14 閑話  イーシーの新しい生活 


 目が覚めると警備隊の本部にいた。体はきれいになっていてどこも痛くない。足もいつの間にか治っている。来ている服も新品ではないけれどきれいなものにかわっている。




ほかの盗賊団は牢屋に入っているから、安心して話していいと隊長さんに言われ、知っていることを全部話した。



 話が終わると盗賊団を捕まえた男の人と女の人が、知らない4人と部屋に入ってきた。1人は僕と同じ10歳くらいの女の子だ。



「ジョージー様、証拠の写真の提出ありがとうございました。ソノーエ様は港での残党逮捕のご協力、助かりました。ローガン様、事情聴取は終わりました。ほかの盗賊団の話と一致していますので、奴隷紋を消してくださって大丈夫です」



 僕はビックリした。奴隷紋を消すのってすごく大変で、いっぱいお金がかかるはずだ。わざわざお金をかけて、犯罪者の僕の奴隷紋を消すなんて・・・。あれ?今、すごい人たちの名前をきいたような??ソノーエ様?はもう知っている。ジョージー様?ローガン様?えっ?本物?



僕が動揺していると、一つに束ねた長い黒髪を左に流した女の人が、張り切って近づいてきた。え?この人がローガン様?


「よっしゃ!そりゃあ!」




 ローガン様?が奴隷紋の上に手をかざすと、僕の体が光る。温かくって気持ちいい光だ。

  




「はい、完了!服をまくってごらん。消えているから」




 僕は恐る恐るシャツをまくる。左胸にあった奴隷紋が跡形もなく消えている。



悪いことなんかしたくなかった。でも、言うことをきかないと胸が苦しくなって死んでしまう。いやなのに、悪いことをいっぱいさせられた。魔法で人を傷つけたこともある。憎くてたまらない奴隷紋。それがこんなにあっさりと消えるなんて。胸がジーンとして喜びをかみしめていると金茶の髪を左右に丸めた女の人がにこにこしながら声をかけてきた。



「お腹すいたでしょ?家に帰ったら、すぐに食べましょうね。今はこれで我慢して」




「はい、ありがとうございます」



 家に帰ったらって帰る家なんかないのにおかしいなって思ったけど、とにかくお腹がペコペコだった僕は白くてまん丸いものを受け取るとガツガツ食べた。柔らかくって噛むと甘みが出る白い粒々がとてもおいしい。これ、お米っていうやつかな?



「おししいだろう?キリコが早起きして作ったおにぎり。まだ残っていてよかったよ。ほらあと3つあるから全部お食べ」



 ローガン様?だよね。簡単に奴隷紋を消すなんてローガン様に決まっている。




「もう、お師匠さんてば、ただの塩結びですよ!」




 女の子が恥ずかしそうに言った。あれ?



「・・・まだ子供なのに、お料理できるの?」



「「「「「「ん????」」」」」」




 あれ、どうしたんだろう、僕なんかおかしなことを言ったかな?




「彼女は15歳ですよ。ローガン様のお弟子さんで売れっ子の職人さんです」




 隊長さんが苦笑いしながら、教えてくれた。





「えええっ!僕と同じ10歳かと思っていた」



 みんな口を押えて、笑いをこらえている。あ、女の子が驚いている。




「10歳?5歳じゃなくて?」




 みんなハッとする。痛ましそうな顔で僕を見ている。するとおにぎりをくれた女の人が僕のことをギュッと抱きしめてくれる。あったかい。いいにおいがする。




「うち(・・)の子になったら、美味しいものをいっぱい食べさせてあげる。いっしょに帰りましょうね」



 えっ?えっ?どういうこと?どういうこと?僕がキョトンとしていると男の人が僕の頭に手を置いたから僕はビクッとした。男の人は慌てて手を離した。



「おっとゴメン。頭を撫でようとしたんだけど、そういうのは怖かったよな、ほんとゴメン」



 男の人は謝ってくれた。そして言った。



「まぁ、そういうことで、今日から俺が父さん、お前を抱きしめているオーカヨーが母さんだ。元気になったら魔法学園へ行かなくっちゃならないが、それまでは家でのんびりするといい」




