12 閑話 カプリス


 まさかファーメ亭に盗賊団が潜んでいるとは・・・。


あの娘、キリコは不思議な子だ。世間知らずの金持ちのお嬢様だと思ったが、話してみると全く違った。腹を立てても、冷静に反撃するし、自分が悪かったと思えば素直に謝る。普通に見えるのに普通じゃない。新鮮だった。


何より驚いたのは、フロマージュ国の四英雄といわれる〝瞬殺の死神〟ローガン様の弟子であること。人嫌いでどんなに頼み込んでも弟子になれないと有名だったからだ。しかも、ローガン様が自分から弟子にと誘ったというから驚きだ。


そのニュースはクロミエでも話題になった。なぜかというと彼女が作ったポシェット?とかウエストポーチ?が大人気になったからだ。そんな相手に本当に失礼な発言をしてしまったものだ。口は災いの元。相手を見た目で判断してはいけない。気をつけよう。



キリコは〝解錠の魔天使〟オーカヨー様〝千里眼〟ジョージー様〝百人力〟ソノーエ様からも大事にされているようだ。



あと、あの人、うちの国に喧嘩吹っかけてきてコテンパンにやられたトンデモナ帝国の〝トラップの魔術師〟マオ・・さんだよな?捕虜になったあと、本人の強~い希望でうちの国の人間になったっていう。えっ?結婚していたの?しかもオーカヨー様と。




ソノーエ様もカッコよかったけれど、あの人は違う意味で凄かった。盗賊団と格闘しているところへ、後からフラッとやってきた。背が高く、ヒョロッとしていて片手をポケットにつっこんでいて、一般人がうっかり事件現場に入り込んだのかと思った。


逃げようとした盗賊団の1人が向かっていったけど、彼が「フリーズ」と呪文を唱えたら、動きが止まってしまった。




「なんだよ、俺の出番がないじゃあないか」



「マオがのんびりしているからでしょ」



「いや、のんびりって、逃げてきたやつらを捕まえていたんじゃないか。ん?その子どうした?」




「・・こいつらの奴隷にされていたの。可哀そうに、気を失っちゃたから連れて行って」



「わかった」




 マオさんは男の子を大事に抱きかかえた。行きかけて振り向く。




「あ、閉じ込めておく穴いるか?」




「ん、お願い!」




「フォール」




重なり合って盗賊団が倒れていたところの地面が崩れて穴が開き、中へ落ちて行った。




「これだけ深けりゃ出られないだろう。俺が倒した奴らもここに入れといてくれ」



「任された!」



 ソノーエ様は固まっている男をつかむとポイポイ中へ投げ入れて行った。



『どんだけ、規格外なんだよ、2人とも・・・でも助かった』




 これだけの人数を縛る縄も持っていなかったし、正直とても助かる。



ん?震えて動けなくなっている女にソノーエ様が何か聞いている。




 女はブルブル震えながら、答えている。えっ?港に仲間が3人いる?こりゃあ大変だ。応援が来たら、すぐに向かおう。ん?案内するって?ずいぶん素直だな。ソノーエ様のおかげだな。






********************************************



結局、港へは別の警備隊員がソノーエ様と一緒に向かうことになった。俺は状況説明もあるので、残ることになった。




人数が多いので、詰所ではなく本部へ連行することとなる。後ろ手に縛られて歩かされている盗賊団を店の入り口から睨みつけているキリコがいる。足を大きく開いて腕組みをして、盗賊団を睨みつけている。



