6 キリコ 海のおまつりに行く③
というわけで、朝から、新鮮な魚と野菜と果物を山ほど買い込んだ私たち。いや、私の場合はお師匠さんが買った。同じ家に住んでいるからっていわれた。
現在の時間は7時。買い物したところの近くにあるお店で朝食。マオさんも合流しました。
ここは、屋外で食べられるお店。テントみたいな屋根があるので、急な雨でも安心です。
ここの名物は、魚介たっぷりのスープとカニ味噌をつけて焼いたおにぎり(まん丸い)の朝食セット。ここ、絶対日本人がいたよね~。迷い人って時々いるらしいの、昔から。その人たちが自分たちの国の技術とか文化を取り入れたらしい。
お米も普通に食べているし味噌も醤油もある。日本人としては大感謝ですよ、先輩たち♡
「あ、あれも食べようよ!まきまき卵!」
「いいね。キリコちゃん、甘いのと甘くないのとどっちがいい?」
とジョージーさん。甘いのと甘くないの???と思っていたら、オーカヨーさんが言った。
「あら、両方頼んだら?6人いるんだし」
「「「さんせーい!!」」」
「あ、すみません!まきまき卵2種類、2つずつ下さい」
ソノーエさんが給仕係を呼び止めて、注文した。カールした緑色の髪をポニーテールにしている若い女の人。オレンジのワンピースと色を合わせて、細いオレンジのリボンを二重にして蝶結びしていておしゃれさんだ。
「あ、まって、持ち帰り用も欲しい」
「食べてからでいいかい?キリコの好みがわからないから」
「そうね、そうしましょ」
待つこと10分・・・。
「お待たせしました!」
目の前に長方形のお皿が2つ並ぶ。ん?これは!
「赤いお皿が甘い卵で、青いお皿が甘くない卵です」
「さぁ、キリコ、どっちから食べてごらん」
お師匠さんがニコニコしながら、私のお皿に入れてくれた。
「い、いただきます」
私は甘いほうを一口パクリ。懐かしい味。我が家の卵焼きはこの甘いほう。そして、もうひとつもパクリ。こっちもおいしい。だし巻き卵だ。でも・・・惜しい!あれがあれば、もっと美味しいのに。
「どうした、キリコ。美味しくなかったかい?」
お師匠さんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「ち、違います。これ、向こうの世界でも食べていた卵です。どっちも美味しいです」
私はあわてて否定した。
「そうだったのかい」
お師匠さんはほっとしたようだ。
「キリコちゃんのお家では、どっちの味だったの?」
ソノーエさんが聞いた。
「うちのは甘いやつです。遠足とかあると、お弁当に必ず入っていて・・・」
あれ、どうしたんだろう。みんな眉間にしわが寄っている。
「「「「「えんそくってなんだい?」」」」」
『えっ、そこ?』
「あ~、遠足っていうのは、学校で行く行事です」
「「「「「ぎょうじ?」」」」」
『そこもか!』
「学校は勉強が中心ですが、勉強とは直接関係ないこともやります。学年ごととか、学校全体とかでやります。遠足は、近くの広い公園までみんなで歩いて行って、ウォークラリーするとか、バスで工場見学に行くとか色々あって、その時にお弁当を持っていきます。」
「「「「「へぇ~」」」」」
「お昼になったら、自分用のシートを友達とくっつけて敷いて、お弁当を食べるんです。その時おやつも食べます。友達とおかずやお菓子を交換して楽しいですよ」
「「「「「へぇ~」」」」」
「ほかの行事は運動会、音楽会・・・あ、中学では文化祭もあります」
「「「「「うんどうかいってなんだい?」」」」」
『それもないんだ・・・』
「運動会は全校を2つのグループにわけて、得点を競います。かけっこや、ダンス、リレー、玉入れ、綱引き、騎馬戦、2人3脚とか。あ、ダンスは得点になりません。学年ごとに踊って見せるだけです。小学校だと親が見に来ていて、お昼は家族で一緒にお弁当を食べます。」
「「「「「「へぇ~、楽しそうだね~」」」」」」
『ん??1人多い?』
後ろを振り返るとブリアさんがいた。非常にいい笑顔だ。それを見てお師匠さんが大きなため息をついた。
「ブリアの考えていることは、よ~くわかるよ。観光客を呼び込むイベントのアイデアを探しているんだろう?まったくうちのキリコを巻き込むんじゃ」
「ちょっと!それ、そのポーチ!!!」
ブリアさんはお師匠さんの話をぶった切って、私たちのベルトポーチを指さした。
マオさん以外の4人が同時に席を立って、ブリアさんを囲んだ。一瞬のできごと。あまりの速さにビックリ。
4人とも笑っているけど、目が笑っていない。ソノーエさんの手がブリアさんの肩に食い込んでいる気がするんだけど・・・気のせいだよね?
