7 キリコ 海のおまつりに行く ④
「「「「「美味しい~!」」」」」
「う~ん、これ、イケるね!」
笑顔がとろけそうなお師匠さん。
「大根と醤油をかけるなんて、キリコちゃん、すごいわ~」
ソノーエさんが褒めてくれるが、ちょっとおおげさだよ。元の世界で普通に食べていただけだし。お師匠さんのがうつった?
「いえ、オーカヨーさんがコッパーさんと話をつけてくれたからです」
オーカヨーさんをみるとにこにこしている。
「コッパーさんも喜んでいたわよ。これからは、大根おろしを横につけるって。あ、値段は少しあげるらしいけど、これなら、納得だわ」
みんな、うんうんと頷く。
コッパーさんは店主兼料理人。料理に情熱をもっており、おいしくするための工夫を欠かさないとか。忙しいのに、私みたいな子供の話もきちんと聞いてくれた。
チーズ削りは包丁みたいな形で、手に持って大きなチーズを削るタイプだった。私の知っているおろし金の説明をすると、オーカヨーさんがボールのような容器の上に、チーズ削りを橋のようにかけて、その上で大根をすりおろすことを思いついた。
実際に削ってみる。あっという間にふわふわの大根おろしができた。
醤油をたらして試食。うん、甘い大根だね。大根おろしだけでも美味しい。コッパーさんが目を見開いた。こっちでは、大根をこういう食べ方しないんだって。生のは食べないらしいし。
ついでに大根サラダについても教えておいたよ。千切りにして、おかかと刻んだ梅干(どっちもあるんですよ~、これが!)といっしょに醤油をちょっと入れたマヨであえて、上に刻みのりのせるだけ。
閑話休題。
ちなみに試作の大根サラダもこのテーブルにある。お師匠さんたちに感想を聞かせてほしいんだってさ。
ジョージーさんが大根おろしのだし巻き卵をみながら、何やら考え込んでいる。
「どうしたんだい?」
「うん、大根おろし、ほかにも使えるんじゃないかなって・・・」
「キリコ、どうなんだい?」
「はい。焼いた魚にのせて、醤油かけるとおいしいです。あ、その時にレモンをかけてもいいです」
お師匠さんが上げようとした手をジョージーさんがガシッとつかむ。
「まさか、焼き魚を注文するつもりじゃないよね」
ジョージーさんの笑顔が怖いのは気のせいだろうか。
「えっ、だって・・・」
「そんなに食べたら、昼が食べられなくなるだろう」
「それは・・・そうだけど・・・」
しょんぼりするお師匠さん。
「家で食べたらいいじゃないか。魚と大根を買って帰ってさ」
「そうそう。ほかにも良さそうなものを聞いて、全部買って帰ればいいのよ」
ジョージーさんとオーカヨーさんに言われるとお師匠さんの顔がパッと輝いた。
立ち直りはやっ!
「じゃあ、まずは、さっきのお店で大根をいっぱい買わなくっちゃ!」
ソノーエさんが両手をパンっと合わせると、みんなハッとした表情になる。
「こりゃあ、いけない!急がないと!」
ちょっと前まで味わうようにゆっくり食べていたのに、急にスピードアップした。
「・・・大根はそんなに売れないから大丈夫じゃないか?」
あきれ顔のマオさん。
「でも、たくさん欲しいじゃないか。とりあえず、10本かな?」
お茶を飲んでいたマオさんがブッとふき出した。
「そうねえ、私たちにはコレがあるから」
ソノーエさんの目がキランと光った。
「いや、同じ店は危険だ。ほかにも大根を売っているお店はあるだろうから、何か所かで買うようにしよう」
冷静なジョージーさん。
「「「「さんせーい!」」」」
「・・・・・」
マオさん、もはや何も言わず・・・。
「で、キリコ。ほかに何を買えばいい?」
「えっと~、天ぷらするなら、白身の小魚やエビ、きのこ、なす、れんこん、あ、カボチャやサツマイモもホクホクして美味しいですよ」
「「「「「・・・天ぷらって?」」」」」
「へっ?天ぷらはないんですか?」
「「「「「うん。初めて聞いた」」」」」
「え~と、小麦粉を水で溶いたものをつけて、フライみたいに沢山の油で揚げます。」
「「「「「へぇ~」」」」」
「えっと~、出汁と醤油をみりん?だったかな?それを混ぜたものを各自のお皿に入れて、そこに大根おろしを好みの量入れて、天ぷらをつけて食べるんです」
「「「「「美味しそう!」」」」」
オーカヨーさんがメモ帳のようなものを取り出した。
「キリコちゃん、もう一度、買うもの教えてくれる?」
ハッとしたお師匠さんたちも書くものを取り出した。お揃いのメモ帳だ。同じ大きさに切った紙の一辺を閉じてある。閉じた部分は、綺麗な布で覆ってある。メモにはひものついた鉛筆がついていて、鉛筆をしまうところもついている。ジョージーさんの手作りだ。
私はさっきの説明を繰り返す。作り方については簡単に説明したが、最初はみんなで作ることになった。実際に見せたほうが早いし、キリコは揚げ物をしたことがないので、フライをよく作るオーカヨーさんの力を借りるためだ。揚げ物=危険を心配したお師匠さんもホッとしたようだ。
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朝食を済ませた私たちはいよいよ、第2弾買い物タイムに突入。
大根はお店に寄って種類が違ったので、試しに色々買ってみることにした。いかにも辛そうな大根は辛いもの好きなマオさん、ソノーエさんが買った。
魚介類はほんとに豊富で、エビが好きなお師匠さんとジョージーさんは色々なお店で競うように買いまくっていた。
穴子みたいな長い魚もあった。お店の人に聞いたら、醤油と砂糖とお酒で煮るみたい。さばき方がわからないと言ったら、開いた状態にしてくれた。
ぬめりを取る下ごしらえは、オーカヨーさんが聞いてわかったみたいだ。
まかせて大丈夫とお師匠さんに言われたけど、一応、メモを取っておいた。だって、食べたいんですよ。穴子寿司。大好物!すぐにでも食べたい!
