8 キリコ 海のおまつりに行く⑤
その後もお師匠さんと私は色々なものを買って楽し・・・・むことはできなかった。
布、リボン、ボタンをいくつか買ったところで、警備隊がやってきた。お師匠さんは地下牢を元の戻し、男を警備隊に引き渡したが、私たちも一緒に行かなければならなかった。事情を説明するためだ。
「キリコの初めてのおまつりなのに~」
お師匠さんは地団太踏んだが、どうにもならない。お師匠さんは男をキッとにらみつける。
「ひっ!」
男はブルブル震えだした。
警備隊の人になだめられて、お師匠さんと私はしぶしぶついて行った。
私の件は未遂だったけれど、男は余罪があり、くわしく追及されるようだ。なんせポーチの機能やお師匠さんの使った地下牢の魔法がすごすぎた。なぜか、そっちのほうで質問されることが多く、困ってしまった。
『なにこれ?私、被害者なのに、まるで犯人扱いじゃん!お師匠さんだって、犯人に傷1つおわせていないのに・・・』
長引きそうだったが、話はいきなり終わった。奥から出てきた警備隊の偉い人がお師匠さんを知っていたからだ。大きな事件が起こるとお師匠さんに依頼が来ることもあって、いつも協力しているらしい。魔法使いの義務なんだってさ。ジョージーさん、オーカヨーさん、マオさん、ソノーエさんも大きな事件が起こると呼び出されるんだって。
「じゃあ、ポーネ隊長、キリコに厳しく尋問したそいつのお仕置き、頼んだよ」
さっき、「小娘が分不相応なものを持つからだ」と言ったメガネのやつ、顔が真っ青だ。いい気味。
「はい。被害者のお嬢さんには、本当に失礼いたしました。・・・もしかして、マンベールで流行っているポーチを作られている方では?」
鼻の下にちょび髭をはやした体の大きいポーネ隊長が私のほうを見ながら聞いた。
「そうだよ。あれは、うちのキリコが考えて作ったのさ。これだって、ベルトの部分は私だけど、ポーチはすべてキリコの手作りさ。自分の作ったものを身に着けて何が悪いんだか・・・」
ちらりとメガネのほうをみるお師匠さん。メガネはハッとすると、お師匠さんの前で跪く。
「も、申し訳ありませんでした!」
「謝る相手がちがうだろう!」
お、お師匠さん、怖いです。まぁ、その通りだけど。メガネは、私の前に跪く。
「失礼なことを申し上げて、すみませんでした!」
「うん。被害者にあんなこと言うなんて、びっくりしたよ。私、一人だったら、泣いていたよ。
これからは気をつけてね。え~と、メガネさん?」
悔しかったので、ちょっと仕返し。
「・・・はい。気をつけます・・・」
メガネは、両手をギュッと握りしめる。ふっふっふっ、屈辱だよね~こんな小娘に言われ放題。
ポーネ隊長が興奮気味で私に話しかける。
「やはり、そうでしたか!ローガン様のお弟子さんが作られたときいていたので。いやぁ~、うちの子供たちも大のお気に入りでして」
「えっ?わざわざマンベールまで買いに来てくださったんですか?」
「ええ。観光ギルドのブリアさんにお願いしようと思っていたのですが、娘が自分で選びたいと言って・・・。灯台のアイス目当てでついて行った息子も、ベルトに通す蓋つきポーチがあるのを見つけて、2人とも大喜びで帰ってきました」
「そうだったんですか」
隣町から来てくれていたんだ。すごくうれしい。
ほかの警備隊の人たちも顔を見合わせている。
全員横一列に並ぶと一斉に跪いた。
「すみませんでした。自分たちも購入させてください!」
『えええっ?何これ?』
「お前たち!」
「だって、隊長もいっていたじゃないですか!船大工のバラカ親方のポーチが欲しいって」
私は困ってお師匠さんのほうを見る。
「・・・で、どんな機能つけるんだい?マジックバックは大きさによって違うし、盗難防止機能も色々さ。噛みつくだけなら、わりあいお得だけどね」
「お、お師匠さん?」
「お客様だろ?」
「・・・まぁそうですけど・・・こんなにたくさんは・・・」
本音を言うと、むさくるしい男たちのポーチなど興味がない。楽しくない。
「フフッ!キリコの好きなデザインでいいさ。それが嫌なら買わなきゃいい」
「えっ?いいんですか?」
「ええ、それでいいですよ。中の機能は各自の懐具合次第。デザインはできれば海の生き物などにしていただければと」
「・・・やってみます、見本ができたら、ブリアさんにわたせばいいですか?」
「はい、それで結構です」
