13 閑話 マオ

俺はマオ。元トンデモナ帝国のエリート魔術師だ。〝トラップの魔術師〟と周囲から呼ばれて、調子にのっていたら、コテンパンにやられた。



フロマージュ国には、四英雄と呼ばれる凄いやつらがいたのさ。いやぁ~、上には上がいるってもんだね。



俺がどんな罠を仕掛けても、笑顔で解錠しちまう可愛い天使。それがオーカヨーだった。躍起になって次こそは次こそはと罠をかけたが、軍師ジョージーに逆に罠に掛けられ、あっけなく捕虜になった。4人に取り囲まれた時は、いやぁ~ほんとに怖かった。特にローガン。目が合っただけで、全身凍り付くかと思った。




帝国の情報を洗いざらい話すかわりに、フロマージュ国に帰属する魔術士になりたいと言ったら驚いていたけどね~、みんな。ホイホイ味方を裏切る奴なんか信じられるかってほとんどの人間が反対した。


けど、あの王様は違った。訳を尋ねられたからオーカヨーに惚れたと正直に話した。それに、次々侵略を繰り返す、皇帝のやり方にも嫌気がさしてきたところだった。おそらく、終わりのない侵略に帝国民も疲れが出ていた。うん。情報を流したことで戦いに負けたら、むしろ感謝されるだろう。この王なら、帝国民に悪いようにはしないはずだしね。



王が目配せすると、ローガンは何やら呪文を唱え、同じ質問を繰り返した。俺は同じように答えた。


しばらくローガンは俺のほうをじっと見ていたけれど、何も起こらなかった。




「嘘じゃないようです。嘘をついたら、髪の毛が全部抜ける魔法をかけておいたので」



 っておい!なんて魔法をかけるんだ!怖えな!よかった正直が一番!そして、ローガンを敵にまわしてはいけない。


後で知ったが、フロマージュ国を裏切ったら心臓が止まる魔法もかかっていたらしいが、オーカヨーと結婚する時にそれらはすべて解除された。ローガン曰く、オーカヨーの目を欺ける者はこの世に存在しないそうだ。





 王は国に利益をもたらす者なら歓迎すると言った。なるほど、王のまわりには平民らしい奴も多い。それがフロマージュ国発展の理由か。


 ここ数年で、フロマージュ国は急速に豊かになった。優秀な人材、新しい魔道具も開発され、農業では安定した収穫が見込まれ、飢饉への備えが万全になった。医療分野でも、病院が町ごとに作られ、医師や薬師による新しい薬や予防法も発見され、死亡する国民が激減した。



 今までは見向きもしなかった国が豊かになると欲しくなるのが皇帝だった。侵略して手に入れればその豊かさが手に入ると思い込んでいる。そんなわけないだろう。徹底的に攻め滅ぼした国に何が残っているというのだ。草木一本残りゃあしない。残るのは痩せこけた民だけ。それでも侵略をやめない皇帝。今更ほかのやり方など考えもしないのだろう。



 俺が手を貸さなくても、帝国はこの国に負けただろう。それが少し早まったというだけ。



自分だけ逃げようとした皇帝は、不満を爆発させた帝国民に嬲り殺された。あっけない最期だった。



 俺は王との約束通り、魔道具を研究する部署で働き始めた。王の命令で誰もが便利に使える生活魔道具を作った。名をあげようと高価で凄いものを作ろうと思う魔道具師が多く、国民の生活を豊かにする道具を作ろうと志願する者が少なくて困っていたそうだ。



なんとあのローガンが同僚だった。と言ってもローガンの研究は規模が違った。なんとあいつは国全体に結界を張る装置を発明しちまった。それも低コストで、半永久的に使える装置。ローガンがいなくなっても機能するし、故障しても普通の魔道具師が直せるというから驚きだ。あいつはその功績をもって国から解放された。俺も自由にしてよいと言われたので、オーカヨーの実家のある田舎町で魔道具の修理をする仕事を始める。王はそれを聞いて喜んでくれた。どこまでも国民目線のいい王様だ。




 ローガンは俺たちの住むマンベールの外れにあるミズラフの森の近くに工房を構える。革細工職人になるんだと。王は魔道具師をやってもらいたかったみたいだが、ローガンは職人を選んだ。まぁ、マジックバッグにしたり、盗難防止の魔法陣をつけたり、半分魔道具師みたいなこともやっているし、人々の心を豊かにするのは間違いない。予想と違った色合いや仕上がりになるのが面白いらしく、工房に引きこもったきり出てこない。またに見かけても誰とも関わらずブスッとした顔をしている。眼光が鋭いから、子供なんか母親の後ろに隠れちまう。



