第9話
戦闘前の静けさ
家が同じ方向を向いて、所狭しと並んでいるこの国土の狭さを表している。
誰もいなくなった住宅街は恐ろしいくらいに静かだ。
道には10メートル置きに錫杖が地面に突き刺さっている。
「ディーこの錫杖はなんだ? 」
「あぁ結界だな、成蟲はこのから先に出られない」
「じゃあこの外にいれば安全ってことか」
「そうだが、この結界は前、もっと神社に近いところだった」
「結界破られたのか?」
「そうだ、結界内から、同じ一点に集中攻撃されると破られる。
だいたい2週間前だったかな初めて結界が破られたのは」
「あぁ、帰りが遅かった日だな」
「その日は大変だったらしい、死者が何人か出たって言ってたな」
「この間来た、自衛隊員はそんなこと一言も言ってなかった」
「アロに知らせても心配して不安になるだけだからな」
「その時オレは、大型と戦っていたんだ。
別に動いていた成蟲に結界を破られたそうだ。
大慌てだったらしい。
錫杖は円を書くように配置しないと機能しないらしい、ここが結界の大外だな」
ディーはその錫杖に沿って歩き始めた。
「こんなゆっくり歩いて大丈夫なの」
「ん?アロと歩くの楽しいからなぁ」
「俺は景色見てるだけ、歩いてねぇよ」
「それでも楽しい、俺の中に入れば、アロは安全だから」
「ディーはどうやって結界内に入るんだよ」
「うん、錫杖を持てば入れるぞ」
「今持ってんのか、その錫杖」
「いや、今から受け取りに行く」
住宅街を抜けるとそこは、更地になっていた。
危険地区を囲むように結界を張る錫杖が立っている。
何重にも錫杖が立っていた。
それ以外何も無い。
ここはかなりの都会だったはずだ。
高い建物が所狭しと並んでいたのに。
そうだデパートは?
辺りを見回したいのに、ディーは視線を動かさない。
「ディー辺りを見回してくれ」
「アロ、ダメだ、もう時間だ。
あそこを見てくれ」
ディーが視線を向ける。
手前の錫杖のから1km先に数人の人が集まって何かしている。
その向こうに大量の蟲人が二重目の結界に体当たりをしていた。
最初の頃は100匹しか孵らなかったはずなのに、今はもう何百匹いるのか分からないほど、群がっている。
その様子は背筋をゾクッさせるものがある。
「おい、大丈夫なのか、結界に体当たりしてるぞ」
「オンナの成蟲なら問題ない」
と言いながら急ぎ足で、結界の前で待機していた自衛隊員達に近づく。
挨拶もそこそこに錫杖を20本ほど渡されて、特殊スーツのカプセルに仕舞う。
「ディアロプスさんこれが最後の錫杖になります」
もう1人の自衛隊員が熱意のある希望に満ちた目でディーを見ていた。
「退魔師が強力な御札を貼って作った錫杖です。
神社の森の外周に錫杖を立てて結界を張れば我々の土地を奪還することが出来ますね」
「あぁ、そうだな。
行ってくる」
「お願いします。殺られた仲間の分の思いをあなたに託します」
「仲間の無念晴らしてください」
2人の自衛隊員に見送られて、結界内に入る。
ディーは二重目の結界の蟲人の前まで飛ぶように走った。
そこには山伏ぽい格好をした僧らしき人と僧を警護する自衛隊員2人の3人がいた。
退魔師は結界を強化、維持するために結界を貼っている錫杖に何やら祈祷らしきことをやっている。
ディーが自衛隊員に声を掛けた。
「ディアロプスさん、遅いですよ。
どんだけ怖かったか」
「この強化した結界は壊されたことないだろ、大丈夫だ」
と安心させるようにディーが自衛隊員の肩に手を置く。
「まあ、退魔師の方の結界を信じているのでここに居るんですけどね」
ハハハと陽気に彼が笑った。
本心では怖いだろうに、首筋に汗が伝っている。緊張しているのだろう。
「ディー、この自衛隊員の人と仲良さげだね」
「アロ、嫉妬か?」
「違ぇよ、そんなみっともないこと、出来るかってーの」
そっぽ向いた。
ディーは嬉しそうにしている。
解せん。
退魔師の祈祷が終わる。
「今ここから、入れるか」
ディーが退魔師に聞く。
退魔師がチラっとディーを見た。
「あぁ、あんたか、ここは強化したばかりだ、まだ、祈祷の済んで、いない所から入ってくれ」
退魔師は長年使ってきただろう持ち手が黒光りしている錫杖でその場所を指した。
「分かった、助かる。
あんたらも充分気を付けてくれ」
「ありがとう。
ディアロプスさんも気を付けて」
退魔師では無く、ディーの仲の良い自衛隊員が答えた。
良い奴かもしれないなぁ。
ディーは指された場所に飛ぶように走って、すぐに目的の錫杖にたどり着いた。
今さっきの場所から少し離れてた所なのに蟲人がわらわらと集まって来ている。
「アロ入るぞ、心の準備はいいか?
怖いからってお漏らしするなよ」
俺は上を見あげて睨む。
「するかよ、んなコト」
ハハハ
ディーは機嫌良さそうに笑った。
「じゃあ、入るぞ」
「あぁ」
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