第131話 アスカの決意

 7人が帰ってきた次の日も、ネメシスではまだまだお祭り騒ぎが続いていたが、7人は昨日それぞれが宣言した通りに行動する準備を始めていた。

 シルバ以外の6名は早々に帰り支度を整え、昼を待たずしてそれぞれの目的にめがけてネメシスを後にする。


 アスカはキリバスとソフィア、そして王都で息子と技を磨くと約束したラグナとともにエンダンテ王国に帰っていった。





「ぎょっびーん! アスカさん、おかえりなさい!」


 久しぶりにハウスに戻ると、驚いた表情でミーシャが出迎えてくれた。


(うぉ!)


 完全に油断していた。俺は常にこれを欲していたのに、ここで聞ける可能性があることを予想していなかったのだ。


 ミーシャの声を聞いて、他のメンバーも慌てた様子で集まってきて、一頻ひとしきり久しぶりの再会で盛り上がった後、みんなで食堂へと移動した。


「それで、魔王討伐の旅はどうだったの?」


 早速、ミスラがみんなを代表してアスカに冒険談をせがんでくる。

 アスカは、帝都に着いてからピリス村を救ったこと、他のSクラスメンバーのこと、港町コンポートでの魔族退治のこと、ダークネスでの陽動作戦、魔王との戦いを順番に説明していった。


 ピリス村の話は、ここ王都にも奇跡の村として噂が広がっており、"ホープ"のみんなは『多分アスカだろう』とみんなで話していたそうだ。


 その後は、王都、聖都、帝都での魔族撃退の話を聞き、お互いの健闘を称え合った。


「それでアスカはまた学院に戻るのかい?」


 キリバスの一言にアスカの顔がわずかに曇り、神妙な面持ちで道中ずっと考えていたことを静かに語り始める。


「実は、学院には戻らずしばらく旅に出ようかと思っています。今回の旅の中で色々な出来事があって、ちょっと自分を見つめ直したいなって思ったんです。今まで訪れたところを1人でゆっくり回ってみようかと」


「俺は付いていかなくていいのか?」


 ゴードンは何を勘違いしているのだろう。みんなが暗黙の了解でスルーをして、アスカが話を続ける。


「そういうことで、みなさんには申し訳ないのですが、少しの間留守にしますので、クランの方とハウスの管理をよろしくお願いします」


「それは構いませんが、本当にお一人で行かれるので?」


 アスカの表情に気がついたのだろう、ソフィアが心配そうに尋ねてくる。


「はい、一人で行ってきます」


 他のメンバーも、アスカの思いつめたような表情に、何か言いたそうにしていたが、アスカがソフィアの質問に即答したことで、何も言い出せなくなってしまったようだ。


「そうか、せっかく帰ってきたのにまた寂しくなるな」


 その沈黙を破るように、アレックスがぽつりと呟いた。


(アスカ、いいのか?)


(うん、たくさん考えて決めたことだから……)


「それじゃあ、せめて今日くらいはパーっと盛り上がろうや!」


 暗くなりかけた雰囲気を打ち破るように、メリッサが声を上げる。


「そうだな、せっかく魔王を倒して世界を救ったんだから、みんなでアスカに感謝しないとな!」


 トーマも、いつもよりもテンションを上げてメリッサの意見に賛成している。


 そうと決まれば、みんなはすぐに準備に取りかかった。

 女性陣は食料の買い出しに、男性陣は会場設営と飲み物の調達に動く。ミーシャはハンクを誘いにギルドに向かった。


 祝勝会は大いに盛り上がったが、みんな何となくアスカの雰囲気を察し、旅の後どうするのかは触れないようにしているようだった。


(アスカ、楽しかったか?)


(うん、やっぱりこのクランの仲間達は最高だね!)


(それでも、やっぱり行くのか?)


(うん……決めたことだから)


 クランのメンバーとの最後の夜はこうして更けていった。

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