第11話

参道



参道の木々は枯れて落ち葉がカサカサと踏む度に音を立てる。


勢多賀区全域に出現した蟲人も今は、神社がある小さな山だけになった。


それでもまだ多くの蟲人が山に生息している。


神社に続く階段の手前の参道を進むと、参道の横の森から次々とおんな型、おとこ型、大型改め中型が、ワラワラと現れる。


「ディー、キリがねぇぞ、次、気をつけろ下から来るぞ」


「なに、下か」


枯葉の辺りからカサコソと枯葉が擦れ合う音がしている。下にいる蟲人の姿は見えない。


その間にもおんな型が石や木の枝、木の実などをかなりの勢いでぶつけてくる。


「おんな型は見つけたら直ぐに倒さないと周りにある物を操って攻撃してくるんだ」


おんな型が岩を投げつけてくる。


避けよう、走ろうとするが動けない。


かなり大きな岩が迫る。


ディーが岩に手を向けて、ヒョイっと岩を押して返す。


戻ってきた岩におんな型とその周辺に居た成蟲を巻き込んで潰した。


足元をみると、5センチくらいのおんな型の蟲人がワラワラと足にしがみつき、足を登ってくる。


「キッモ」


俺は背中がゾワゾワして叫んだ。


「ディー、このちっこいの踏みつければ卵が量産されるから、ほかの方ほを考えないと、ディー?」


「大丈夫だ、準備が出来た」


「何の?」


「毒だ、霧状に噴射する。」


ディーが手の平を小さいおんな型に向けて霧を発射した。


霧を受けた小さいおんな型はパタパタと地面に落ちて行く。


「なんだ、この毒、すっげー効くな」


まさに、殺虫剤だな。


「すげーだろ、アロに使っている毒だ」


スッゲーと喜んだ顔がスンと顔の表情が落ちた。


「俺にえげつない毒使ってんだな」


「ん?そりゃあ、アロが『もっと痛くして』って言わせる位の効力はあるよ、ほかの人間に使ったら、溶けるしな」


「さらっと怖いこと言うなよ」


「大丈夫だ、オレはアロ以外の人間には使うつもりは無い」


「俺にも使うなよ」


「オレの毒、切れると大変なのアロだぞ」


「なっ、なんでだよ」


「毒使わないでオレに食われると、とてつもなく痛いよ、回復も少し時間が掛かるな、あと、、、


最近アロは、うなされる夢見てないだろ」


「っえ、知ってたのか」


「まぁな、アロには特別配合して、精神安定する効果も入ってるよ」


「そうか、俺はディーと一緒にいるから夢見ないのかと思ってたよ」


「アロにとっては、オレとオレの毒の両方が必要なんだよ」


「そうか」


なんだか少し気分が落胆した。


「そうだ、今度アロを食う時毒が必要かどうか聞いてやろうか」


毒無しで食われることを想像して、

勢いよく首を振った。


「気にすんな毒を使ってくれ」


「そうかぁ、痛いのが好きなアロは毒いらないって言うと思ったのに」


顔が熱くなった。

「痛くして」とせがむ俺を容易に想像できたから。


「気にすんなよ、毒を使ってくれ」


声が上ずった。


迫り来る成蟲を次々と倒して行く。参道をすぎて階段を登る。


「おい、階段の途中」


「あぁ、アレは厄介そうだ」


数段先に8メートル位ありそうな二匹の獅子と狛犬が立ち塞がっていた。


ディーが飛ぶように走って近ずくとそれは、おんな型、おとこ型、中型が折り重なって、獅子と狛犬の姿になっている。


「地道にやるしかないな」


「そうだな」


獅子が跳躍してディーの後ろに回り、前足で払う。


後ろから狛犬が大きな口を開けて食おうと迫る。


口が閉じる前に跳躍しながら

外側の成蟲の眉間に刺す。


眉間を指された成蟲が地面にドサッと落ちる。

が、すかさずほかの成蟲が森から現れて補完した。


眉間の見えない成蟲は首の神経を切って、狛犬から落とす。

が、すぐさま補完されてしまう。


「キリがねぇな、ディー、毒は使えないのか」


「成蟲にはやらねぇよ、卵が量産されるしな。


成蟲には眉間の奥にある魂魄を狙って毒を直接注入してんだし」


獅子が前足で引っ掻く。


ディーが横に飛ぶ。


着地地点に狛犬が口を開け待っている。


ディーはたまらず。狛犬の口の中に毒を噴射する。


成蟲と成蟲の間からパラパラと小さいおんな型が落ち、狛犬の鼻先ごとドサッと落ちた。


「小さい成蟲がつなぎ止めてる、ディー、霧だ、霧が有効だ」


「おう、任せとけ」


獅子と狛犬に向かって跳躍しながら毒の霧を噴射し、獅子と狛犬を瓦解させ、落ちた成蟲に素早く的確にトドメをさして行く。


最後に中型が2体、皮膚が硬くて、丸くなっている。


ディーが攻撃しても刺さらない。


「刺さらないな」


「あぁ、トドメを刺せない、どうする」


「毒を使うか?」


「成蟲に毒使うと、卵が量産させるぞ」


「後で倒そう出てきたら対処するしかないだろ」


「だな、使うぞ、グロいが後悔すんなよ」


「ディーこそ、キモすぎて、吐くなよ」


俺とディーが『よし!』と気合を入れて、中型2体の首に毒を垂らす。


シュワシュワと皮膚が溶けだす。

生き物の焼けるような、腐るような臭いが立ち込める。


ディーは完全なフェイスガードをして臭いを完全にシャットアウトした。


俺のいるカプセル内は元々、外の影響を受けない。


何故かこの2体は大量の卵を持っていないようだ。


中型が溶けきった後には、ダチョウの卵サイズの汚泥を混ぜて固めたような塊が2つ出てきた。


「ディー」


「なんだ」


「コレどうする?」


「卵ならその場から動かないけど」


「ディー、触ってみろよ」


「イヤだよ、そんなこと言うならアロが触れよ」


「いいよ、このカプセルから出ていいなら」


「それはダメだな、オレがやる」


「頼もしいなディーは」


ちょろいな。


ディーは恐る恐る最初にチョンとつついてみる。


コテンと転がる塊。


「卵じゃない、ディーなんだと思うコレ」


「さぁな、一応もって行こう」


「平潟さんに見せるのか」


「そうだな、何か分かるかもしれないしな」


と言って、ふたつの塊をを抱えて、階段を登りきった。

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