4 キリコ、海のおまつりに行く①
「そういえば、海のまつりがもうすぐだね~」
「えっ?海のお祭りですか?」
私は、試作中の男の子用バッグを縫う手をとめた。
「そう、隣のクロミエで毎年夏に開かれる。海の女神〝レーラ〟様を模した像をのせた山車の行列が町中を練り歩く。屋台もたくさん出て、それはにぎやかさ。」
「え、屋台!!」
目を輝かした私をみて、お師匠さんがクスリと笑った。
「ああ、よその国の珍しい品や食べ物の屋台が町中に並ぶんだ。私のおすすめは、イカ焼き、貝のスープ、魚のフライ・・・ああ、魚のフライといえば、〝ファーメ亭〟だ」
「ファーメ亭?お師匠さんのいきつけのお店ですか?」
「ああ、知り合いの夫婦がやっていてね。特に新鮮な魚介を使ったドリアは最高さ!ヒーターさんところのチーズを使っていて濃厚な味でね。さらに、さらにだよ、その上にその日水揚げされた魚のフライがうえにのっているのさ!」
「「はぁぁぁ~♡」」
2人してドリアを想像して、ウットリ。
「行けばいいじゃない」
お師匠さんの友達ジョージーさんがあきれたように言った。ジョージーさんは旅行家だ。旅した場所の写真にコメントをつけた旅行記?はかなり売れているとか。
今日はお菓子のお土産(激うまクッキー)を持ってきてくれたので、3人でお茶をしているところだ。
「う~ん、人が多いからキリコが迷子になるといけないし~」
心配顔のお師匠さんをみて、ジョージーさんがため息をついた。
「居場所のわかる魔道具持たせたらいいでしょ。あんたなら、簡単に作れるじゃないの」
「あ、そうだった」
お師匠さんがポンと手を打つ。
「私も、ソノーエさんと行くし、オーカヨーさんも旦那さんと行くらしいから、一緒にいけば安心でしょ?」
お師匠さんは立ち上がると、ジョージーさんに抱き着いて、背中をバンバンたたいた。
「ありがとう~!!大好き~!!!」
「痛い、痛い、痛い、痛い!」
「あ、ごめん」
お師匠さんがジョージーさんからぱっと離れた。
「まったく・・・」
ジョージーさんはまた、ため息をついた。
「ところで、キリコちゃん、今度は何作っているの?」
「あ、これですか?男の子用のバック、ベルトポーチです。この部分をベルトに通すんです。」
「へぇ~」
男の子用に思いついたのはショルダーバックだった。でも、お師匠さんからNG。背中にあると使いにくいのと、防犯面危険なのが理由だ
『やっぱ、日本って平和なんだなぁ~』
ファスナーはこちらの世界にもある。ファスナーつきだと簡単に開けられるため、後ろから開けられて、中のものを取られる可能性が高いという。
それならば目が届くところにあればよい。ポシェットみたいに蓋つきにすれば、防犯上も問題なし。
この世界の男性のズボンはベルトを通すタイプ。ベルトポーチにすればいいのではと。
「男性が煙草を入れるのにも使えそうね」
まじまじとバックをみるジョージーさん。
「ええ、そうです。蓋をつけず、大きさを調整すれば、ちょっとした工具をいれるのにも使えるし、長い者なら太めのベルトにさしこめるようして使うこともできます」
「ん?それ、どんな感じ?」
今度はお師匠さんが飛びついた。
「え~と、こんな感じで・・・」
私がイメージ図をかいてみると、両側から2人がのぞき込む。
『ち、近い!』
「これなら後ろにあっても大丈夫ですよね?(盗めれるようなものじゃあないしね)工具によって、長さも幅も違うので、それに合わせて、縫い合わせます」
「ふむ、幅が広めのベルトに差し込めるように幅の狭いベルトを縫い付けるんだね。穴が開くように工具に合わせて間隔をあけて・・・なるほど」
「これは、ベルト通しには通さず、腰にまきつけます。前の部分は幅が狭いほうが動きやすいかもしれません」
「これ、オーカヨーさんの旦那さんが使いやすいかもね」
オーカヨーさんの旦那さんは魔道具の修理屋さんで、主に家庭で使う道具の修理を行う。前の世界での家電、冷蔵庫、冷暖房器具、洗濯機にあたるものや、水道、風呂などの修理だ。
2人はイメージ図をみて、具体的に意見を出し始めた。
「ああ、確かにいいかもね。今度、きいてみようか」
「と、その前に」
お師匠さんが私の肩をガシッと掴む。
「キリコ、お願いがあるんだけど、この道具入れるタイプのほう、私に作らせてもらえないかい?」
「えええっ!!」
あまりのことにびっくりするキリコ。それを否定と捉えたお師匠さんが必死な表情で頼み込む。
「アイデア料もちゃんと払うからさ。登録もキリコの名前でしておく。ああ、でも、ほんとは自分で作りたいんだよね~」
「いえ、全然」
「はいい??」
「私が作りたいのは、男の子用のベルトポーチですから」
きっぱりと言い切る私。
「・・・・」
しばし固まるお師匠さん。その肩をポンッとたたいたジョージーさん。
「可愛いは正義です!」
私は胸を張る。まだ発展途上だけど・・・。
「・・・・・」
「いいってさ、よかったね」
「私には無理ですから。工具によって幅を変えたり、着け心地考えたりとか・・・」
そう、私はまだ新人。そして、可愛いものが好き。実用品には食指が動かない。全然。そんなでできるわけがない。
「じゃあ、いいんだね、私が作っても!!」
「もちろんです。むしろ、お師匠さんにこそ作ってもらいたいです。アイデア料もいりません。元の世界でみたことあるだけですから。登録もお師匠さんの名前でお願いします」
「「それはだめ!!」」
2人から同時にダメ出しされた。
「え?だって、お師匠さんなら、それぞれの職人さんが使いやすいようにカスタマイズできますよね?そうなったら、すでにそれはお師匠さんの作品ですよね」
「う~~~~ん」
頭をぐしゃぐしゃにしてうなるお師匠さん。
「・・・わかった。最初のその図だけ、登録しよう。そのあと、改良品として私の名前で登録。今後同じようなものを作ろうとする人がいたら、その都度キリコにもアイデア料が入るしね」
ポッカァ~ンとしていた私をなぐさめるようにジョージーさんが言った。
「キリコちゃん、その辺で手を打ってあげてね。師匠が弟子のアイデアを横取りするようなことしたくないのよ、ローガンは」
『そっか、私がよくても、お師匠さん、そういうのは、嫌だよね。よし!』
私は気持ちを切り替えてお師匠さんのほうを向くと頭を下げた。
「はい、ではそういうことでよろしくお願いします」
「うん、ありがとう、キリコ!じゃあちょっと行ってくるね!」
お師匠さんは私のかいたイメージ図をもって出かけて行った。
「あ~あ、ああなると止まらないのよね」
ジョージーさんはクスクス笑いながら、美味しそうにお茶を飲みほした。
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