 それがどうだい。久しぶりに会うと、あの怖いローガンが別人のようになっていることに驚いた。なんでも弟子を取ったとか。聞き間違いかと思ったが、本当だった。オーカヨーも可愛がっているらしく、しょっちゅう、ローガンの工房に遊びに行くようになった。



 珍しくローガンのほうから俺に会いに来たと思ったら、なんと俺の工具を入れられるベルトを作らせて欲しいとか。ローガンの作るものなら便利に決まっている。俺は二つ返事でOKした。なんでもモニター?とか言うらしい。格安で作るかわりに使い心地や意見を聞かせて欲しいという。



 おかげで重宝している。買い物にも便利でオーカヨーが喜んでいる。仕事の帰りに買い物頼めるもんな。




 ローガンの弟子のキリコちゃんは可愛い女の子だった。素直で、まっすぐな子だ。ポーチはあの子が試作したものだ。これもモニターになって欲しいと言われた。一生懸命に話を聞いてくれて、ローガンに教えてもらいながら、俺の頼んだ機能を全部つけてくれた。いい子だ。ほんとにいい子だ。俺も見守ってやろうと心に誓った。



 それなのに・・・あの子は1人で事件に巻き込まれてしまった。あの時はほんとに焦った。ローガンがあの子を守るためにつけさせていた魔法無効化のお守りが効きすぎて、結界を破って、盗賊が隠れていた店の中に1人だけ入っちまった。



 結界の解錠はオーカヨーとジョージーにまかせて、俺はソノーエと裏へまわる。俺が得意なのは罠を仕掛けることで、解錠はからっきしだからな。適材適所っていうやつだ。あの気のいいソノーエが珍しく切れていたね。顔は笑っていたけど、目が怖かった。



 裏手では、盗賊団相手に警備隊の若いのが頑張っていた。まぁ、ソノーエがいたから、あっという間に片付いたが。



 驚いたのが、盗賊団の奴隷の坊主だ。体は小さいし、痩せて傷や痣だらけ。いるんだよなぁ~、自分より弱いやつを虐げて楽しむ趣味の悪いやつ。帝国にもいたけど、見つけ次第、ぶん殴っていたなぁ~、俺。えっ?そんなことして問題にならなかったのかって?俺様、皇帝陛下のお気に入りだったから誰も文句つけられなかったに決まっているじゃん!



 気を失ったその子を連れて行ったら、キリコちゃんが憤慨していた。ほんといい子だよな。他人のことなのに、親身になって考えてあげられる優しい子だ。



 その報復?がまた・・ぶはっ!思い出しても笑える。鼻毛と耳毛をボウボウに生やすってなんだよ!腹を抱えてゲラゲラ笑っちまった。さすがはローガンの愛弟子だな!

 

悪人でも、傷つけない。それがあの子のやり方だ。まぁ、心はボロッボロだけどな。



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 その坊主、イーシーは、取り調べの後、ローガンによって奴隷紋を解かれた。なんと、生き延びるために色々な魔法を覚え、店に複雑な結界を張ったのもイーシーだった。



本来なら、すぐに魔法学園の寄宿舎に放り込まれるところだが、心も体も傷つきすぎていた。十分な食事を与えられてこなかったせいで、10歳なのに5、6歳にしか見えない。



その話を聞いて、オーカヨーが養子兼弟子にしたいと言い出した。自分たちなら魔力暴走を起こしても止められるし、学園に入れる状態になるまで、魔法のコントロールも教えられる。何よりイーシーには温かい家庭が必要だと。


イーシーが張った結界や蜘蛛の巣みたいなネバネバには、俺も興味があった。オーカヨーも同じだろう。今までつらい思いをしてきたこの子を幸せにしてやりたい気持ちもある。顔にこそ出さなかったが、はじめてこの子を見た時、オーカヨーはかなり怒っていた。



キリコちゃんが報復?しなければ、オーカヨーが何かやったに違いない。鼻毛、耳毛で場が和んでほんとによかった。




あいつら、今では〝お花畑盗賊団〟って呼ばれているらしいぜ。警備隊員たちもわざと間違えてそう呼んでいるんだとか。ざまぁみろ!





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