5  キリコ海のおまつりに行く②

ガタガタガタガタ・・・ゴットン!ガタガタガタ・・・ゴットン・・・


 今日は待ちに待った〝海のおまつり〟

キリコは、お師匠さんたちと、荷馬車に乗って、港町クロミエへ向かっている。マンベールからクロミエまでは馬車で1時間くらいかかるらしい。


オーカヨーさんの家の荷馬車には、ジョージーさん、ソノーエさんも乗っている。


オーカヨーさん夫婦は、よくクロミエへ行くらしい。旦那さんが仕事で使うものを買いに行く時に一緒に乗って行って、買い出しをするらしい。また、毎月1日には市が開かれる。


クロミエは港町なので、魚介類はもちろん、外国からの珍しいものもいっぱい入ってくる。美味しいものに目がないオーカヨーさん夫婦は、外国からの果物やお菓子などを買って楽しんでいる。



近所の人に頼まれたものも買ってくるので、帰りは、荷物でいっぱいになることもあるらしい。




「せっかくの休みなのに、すまないねぇ~、私たちまでのせてもらっちゃって・・・」


 お師匠さんが、御者を務めるマオさんに声をかけた。




「なぁ~に、どうせ行くなら、みんなで行ったほうがにぎやかで良い。ローガンさんやキリコちゃんには、道具ベルトやベルトポーチをただでもらったし、それに比べたらどうってことないさ」




「ただって、試作品じゃないか。使い心地とか感想とか、細かいところまでアドバイスをもらって、助かったのはこっちのほうさ」




「いやいや、それを聞いて、改良してくれたおかげで仕事がずいぶん楽になったよ」



 必要な工具を全部差し込んだ工具ベルトは、装着してみたら、重くて無理だった。そこで、重さが十分の一になる魔法陣をつけた。



 釘やねじなどは、私の作った蓋のないベルトポーチをつけてそこへ入れた。蓋がないから中のものが飛び出さないように、出したいものだけが、マオさんの手にのるようにした。ついでに拡張バッグにしたので、片手で食べられるお菓子や水筒なども入れているらしい。


 魔法陣の真ん中に魔石をつけてあり、そこにマオさんの魔力を通して、ほかの人は使えないようになっている。また、誰かが、そのベルトを手に取ると100倍の重さになるようにしてあるので、まず、盗難は無理だ。おまけで、警報がなる機能もつけてあるとか。


 

 今まで、工具箱やリュックに入れて運んでいたのが、ベルトを腰に巻くだけで手ぶらで出かけられる。ベルトポーチには時間停止の機能も付けたので、最近はお弁当も入れて持って行っているらしい。どこにいてもアツアツのご飯が食べられるので、重宝しているらしい。



「キリコちゃんのポーチはこうして、取り外して、普段も使っているよ」



 マオさんが左の腰につけたポーチを見せた。そう、ベルトポーチだから、どのベルトにもつけられるんだよね~。



「「「ほんと、これ便利!」」」




 オーカヨーさん、ジョージーさん、ソノーエさんが自分の腰にあるベルトポーチを指さした。



 旦那さんのポーチをみて、オーカヨーさんが同じものを作って欲しいと言った。ポーチより、こちらのほうが大人向き。蓋がないのが何より便利。


問題は、こちらの世界の女性はスカートやワンピースを着ているので、ベルトはしない。そこで、2つのバックルを前で留めるタイプのベルトを考えた。片一方にフックがついていて、もう片一方にはフックをひっかけるところがついている。これなら、スカートにも合うし、ポーチも通せる。



 描いて説明する。2つが合わさると1羽になる蝶々。花が2つ並ぶのも描いた。



「お~、いいねぇ~」


オリジナルなバックルが良いと ジョージーさんの提案で、ソノーエさんにも声をかけ、お師匠さんと4人で相談してデザインを決定。


片側にこの国の守護神の竜の横顔、片側に聖なる花〝オダマキ〟


 えっ?私?


「キリコも同じでいいかい?」ってお師匠さんが聞いてくれたから、元気に「はい!」と返事をした。





バックルは、お師匠さんが特注の金具とか作ってもらっている鍛冶屋のクワルク親方に頼んだ。



「へぇ~、簡単な構造だが、外れないように作れるかどうか・・・同じ構造の物を作るから、それを使ってベルトを作ってみてくれ。それを使ってみてから注文の品を作るぞ」



「あ、それなら、これで・・・」



お師匠さんは私の描いた絵を渡したらしい。後からそれを聞いて、めっちゃ、びっくり!