そう言ったら、お師匠さん、笑っていた。楽しみにしているって言ってくれた。
あ、魚を買ったら、青じそもいるかと聞かれたので、多めにもらってきた。魚を買うとサービスでくれるんだって。断るお客さんもいるから余っていて、多めにもらえた。やった!きざんで、薬味にするのはもちろん、天ぷらにしたら最高に美味しい。お師匠さんたちにもぜひ、味わってもらいたい。
食べたばかりなのに、山ほど、食材を買いまくる私たち。マオさんは勢いに押されながらも、オーカヨーさんに自分の食べたいものをちゃんと伝えている。
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食材の買い物が終わったので、ほかのお店ものぞきに行く。すると、アクセサリー、食器、骨董品を売るお店の並びに布があった。
売り子さんたちの服装も多種多様だ。髪の毛を左半分反り上げている人とか、前は短いのに、後ろだけ長くして編み込んでいる人とか、あ、顔に入れ墨?している人もいる。
鍋やコップ、包丁、剣など金属製品を売っているのは、体の小さいムキムキのおじさんたちやあ女の人たち。あ、もしかしてドワーフさんかな?
細いみつあみを何本も垂らしている青い髪の毛のお姉さんは、きれいな石のついたアクセサリーを売っている。細くてきれいな色の糸を編んでひもにしてあるみたい。ミサンガみたいな腕輪をしている。
あ、さらさらのストレートの銀髪に緑の目。細くて色が白~い!み、耳がとんがっている~!こ、これが噂のエルフさん。あ、お茶を売っているんだね。ん?ハーブティーかな?あ、木の実もあるね。
頭を布でぐるぐる巻きにして、てっぺんから後ろへ髪の毛を垂らしている女の人は布屋さんだよね?
鮮やかな色、大きな花柄、鳥の模様もある。あ、レースやリボンも売っている。あ、ボタンも見つけた!私の目が輝く!
それはお師匠さんも同じ。
「あ~、悪いけど、私ら、時間掛かりそうだから、ここでわかれよう。昼にファーメ亭で会おう」
「「「わかったわ。じゃあ、あとでね」」」
ここからはそれぞれ、好きなお店を見て回るらしい。『まぁ、私と違って大人だからね』
「キリコ、ほかへ行きたい時は声をかけるんだよ」
「はい!」
結構大きなお店だったので、店主のほかに手伝いがたくさんいた。お師匠さんと私はそれぞれ違う店員さんに聞きながら、商品をみせてもらった。
その時、私のの腰のあたりで〝ガブッ!〟と犬がかみついたような声?がした。
「痛て、痛てててて!た、助けてくれ~!!!」
見ると、私のウエストポーチに手を突っ込んでいる帽子を深くかぶった若い男がいた。ポーチの中に許可なくキリコ以外が手を入れると手が抜けなくなるようになっている。大型犬にかみつかれたような痛さだそうだ。
ん?なんか冷気が漂ってくる?
「よ~く~も~、私のキリコに~手を出したなぁ~!」
いえいえ、手を出されたのは、ポーチですから・・・。お師匠さんが目で合図してきたので、心の中で『解除』と唱える。男の手がポーチから外れる。
男は自分の手が心配で見ているが、何もなっていない。かまれたように感じただけ。そういう魔法だ。
上から強く押さえつけられているように、男は地面に這いつくばる。その前に仁王立ちするお師匠さん。お師匠さんの魔法だ。
「警備隊を呼んできてくれるかい」
お師匠さんが店主に声をかける。頭に布を巻いた恰幅のいい女の人は、15歳くらいのすばしっこそうな男の子に指示を出す。
「は、はい。あんた、行ってきておくれ」
「はい!」
男の子は人混みをものともせず、走り抜けていった。
「ふん!警備隊がくるまでそうしてな!」
冷気を出しながら、男にそういい捨てたお師匠さんは、私のほうに顔を向けた。
「さあ、キリコ。買い物の続きをしようじゃないか」
にこにこして、別人のようだ。
『お師匠さん?人変わりすぎでは?』
「あ、でも、この人、ここにいたら通行の邪魔になるんじゃ・・・」
「ああ、なんていい子なんだろう、うちのキリコは!」
「ケルファ!」
お師匠さんがそう唱えると、男のいたところの地面がなくなり、男が落ちる!
その上に鉄格子がかけられる。鉄格子は周りの地面と同じ高さになるように調整してあるので、つまずくことはなさそうだ。さすが、お師匠さんだ。
「え、な、なんだこれ!おい、出してくれ!おい!」
男はパニックになって叫ぶ。誰だって怖いよねぇ~、いきなり地下の落とし穴に閉じ込められたら。
「うるさいねぇ~。そこで反省しておいで」
「うっ!」
男は地下牢に這いつくばる。あ~あ、せっかく、普通に立っていられるようになったのに・・・。
『えっ?冷静だねって私のこと?まぁね、お師匠さんの魔法には慣れているから。今更、ちょっとやそっとじゃあ驚かないよ。それに、せっかくの買い物タイムがもったいないしね♡』
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お師匠さんと私はそのまま買い物を楽しんだ。
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