「ああ、これね。今日のおでかけに合わせて、お揃いで作ったの。素敵でしょう?まあ、中に入るのはハンカチとか飴玉くらいだけどね」
とジョージーさん。
「ブリア、今仕事中だよね?その話は終わってからしようか」
お師匠さんが、低~い声で言った。
「は、はい!そうでした!で、では後日、工房のほうへ伺います」
「ああ、そうしておくれ」
お師匠さんは振り向くと打って変わったような優しい声で私に言った。
「キリコ、その中に入っている飴をブリアにも、わけてやってくれないかい?」
「は、はい」
私はポーチの中から飴を取り出した。ダミーの飴だ。こうしておけば、ポーチの中には、たいしたものが入っていない。ただおしゃれでつけているとまわりが思ってくれる。高価なものをもっていると知られたら、目をつけられて厄介ごとに巻き込まれそうだからね。
「どれにします?ミルク飴です。苺とメロンとレモンがありますけど」
「そ、そうね、レモンがいいかな」
私はブリアさんの掌に飴をのせた。
「あ、ありがとう、キリコちゃん。じゃ、またね」
ブリアさんはポケットに飴をしまうと、ひきつった笑顔で手を振りながら行ってしまった。
『びっくりしたぁ~!いつも落ち着いているブリアさんでも、あんなに興奮しちゃうことがあるんだぁ~、そんなにこれがほしかったのかなぁ~』
普段は別のやつをズボンのベルトに通して使っているから、ブリアさん、みたことがあるはずなんだけどなぁ~。
「話がそれちゃったけど、家によって違う味の卵をつくるってことかい?」
「ええ、自分が食べなれたほうを作るって感じですかね。あ、でもだし巻きも食べます。」
「「「「「だし巻き?」」」」」
「あ、こっちは出汁を入れて焼くので、〝だし巻き卵〟って言っていました。で、甘いほうは普通に〝卵焼き〟」
「「「「「へぇ~、そうなんだ・・・」」」」」
「えっと~地域によって違うらしくって、京都ってところに旅行に行くと、だし巻き卵が美味しくって、上に大根おろしをのせて、お醤油をちょっと垂らすと絶品で・・・」
「「「「「大根おろしって?!」」」」」
あ、目がキラキラしてまぶしい!
「え~と、こっちの世界にはないんですけど、おろし金っていうのがあって、それで大根をおろすんです。あ、チーズをおろすやつでいけるかも!」
「すみませ~ん」
ソノーエさんが緑の髪のポニーテールさんに声をかける。
「はい」
「チーズおろすやつ、借りれるかしら?あと、大根ある?」
「はい、ありますけど・・・」
お姉さんちょっと困った顔だ。
「ああ、ごめんなさい。コッパーさん、今忙しいわよね。でも、これがもっと美味しくなるって伝えてくれる。」
オーカヨーさんが〝だし巻き卵〟を指さしながら、穏やかな口調で言った。
「わ、わかりました」
「手が離せなければ、厨房のほうに行ってもいいわ」
「・・・そのほうがいいかもしれません。では、直接お話しください。こちらへどうぞ」
「さぁ、行きましょ、キリコちゃん」
「え、え、え・・・」
オーカヨーさんはわけがわからない私の手を引いて厨房のほうへ行った。
「「「頼んだよ~、あと、おかわりもね~!!!」」」
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