2 璃子、キリコになる
神社のお堂が消えてしまい、途方にくれる私。
しばらく呆然としていたが、とりあえず、歩き出した。方向は全くわからない。なるべく低い草のところを歩くしかない。低いと言っても腰くらいの高さはあるので、かき分けていく感じだ。どこか、雨露をしのげる場所を探さないといけない。
草や枝をかき分けているうちに、手も足も傷だらけになったが、そうしているうちに細い道に出た。
「やった!あと、食べられそうなものとか、水とか・・・」
そう言った時、目の前に水の玉が浮かんだ。
「え?え?え?え~?」
戸惑っていると水の玉が弾けた。
「・・・・・」
「水」
もう一度言うと、また水の玉ができた。両手でそれをすくう。
水の玉がはじけて、掌に落ちた。
〝ごしごしごしごし〟
手の汚れを落とす。
「水」
水の玉を両手ですくい、こぼさないように気をつけながら、恐る恐る口をつけた。
〝ごくん。ごくごくごく〟
「・・水だ。しかも美味しい」
「・・・えっと・・・食べ物」
何も出てこない。
「・・・具体的じゃないとだめか。りんご!」
ポンとリンゴがでた。落ちないようにすばやくリンゴをつかむ。
リンゴの皮を服でこすると、そのまま一口パクリ。モグモグ・・・。
「めっちゃ、おいしい~!」
その時、後ろから伸びてきた手がリンゴを奪う。
「えっ?」
振り向くと、黒髪を後ろで一つにたばねた女の人が、そのリンゴをカプリと食べた。白っぽいシャツにオリーブ色のズボン。背中にかごを背負い、片手には草?を持っている。草むらにいたのか、髪の毛にはあちこち葉っぱがついている。顔にも土がついている。
「うん、確かに美味しい!あ、ごめん、ごめん」
女の人はリンゴを私に返した。
「えっと、どなたです?」
「ん?私かい?私はローガン。革細工職人さ。まぁ、魔力が多いから、魔女と呼ぶものもいるけどね。で、あんたは?このへんじゃ見かけない子だね。その服装も・・・」
「あ、観月璃子です。中学3年生です。」
「ミジュ、ミジュ・・・キ・・リ・・・コ・・・言いにくいね。ミズュ、ミュ・ズュ・・・キ・リコ。あ~、キリコでいいかい?」
ローガンさんはさっそくあきらめた。(あきらめるの、はやっ!)
「あと、チュウガクってなんだい?」
嫌な予感がした。
『もしかして、ココは・・・』
「えっと、13歳~15歳の子が勉強するところです。っていうか、ココ、どこですか?」
「ん?ココ?マンベールの町さ。・・・キリコ、あんた、迷い人、異世界人だね。」
『やっぱり・・・』
「あ~、そうみたいです。」
ガックリうなだれる私。
「とりあえず、家にくるかい?」
「はい!」
切り替えのはやい私だった。
えっ?そんなに人を簡単に信じていいのかって?だってさ、頭に葉っぱをくっつけて、ほっぺたが土で汚れているような人が、悪いことするように見える?
ローガンさんはきわめて、自然体。悪い人っていうのは、なんていうか、あ~、はりつけたような笑顔(うちの担任ね)の人?と私は思う。
なにより、今の私にはローガンさんについていくしか選択肢がない。
私は、ローガンさんと歩きながら、ココに来るようになった経緯を話した。
「ふぅ~ん。じゃあ、そのジンジャー?こっちでいうと神殿?みたいなところから、ココへ飛ばされたってことかぁ~」
「そうみたいです。小さい時からよく通っていて、お願い事したりしていました」
「そうなんだね~。もしかして、その時、何かお願いしなかったかい?」
「ん~・・・」
『誰にも見つかりませんように。誰にも会いたくない』
「あっ!」
「こころあたりがあるんだね」
「はい」
がっくりとうなだれる私。
「すんだことを悔やんでも仕方がないさ。こっちでしばらく、のんびりしたらいいんじゃないかい?」
「でも、私、何にも持っていないし、どうやって暮らしていけばいいのか・・・」
「じゃあ、私の弟子になるかい?」
「えっ?」
「どっちにしろ、魔力操作は教えたほうがよさそうだ。キリコは魔力が多そうだし、暴走でもしたら、大変だからね。まずは弟子見習いでどうだい?魔力操作を覚えて、ほかにやりたいことが見つかったら、そっちで生活していけばいいし」
「だって、そんな話・・・都合よすぎる・・・」
「子供が遠慮するもんじゃないよ。大人に助けてもらえるのは子供の特権さ。こうして、出会ったのも何かの縁だしね」
「・・・じゃあ、お世話になります!」
私は腰から体を直角に曲げ、深々とお辞儀をした。
「よし!じゃあ、今日から私はキリコの〝お師匠さん〟」
「はい!お師匠さん。よろしくお願いします!」
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