ポーネ隊長ニコニコしています。いいのかな、気に入るデザインかどうかまだわからないよ。
「やった~!」
警備隊の皆様、喜びすぎです。ま、一人だけしょんぼりしている奴がいるけど、気にせいだよね。
「ポーネ隊長!大変です!ヘブン盗賊団が!」
その時、ブリアさんが駆け込んできた。隊員たちの顔色がかわり、緊張した空気が流れる。
お師匠さんをみつけると、ほっとした表情になる。
「あ、ローガン様もいらしたんですね。ちょうどよかった」
「私はちょうどよくないけど、緊急召喚だね」
「はい、すみません」
お師匠さんは大きくため息をつくと私のほうを向いた。
「キリコ、魔法使いのほうの仕事だ。ちょっとはやいけどファーメ亭に行って待っていておくれ。リドムもランも元冒険者だ。緊急事態だとわかれば、保護してくれるだろう」
「はい。お師匠さんも気をつけて」
私が詰所を出ようとした時だ。
「私が、お連れします!」
メガネ君が大きな声で言った。
「キリコさん、本当にすみませんでした。お詫びにもなりませんが、せめて、ファーメ亭まで送らせてください!」
キリコが固まっていると、ポーネ隊長がお師匠さんに頭を下げる。
「ローガン様、よろしければ、カプリスにキリコさんを送らせてください。口は悪いですが、腕は立ちます」
「・・・じゃあ、頼んだよ。キリコが店に入るまでしっかり見守っておくれ」
「はい!」
というわけで私はメガネ君もといカプリスとファーメ亭を目指すことになった。
「・・・・・」
「・・・・・」
お互い会話などない。やりづらい。ただ、黙々とファーメ亭にむかって歩いていく。
『?』
何かが目の端で光った。布だ。光に当たるとキラキラ光ってきれいだ。
「あれは、クリスタルスパイダーの糸で織られた布ですね。ちょっとならお店に寄ってもいいですよ」
「えっ?」
あら、思ったより融通きく?あ、おわびのつもり?
「言い過ぎたと思っています。海の祭りでは毎年たくさん人が町に集まります。それを目当てに犯罪を行うことも多く、被害にあうのは、子供や若い女性です。特に高価なものを身にまとっていると付け狙われます」
『ああ、だから分不相応なって言ったんだ・・・』
『私を見下して言ったんじゃないんだ。防犯意識の低さ?に怒っていたんだね。』
『そんなに悪い人じゃないのかも・・・メガネ君はもうやめよう』
「ローガン様がいるなら、守りは万全。いらぬおせっかいでした」
「い、いえ、あの、私も頭にきてメガネ君とか言っちゃったし・・・ごめんなさい」
私は頭を下げた。
「…頭をあげてください。まだ子供だからと思っていたのも事実ですから」
「まぁ、ギリギリ?子供です。14歳ですから」
(※フロマージュ国では15歳から成人とみなされる)
「えっ?」
「・・・いくつだと思っていたんですか?」
メガネ君もといカプリスが目を泳がせる。私はそんな彼の顔をじぃ~~と見つめる。
「・・・10歳くらいかと・・・」
「・・・・」
『10歳?この国の人たち、確かに体格いいし、160cmの私もちびに見えるかもしれないけど・・・』
私はハッとした。
『胸か?胸のせいなのか?』
私は控えめな自分の胸を見る。私、スレンダーって言われていた。何かスポーツしているんでしょって聞かれるけれど、運動部には入っていない。入っているのは茶道部。えっ?お作法?おもてなし?いえいえ、和菓子目当てです、ええ。餡子目当てに足のしびれと戦っていますが、それが何か?まぁ、体動かすのは嫌いじゃないから、筋トレしたり、その辺走ったりもするけれど。
「いやいや、そこじゃありません!あ、あの、顔立ちが・・・その・・・とても可愛らしいから・・・」
カプリスは横をむきながら顔を赤らめる。
『・・・可愛らしい・・・』
「つ、着きましたよ。お店」
カプリスがお店へ促す。あ、ごまかされた。お主、なかなかやるな・・・っとキラキラの布にたちまち心を奪われる。
「うわ~、きれい!」
「それは、クリスタルスパイダーの糸で織ってあるんだ。触ってみるかい、お嬢ちゃん」
髭モジャのおじさんが、声をかけてくれた。
「はい!」
手触りがとてもいい。軽くて柔らかい。
「これ、ショールにしたら素敵かも・・・」
「ああ、それなら、ちょうどいいものがあるよ。」
おじさんが幅60cmくらいで私の身長より長い布を出してくる。
端の縫い方を見るが、全くわからない。最初からこの大きさで織ったのかな?