 なんだ、あの顔?怒っているんだろうけど、ちっとも怖くない。むしろ、可愛く感じる。俺がキリコに気を取られていると悲鳴があがる。



「「「「「「「「「「うわぁ~!!」」」」」」」」」」」



 振り返ってギョッとする。盗賊団の耳と鼻から毛がボウボウに飛び出している。




『ま・さ・か』




 俺はキリコを見る。



「あっはは~!キリコったら面白~いことしているじゃないか~!ヘブン盗賊団が鼻毛畑になっている~!」



 ローガン様がキリコの横で手をたたいて笑っている。いや、そこは止めようか。




「だいたい、ヘブンってなんですか?お師匠さん!天国ってどういう意味?ん?ああ、頭の中がお花畑ってことですね!」



 キリコがポンッと手を打つ。



「うまいこというねぇ~!さすがキリコ!」



 ローガン様、そこ、弟子の頭をナデナデしている場合じゃないですよ、止めてください。




「・・・ローガン様、キリコ様これはちょっと・・・」



ポーネ隊長が困ったように言う。




「ん?ああ、そうだね。今日はお祭りだもの。見苦しいよね」



 ローガン様は納得すると盗賊団にかかった魔法を解除した・・・と思ったら、鼻毛、耳毛が花にかわる。ついでに頭にもきれいな花が咲いている。




「「「「「「・・・・・・・」」」」」」



 あっけにとられる隊員たち。盗賊団たちはもう涙目だ。




「心配しなくても半日で消えるようにしておいたから大丈夫。あと、嘘ついたら、花が増えるようにしてあるからね。その場合は一生花が咲いたままだから」




 盗賊団から声にならない悲鳴が聞こえる。歯を食いしばってボロボロ涙を流す盗賊たち。あれ、極悪非道な盗賊団だよね?おまえたち・・・。




「さっすが、お師匠さん!素敵!!」



「だろう?」



 ローガン様、何ですか、その得意げな顔!手を取り合ってキャッキャと盛り上がる師弟。ポーネ隊長もあきらめた。・・尋問がスムーズにいくのは助かる・・・なので盗賊団はそのまま連行されることとなった。




「あ、カプリス君、色々ありがとうね。寄り道していなかったら、危なかったって。まだお仕事でしょ?これ、持って行って!」



 『お仕事でしょ?』って可愛すぎるだろ!


キリコはポーチから飴を一握り取り出すと、手を離せない俺の上着のポケットに入れてくれた。なんて優しい娘なんだ!





「い、いや、こちらこそ、ありがとう」



弟たちにいいお土産ができた。母さんが体調を崩して寝込んでいるから、弟も妹も家にいるはずだ。本当は昼過ぎに仕事をあがれる予定だったから、その後、祭りに連れていくつもりだった。事件が起きたので、それもかなわず。まぁ、仕事だからしかたない。あの子たちもわかってくれるだろう。そのうち、休みがとれたら、マンベールまで連れて行ってやろう。



「よかったな、カプリス。弟さんたちのお土産になるじゃあないか」




 ポーネ隊長が言った。



「えっ?きょうだいいるの?何人?」



「ああ、弟と妹がいるんだ」



「なんだ~、ならそう言ってよ」



 キリコは手提げをさぐると中から何かを取り出した。白いうさぎが刺繍された淡いピンクのポシェットとイルカの絵が刺繍されたポーチだ。



「これ、ギリギリに切りすぎて、穴が開いちゃったから、ほかの皮で塞いだの。つぎはぎだらけだから売り物にはならないけど、よかったらもらってくれる?」



 確かに色が違う。でも元々そういう風にデザインしたとしか思えない。予約待ちの品だぞ?俺だって欲しい。



「いただいてしまっていいのか?」



「もちろん!あ、カプリス君の分は、ほかの隊員さんたちといっしょに注文してね。ちょっと時間はかかるけど・・・」



「お、俺もいいのか?注文受けてくれるのか?」



「うん!仲直りしたしね!」




「ありがとう!うれしい!ほんとは俺も欲しかったんだ!」



「だよね~。よかったじゃないか」



 ローガン様も云々と頷いている。たぶん、キリコの素晴らしい品が買えるって意味だな、これは。




 俺は深くお辞儀をすると、警備隊とともに盗賊団を連行していった。花だらけの盗賊団に町の人が目を丸くしたのは言うまでもない。




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