川の水が上まで来ないように、そして、虫や不審者などが来ないように結界が張られている。雨が降っても濡れないのだが、大雨になるとホテルの本館までもどる道がふさがってしまうため、その場合は本館のほうに泊まることになる。



晴れていれば満天の星空がみられるが、天候に左右されるので、運任せといえる。そんなところも人気の理由。予約で常に満室(?)だが、運よく、最終の9月1週目にキャンセルが出て、お師匠さんと2人で泊まれることになった。



問題はホテルの場所だ。フロマージュ国の北、ストーリン・グーチ辺境伯の治める領地にあるシャウルスの町。



ミズラフの森の西側にはショコラータ山脈があり、クロミエの北側をグルッと取り囲んでいる。マンベールの町の東側にはジンジャー山脈があり、その間には〝ドゥーフの森〟



この森は別名〝精霊の森〟と呼ばれ、精霊にいたずらされて何日もさまよったり、子供が入り込むとさらわれたりするので、めったに人が入らない。まぁ、お師匠さんは染色用の素材探しでたまに行くらしいけど。さすが最強の魔術師!




つまり、シャウルスまで行くにはクロミエへ抜けて、西隣のリーチムの町まで行き、そこからグーチ領プティースの町から入らないと行かれない。片道馬車で3日くらいかかる。




でもね、納品済ませてから宿泊する日まで1日しかないのよ、これが!日程の変更はどっちも無理。う~ん、困った。



するとお師匠さんが空から行こうと言い出した。ミズラフノ森、ドゥーフの森を越えて行けば近道だしと。



お師匠さんが自分の部屋から大きなカーペットを持ってきた。クリーンできれいにしてあるから大丈夫?ん?それはもしかして・・・・フライングカーペット?




普段はお師匠さんの部屋の片隅に丸めて置いてあるそうだ。



お師匠さんは遠い所へ行く時はこれにのって、認識阻害、結界を張って出かけているんだってさ。染色に使える珍しい草木があると聞くとすぐにでも行きたくなっちゃうけど、仕事を放っていくわけにも行かない。でもこれを使えば、短時間で行ける。そのために作ったんだって。お師匠さんらしいよね!





で、今、私は空の上。海の向こうの大陸に行く時は、高速で行っているらしい。大型旅客機くらいの速さで行っているんだと思う。今回は私が色々見えるようにとゆっくり飛ばせているとか。たぶん、それでも特急くらいかな?




あ、向こうのほうで、何かキラキラしている。





「お師匠さん、あれ、キラキラしているのは何ですか?」




 私が指さして聞くと、お師匠さんが感心したように言った。




「へぇ~、あれが見えるのかい?さすがキリコだね」




「??」




「あれは精霊たちだよ。普通の人には見えないよ。精霊との相性が合ってね、小さい子供とか、好奇心が旺盛な人とか、純粋な人とか精霊が好む人間にだけ見えるらしい」




「へぇ~、そうなんですね!」




 精霊だって!どんな姿なのかなぁ~?羽があるのかなぁ~?ちっちゃいのかなぁ~?うわぁ~、見てみたいなぁ~。



 そんなことを思っているうちにドゥーフの森の上へ来る。目を凝らして光るものたちを見ていると急に眠くなってくる。お師匠さんが一緒だから、眠っちゃっても大丈夫だよね?着いたら起こしてくれるはず。



 そうして私は意識を手放した。そばにいたお師匠さんも同じように眠りにつき、カーペットが森に落ちたことに2人が気づくことはなかった。





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