「これ、端の始末した跡がないんだけれど・・・」
「ほう、お嬢ちゃん、縫物をするんだね」
感心したようにおじさんが言う。その目へ私のポーチへ注がれる。
「まだ、見習いですから、縫うだけですよ。入っているのも、こんなものだけです」
私はポーチに手を突っ込んで、飴とハンカチを取り出す。
「そうかい。でも、その・・・子供の竜はなかなかよくできているね。刺繍できている」
「ありがとうございます」
私は飴を一個おじさんに手渡す。ついでにカプリスにも」
「い、いえ、私は・・・」
「いいから!疲れた時は、甘いものをちょっとだけとるといいんだってさ、大人でも」
「いえ・・・私は・・・まだ17歳」
「17歳・・・誕生日はいつ?」
「先月です」
私の誕生日は秋だ。ということは学年で言うと二個上。
「・・・20歳すぎていると思っていた・・・」
「!!!」
カプリスをショックを隠し切れない表情。
「まぁ、元気出しなよ。それから、敬語じゃなくっていいよ」
キリコはカプリスの肩をポンとたたいて、飴を差し出す。
「・・・はい」
「普通でお願いします。敬語だと不自然だから」
「わかった」
カプリスは飴を受け取ると包みを開くとポイっと口に放り込んだ。
「ん!うまい!」
カプリスが目を見開く。
「でしょ?それ、苺と牛乳混ぜて作ったんだって、ヒーターさんの牧場で」
「なるほど、ヒーター牧場なら納得だ。あそこの乳製品はうまいからな」
話を聞いていたおじさんも飴を口に放り込む。
「んん!こりゃうまい!これはどこで売っているんだい?」
おじさんも興味を持ったみたい。
「今日もお店を出しているみたいですよ。でも人気があるから、早めにいかないと売り切れちゃうかも」
「わかった。あとで交代して行ってみるよ」
クリスタルスパイダーは魔物だけど、大人しく草食。養殖している村があり、人間の意図を理解し、頼んだ大きさに布を織ったり、糸を出したりしてくれるんだってさ。布地が繊細なので、人の手で縫う時は専用の細~い針を使うんだって。
売り物じゃないんだけど、髭モジャのタレッジョさんは手持ちの針を一本譲ってくれた。
タレッジョさんの住むシューム村は、エポワス国にある。エポワス国は、大きな船で3か月くらいかかる遠い国。簡単にはフロマージュ国まで来られないから、次にいつ来るとは約束できない。
『私、結構稼いでいるのに、欲しいものは全部お師匠さんが買ってくれる。(買わせてくれない)
お金は貯まる一方だから、何かお師匠さんにプレゼントしたいと思っていただ。珍しい品ならお買い得だよね』
高価なスパイダーシルクのストール(金貨5枚。5万円相当)と糸(一巻き金貨1枚。1万円相当)をポンと買ったので、おまけにつけてくれた。
『この針、特別製で高いって言ってたのに・・・タレッジョさん、いい人だな』
私はうれしくなり、ポーチから飴を一握り取り出す。売り切れだった時のことを考えてそれを差し出す。
「これしかないけど(本当はいっぱい入っているけどね)針のお礼です」
「いいのかい。なくなっちゃたんじゃないかい」
「大丈夫です。うちにまだあるし、いつでも買えますから」
「それじゃあ、ありがただくよ」
タレッジョさんはにこにこ。私もにこにこ。
「そろそろ、行きましょう」
カプリスに促され、先を急ぐ。
「あった!」
ファーメ亭の青い看板がみえた。人魚の絵が描いてある。さっき、買い物の途中でお師匠さんに教えてもらった。もし、迷子になったら、ここで待つようにと。
「じゃあ、ありがとうございました」
私が中へ入ろうとすると後からカプリスがついてきた・・はずだったんだけど、あれ?ドアが閉まっている。
『ドアをしめてくれたのかな?』
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