は、恥ずかしい・・・。




「ふむ。これならすぐに作れそうだ。預からせてくれ」



「はいよ~」



 という感じでできあがったベルト。

ポーチ製作は私の仕事。

キリコは普段ズボンなので、ベルトもしている。最初に試作したのはそこにつけるポーチ。


お師匠さんたちのは、大人っぽいのを作る予定だったのよ。でも、私のポーチを見てお師匠さんが気に入ってしまった。


黒猫が歩いていて、その後ろに足跡がある・・・まぁよくあるデザイン。



 でも、猫と竜じゃなんか違う気がした。猫を子どもの竜にかえて、竜の足跡にした。



「いいね、いいね~!」


 お師匠さんが、それをみんなに見せたら、あっさりOKがでたらしい。




『ほんとによかったのかなぁ~。お師匠さんの勢いに押されちゃったんじゃ・・・』



 そんな風にちょっと心配でした。友達なので、マオさんのと同じ機能をつけ、持ち主が許可しない人が触れないようにしてあるとか???大盤振る舞いの上、友達価格の大特価。だとしても、作るなら自分の好きなデザインがいいよね・・・。




「「「キリコちゃんのこの竜、最高にかわいいわよね~!!」」」




「だろう!」



 お師匠さんの得意げな顔。まぁ、気に入ってくれているなら良かった。




「あのね、キリコちゃん。女性はね、いくつになっても可愛いものが好きなのよ」



 とオーカヨーさん。




「「「そうそう」」」


 というわけで、マオさん以外はおそろいのベルト&ポーチなのだ。



おまつりということもあって、普段ズボンのお師匠さんと私も今日はワンピースだ。



お師匠さんは濃青紫のノースリーブワンピース。ウエストがないタイプなので、腰にベルトをするとちょうどいい感じ。



キリコは水色で、襟のあるノースリーブワンピース。胸元がボタンになっている。長さはひざ上で、中にレギンスのような短めのズボンをはいている。




『ズボンに慣れすぎて、おしとやかに動けない。スカートの中見えちゃいそうだからね・・・』




 中に履いているって、安心♡




「お、町が見えてきたぞ!」



「えっ!」



 私は御者席のほうへ行って前を覗いた。


 

「うわぁ~!」



 大きな町が見えた。高い建物も多いし、家が密集している感じ。マンベールの家は石や木でできた素朴な色合いだが、クロミエは白壁にオレンジの屋根が多い。どこかの観光地みたい。もうそれだけでワクワクしてきた。




「隣に座っていいですか?」



「ああ、こっちに座りな」


マオさんが右にずれて、場所をあけてくれた。



「ありがとうございます」



 隣に座って目を輝かせていると、真っ白い大きな建物が神殿で、石作りの屋根が丸い建物が商業ギルドで・・・とマオさんが、教えてくれる。ガイドさんみたいだ。






「さて、到着だ。私は、ここで馬車を預けるから、みんなは先に行ってかまわないぞ」


「そうね、早めにでたけど、結構並んでいるから時間がかかると思うわ。じゃあ、いつも(・・・)の(・)店(・)のところで。席、とっておくわ」


「ああ、ゆっくり買い物していていいぞ」



 マオさんがクックッと笑いながら、頷いた。夫婦二人で話は決まった。



 町に入り口に馬車を預かるところがあって、みんなそこに並んでいる。マオさんたちは慣れているので、今日は混むだろうと朝食も取らずに5時に出発した。


「えっ?いいんですか?」



「大丈夫よ。早くいかないといい物から売れて行っちゃうから、急ぎましょう」


オーカヨーさんが私の手をつかんで歩き出した。



「「「うん、行こう!」」」



 お師匠さん、ジョージーさん、ソノーエさんは、大きな手提げ袋を肩にかけると並んで競うように歩き出した。




「いいかい、キリコ。買ったものはその手提げ袋に入れるんだよ。そこから、ベルトポーチに移動するようにしてあるからね。財布もバックから出すふりをするんだ。ベルトポーチからだしていいのは、飴やハンカチだけ。おしゃれでつけていると思わせておくんだよ」




「そうそう、マンベールではいいけど、ここはよその人がたくさん来ているから」

「高価なものを持っているとわかると、危ないからね」

「この手提げ袋はそのためのダミーさ」



「「「「今年はいっぱい買える~!!!生ものもオッケー!」」」」




『 お師匠さんたちの気合のすごさに圧倒されそう。でも、私も買っちゃうかも。やっぱり買い物って楽しいもんね~!』



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