第130話 それぞれのこれから
ネメシスに帰ってきた次の日、魔王討伐の報告のために7人はギルドを訪れた。おそらく、お祭り騒ぎになるだろうから、アスカは黒ローブでの報告だ。
7人がギルドの入り口まで来ると、中からは誰が何体魔族を倒したという話がひっきりなしに聞こえてくる。ほとんど無傷で国を守ったことで、兵士や冒険者達の声も興奮と自信に満ちているようだ。
時折、"キリバス"や"ソフィア"の名前が出てきているのは、それだけ彼らの活躍が目覚しかったからだろう。同じクランのアスカも嬉しそうだ。
そして、ラグナが扉を開けて中に入ると――
一瞬訪れる静寂。その後に起こる割れんばかりの歓声。それからはもう、しばらく大変な騒ぎが続いた。普段はあまり人が近寄らないグリモスやサンドラも、冒険者達に揉みくちゃにされている。
アスカの周りにも人はいるのだが、黒ローブという風貌とその素性がほとんど知られていないことから、若干距離を置かれているようだ。
(素性を隠してるからしかたないけど、こういうところはちょっと寂しそうなんだよな)
「ちょ、ちょっと通してくれ!」
まずは報告しなければならないので、ラグナが人混みをかき分けて報告カウンターへと向かって行く。
「お疲れ様でした! 結果については兵士長から聞いています。これが報酬になります!」
そう言って受付嬢は、重そうな袋を7つカウンターに置いた。
「僕達はほとんど役に立っていなかったけど、これを受け取るのかい?」
クロムが苦笑いをしながら、他のメンバーに確認する。他のメンバーも、アスカに全て渡しそうな雰囲気だったので、アスカは受け取ってもらわないと困ると懇願していた。
「報酬の他にもこれを預かっています」
受付嬢がそう言いながら手渡してきたのは、1枚のカードだった。どうやら、3国共通の身分証で貴族と同じ身分を保証するものらしい。
貴族と同じ扱いになれば色々特権が手に入るが、正直冒険者にとってはそれほど魅力的なものではない。それはみんなも同じ考えだったようで、カードは受け取るが苦笑いしている。
報告が終わった後も、ギルドの中はしばらくは喧騒が収まらず、その輪の中心には7人がいた。
「やれやれ、ようやく解放されたか」
ラグナがそう呟きながら席に着き、7人がようやく一つの席に揃う。
「ふぁいふぇんでふぃふぁね。りゃぐりゃふぁんはうぃんきにょもょべぇふかりゃ」
(なになに、この通訳は俺にしかできないはずだ……『たいへんでしたね。ラグナさんは人気者だから』だな)
(お兄ちゃん、変な才能が身についてるね)
(ふっ、俺の娯楽はこれとあの子の叫び声くらいしかないからな)
「それで、みんなはこの後どうするんだ? 俺は息子のキリバスと一緒に王都に行って少し剣技を磨こうと思う。あいつも相当強くなってるみたいだから、いい訓練になりそうだ」
ラグナは息子が強くなったことも、息子と一緒に過ごせることも嬉しいのだろう、その顔には笑顔が浮かんでいる。
「そうじゃのぅ。わしは初孫の……、うぉっほん、アスカのおかげで新しい魔法の存在も知ることができたからな。ちょっとその辺りを整理して、今一度、魔法について研究してみるとしよう。まだ強くなれるとわかったら、俄然やる気がでてきたわい」
「私もしばらくは、グリモスと一緒に魔法の研究に励んでみるわ。1人より2人の方が
グリモスとサンドラは2人で魔法の研究に勤しむようだ。
「私は聖都に戻って、いつも通りの毎日を過ごすとします」
セーラは自分が望む望まないに関わらず、【聖女】としての役割があるのだろう。ちょっと切なそうにうつむいている。これで両手にドラゴンの肉を持っていなければ、俺も同情してしまったかもしれない……。
「僕も王都に戻って、ドラゴンバスターのメンバーともっと強くなれるように冒険を続けるよ」
クロムは仲間達を思い出しているのだろう、王都の方を見ながら決意を新たにしている。
「私はもちろん、この国に仕える身だからな。国王や国民のために力を尽くす。まあ、アスカがどうしても一緒に来て欲しいというなら、考えなくもないのだが……」
(こいつ結構本気なのか!?)
(お兄ちゃん変なこと言わないでよ。タイプじゃないんだから……)
(そうか、さようならだなシルバ。この国のために頑張っておくれ)
「アスカはどうするんだい?」
ラグナは気軽に聞いたようだが、シルバとグリモスは次の言葉を聞き漏らすまいと、真剣な顔をしてアスカを見つめている。
「私は……とりあえず王都に帰って、クランの仲間達に今回のことを報告したいと思いますが、その後は……」
『その後は……』の続きをこの場でアスカが言うことはなかった。みんなも当然続きの言葉が気になっていたようだが、アスカが考え込んでしまったせいで聞けなくなってしまったようだ。
(何だろう。少しだけ嫌な予感がするな)
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