 そういうことってどういうこと~!?と疑問に思ったまま、ほかの人たちといっしょに荷馬車にのせられ、マンベールの町まで連れていかれた。




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 マオさんとオーカヨーさんの家は便利な魔道具がいっぱいだった。昔暮らしていた村とは全然違い、快適のそのものだった。毎日美味しいものをたくさん食べたり、勉強したり、魔法を習ったりするうちに月日は過ぎて行った。痩せていた身体も肉づきがよくなり、背もグンと伸びてきた。



 2人とも基本優しい。魔法の訓練の時以外は。



 はじめて使って見せた時、オーカヨー様は真っ青になって僕を𠮟った。その顔を見て僕はとっさに頭をかばった。



 オーカヨー様は僕の頬を両手で優しく包むと僕の目を見て言った。




「今みたいに魔力を一度に放出すると、魔力切れになって運が悪いと死んでしまうこともあるの。もう、あなたに強要する人はいないわ、ゆっくり・・・ゆっくり少しずつでいいから・・・」




 オーカヨー様は僕を強く抱きしめた。腹を立てているんじゃあない、僕のことを心配してくれていること伝わってくる。・・・温かい。この温かさを失いたくないと強く思った。



「はい。少しずつ魔力を出していく方法を教えてください」



 僕は焦らず、確実に魔力コントロールを覚えていくと心に誓った。





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「オーカヨー様、勉強が終わったので、何かお手伝いすることはありませんか?」



 台所で夕食の準備をしていたオーカヨー様に声をかけた。




「もう!お・か・あ・さ・ん!」



 オーカヨー様は腰に手を当ててプリプリしながら言う。



「でも・・・」




「ん~、じゃあまずは〝お・か・よ・さ・ん〟って言ってみようか?」



「・・・」



「おかよさん、ハイ!繰り返して!」



「・・おかよさ・・ん・・」


 僕は消えそうな声で言った。




「もっと大きい声で!ハイ!おかよさん!」


「おかよさん」

「ハイ!もっと!おかよさん!」



「おかよさん!」



「おかあさん!」



「おかあさん!あっ!・・・」



 オーカヨー様、おかあさんはニコッと笑った。



「ね、簡単でしょ?」



 僕はしばらく、ポカ~ンと口を開けたままだった。




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「マオ師匠、魔道具、磨き終わりました」



 声をかけると作業中のマオ師匠が不機嫌な顔で振り向いた。




「・・・とうさんだろ?水くさいじゃないか」



「・・・」



「ん~、それじゃあ、まずがマオのオをとって〝おーさん〟って呼んでみようか」




 なんかこのパターン覚えがある。



「おーさん。ハイ!繰り返す!」



「・・おーさん」



「もっと大きい声で!おーさん!」



「おーさん!」



「おとうさん!」



「・・・・・」




「あれ?だめだったか?」




「・・・いいの?僕、悪いこといっぱいしてきたのに・・・」



「好きでやったわけじゃあないんだろ?悪かったってちゃんとわかっている。まあ、帝国軍でこの国に散々悪いことしてきた俺が言うのもなんだが、お前がもしまた、道を踏み外しそうになったら、俺が全力でとめてやるよ。だから安心して息子になれ!」



 涙がこぼれそうになった。その顔を見られたくなくって、マオさんに飛びついた。



マオさんの胸に顔を押しつけて言った。



「・・・とうさん。とうさんの息子にしてください。僕、ずっとこの家の子でいたい!」



 父さんは僕を力いっぱい抱きしめると言った。



「ああ、とうさんに任せておけ!」



「もう、2人だけでずるいわ!」



 いつの間にかそばに来ていたオーカヨーさん、母さんが後ろから僕を抱きしめてくれた。



「・・とうさん、かあさん・・・大好きです」




「私たちもよ!」




 こうして、僕は新しい家族を手に入れた。







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閑話が続いてすみません。次話からキリコのお話に戻ります。





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